理事長挨拶
NIMS (国立研究開発法人物質・材料研究機構) 理事長からみなさまへ
2025年01月01日 更新
2025年の年頭にあたりご挨拶
NIMS理事長 宝野 和博
近年、科学技術は目覚ましい速度で進歩を遂げています。特に生成AI、データ科学、自動実験の分野における進展は著しく、世界の科学技術の在り方を大きく変えつつあります。同時に、経済安全保障の重要性が増す中で、科学技術はもはや純粋な学術的追求だけでは語りきれない複雑な課題に直面しています。
2023年4月に開始した第5期中長期計画は、現在2年目を迎えています。この計画は、次世代の社会課題解決と技術革新を目指すものであり、職員一丸となり、「材料で、世界を変える」というビジョンを掲げ、成果の創出に努めております。しかし、計画期間の7年間においても、科学技術を取り巻く環境は日々変化しており、私たちは時代の要請に迅速かつ柔軟に対応する必要があります。
2025年度には、これらの変化に対応するため、「新原理演算素子開発に向けた基礎研究」および「水素関連マテリアルの基盤研究」の2つを新たな重点研究課題として設定します。これらは次世代のエネルギー効率化や持続可能な社会の実現に向けた重要なテーマであり、国際的にも競争の激しい分野です。特に、水素社会の実現に向けた基盤技術では、昨年10月にグリーンイノベーション基金プロジェクトにより整備した「水素環境下材料試験施設」を最大限に活用し、他の研究機関や企業との連携を強化することで、世界をリードする成果を目指してまいります。
また、次世代半導体や経済安全保障への対応も、NIMSが果たすべき重要な役割の一つです。最先端の半導体材料研究は日本の競争力維持において鍵を握るとされており、産官学連携により精力的に推進されています。その基盤となる材料研究は不可欠であり、NIMSでは引き続き、最先端半導体技術センター(LSTC)を通じた研究活動を進めるとともに、次次世代の半導体素子の実用化に向けた基礎研究に取り組んでまいります。
これらの挑戦を円滑に進めるためには、研究環境の整備が不可欠です。研究活動の拡大に伴い、スペース不足が深刻化しているほか、築50年を迎える建物の老朽化が進行しており、情報セキュリティーの確保や高度な実験設備の導入を妨げる要因となっています。この課題を解決するため、新棟の建設を最優先課題として取り組んでまいります。
さらに、国際化の推進、外部資金プロジェクトや企業共同研究の拡大、スタートアップ支援など、多様化するニーズに対応するため、長年固定化されていた事務職員の体制を見直し、増員を実施します。これにより、研究者がより一層研究に専念できる環境を整え、NIMS全体の運営効率を向上させることを目指します。
研究の中心にあるのは、やはり人材です。日本の人口減少が進む中、材料科学技術で国際的な競争力を維持するためには、優秀な人材をグローバルに獲得し育成することが不可欠です。NIMSでは、筑波大学をはじめとする7つの研究大学と連携大学院協定を結び、大学院生をNIMSジュニア研究員として雇用することで、若手研究者に最前線で活躍する機会を提供しています。さらに、東南アジアやインド工科大学との連携を強化し、修士課程レベルからNIMSの先端研究に参加してもらう計画を進めています。また、ポスドクやICYSフェローの処遇を国際水準に引き上げ、JSPSフェローの直接雇用やキャリア支援を強化することで、若手研究者が国際舞台で活躍できるキャリアパスを構築します。このようにして、研究者一人ひとりが能力を最大限発揮できる環境を整えてまいります。
NIMSはこれまでも、「材料で、世界を変える」という信念のもと、多くの成果を生み出してまいりました。基礎研究と社会実装の両立を図りながら、材料科学が持つ無限の可能性を追求していくことが私たちの使命です。2025年は新たな挑戦と発展の年であり、持続可能で豊かな社会の構築に貢献してまいります。
本年も皆様のご支援とご指導を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)
理事長 宝野 和博
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