従来比30倍の高速実験で新しい磁気センサ材料を発見!

〜 AIによるデータ解析・予測による超効率的開発に成功 〜

NIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)

NIMSは、多数の材料組成を短時間で評価できる新しい実験手法を開発し、磁性材料の異常ホール効果の特性を従来の30倍の速さで測定することに成功しました。得られた膨大なデータを機械学習で解析し、その予測に基づいて新しい材料を実証した結果、磁気をより敏感に検出できる新しい磁気センサ材料の開発に成功しました。本研究成果は、9月3日にnpj Computational Materials誌に掲載されました。

概要

従来の課題

異常ホール効果は、磁性体に電流を流すと、電流と磁化(N極-S極の向き)の両方に直交する方向に電圧が発生する現象です。この特性を利用すると、磁化の変化を電気信号として敏感に検出できるため、次世代ハードディスクドライブ用リードヘッドや高性能磁気センサなどへの応用が期待されています。特に、大きな異常ホール効果を示す新規材料として期待される3種類以上の元素を含む多元素磁性合金では、元素の種類と組成比の組み合わせが膨大で(いわゆる「組み合わせ爆発」)、さらに1試料の評価に時間がかかるため、この広大な探索空間はほとんど未開拓のままでした。そのため、薄膜試料の異常ホール効果を高効率に評価できる実験手法と、広大な探索空間から優れた材料を効率的に見出す方法の確立が求められていました。

成果のポイント

今回、当研究チームは、1枚の薄膜試料の中で連続的に組成が変化する「組成傾斜薄膜」を用いて、効率よく評価できる新しい実験手法の開発に成功しました。これにより、1組成あたり約0.2時間で評価でき、従来手法に比べて約30倍の高速化を実現しました。さらに、本手法を用いて、鉄(Fe)に重元素を1種類加えた二元系薄膜の異常ホール効果を系統的に調査しました。その結果をもとに、より大きな効果を示す可能性のある三元系材料(Feと2種類の重元素)を予測する機械学習モデルを構築しました。そして、その予測に基づき探索したFe–Ir–Pt(鉄-イリジウムー白金)系の新材料において、Fe-X二元系材料の最大値(5.25 µΩ cm)を上回る、6.5 µΩ cmの異常ホール抵抗率を観測することに成功しました。

図: Fe1-xXx 組成傾斜薄膜のマルチチャンネル同時測定による異常ホール効果の高速計測。1組成あたり0.2時間で測定でき、従来手法に比べて約30倍の高速化を実現。機械学習により予測されたFe–Ir–Pt系で従来の最大値を更新。

将来展望

本成果は、多数の組成を一度に試せる実験方法(コンビナトリアル実験)と機械学習を組み合わせることで、大きな異常ホール効果を示す新しい薄膜材料を効率的に探索・発見できる手法を実証したものです。今後は、探索対象となる材料空間をさらに拡大することで、より大きな異常ホール効果を示す新材料の発見が期待されます。さらに、大量に得られた測定結果を活用したデータ駆動型材料開発や、より高速な自動・自律型の材料探索システムの実現にもつながると見込まれます。

その他

  • 本研究は、NIMS 磁気機能デバイスグループの遠山 諒 ポスドク研究員(研究当時)、桜庭 裕弥グ ループリーダー、データ駆動型材料設計グループの岩﨑 悠真 主幹研究員らによる研究チームによって実施されました。JST 戦略的創造研究推進事業CREST「未踏探索空間における革新的物質の開発」(JPMJCR21O1)、および文部科学省データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト「データ創出・活用型磁性材料研究拠点」(JPMXP1122715503)の支援を受けています。
  • 本研究成果は、2025年9月3日にnpj Computational Materialsにオンライン掲載されました。

掲載論文

題目 : High-throughput materials exploration system for the anomalous Hall effect using combinatorial experiments and machine learning
著者 : Ryo Toyama, Yuma Iwasaki, Prabhanjan D. Kulkarni, Hirofumi Suto, Tomoya Nakatani, and Yuya Sakuraba
雑誌 : npj Computational Materials
DOI : 10.1038/s41524-025-01757-5
掲載日時 : 2025年9月3日

関連ファイル・リンク

お問い合わせ先

研究内容について

NIMS 磁性・スピントロニクス材料研究センター
磁気機能デバイスグループ グループリーダー
桜庭 裕弥 (さくらば ゆうや)
E-Mail: SAKURABA.Yuya=nims.go.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)
TEL: 029-859-2708
URL: https://www.nims.go.jp/mmu/mmg/ (磁気機能デバイスグループ | NIMS)

報道・広報について

NIMS 国際・広報部門 広報室
〒305-0047 茨城県つくば市千現 1-2-1
E-Mail: pressrelease=ml.nims.go.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)
TEL: 029-859-2026
FAX: 029-859-2017
科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
E-Mail: jstkoho=jst.go.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)
TEL: 03-5214-8404
FAX: 03-5214-8432

支援事業について

科学技術振興機構 戦略研究推進部
グリーンイノベーショングループ
安藤 裕輔 (あんどう ゆうすけ)
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K's五番町
E-Mail: crest=jst.go.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)
TEL: 03-3512-3531
FAX: 03-3222-2066