理事長挨拶
NIMS (国立研究開発法人物質・材料研究機構) 理事長からみなさまへ
2026年01月01日 更新
2026年の年頭にあたりご挨拶

NIMS理事長 宝野 和博
本年は、NIMS創立25周年にあたる年であるとともに、その前身である科学技術庁金属材料技術研究所の創立から70周年、同庁無機材質研究所の創立から60周年という節目の年でもあります。これまで長年にわたり材料研究を支えてこられた多くの先人のご尽力に改めて敬意を表するとともに、その歴史の上に立って、これからも社会に貢献する材料研究を推進していく決意を新たにしております。
世界に目を向けますと、地球環境問題やエネルギー・資源制約、地政学的リスクの高まりなどにより、社会・経済の構造は大きな転換点を迎えています。科学技術の面では、3年前に登場した生成AIが社会全体に大きなインパクトをもたらしています。一方で、その稼働には膨大な電力消費という問題が生じており、今後、革新的な省エネデバイスが生まれなければ、地球環境に深刻な影響を及ぼしかねないことが危惧されます。
世界的に次世代半導体の開発競争が激化するなかで、国を挙げて半導体産業復興へのチャレンジが行われているところですが、日本の素材産業が依然として世界の半導体エコシステムを支える重要な役割を担っているという事実もあります。NIMSとしても、日本の素材産業の強みに連動できるよう、半導体においては二次元材料などの新キャリア材料やニューロモーフィックデバイス、新ナノ配線材料など、将来を見据えた基礎研究を行う半導体材料分野を2025年4月1日にナノアーキテクトニクス材料研究センター(MANA)内に新設し、これに向けた人材の採用を精力的に進めてまいりました。NIMSは、技術研究組合最先端半導体技術センター(Leading-edge Semiconductor Technology Center: LSTC)において次世代半導体の材料研究を分担していますが、この次世代半導体研究とも連携しつつ、さらにその先の将来を見据えた基礎研究を、腰を据えて進めてまいります。
AIがあらゆる分野で業務の革新をもたらすことは、過去3年の推移をみれば疑う余地はありませんが、これは従来の材料開発の手法をも根本的に変えていく可能性を秘めています。そこでNIMSでは、2026年度の重点施策として「AI for Materials」に取り組みます。NIMSは前期(第4期中長期計画期間)からデータ中核拠点(MDPF)の形成に取り組み、データ基盤の整備・運用を進めてきました。2025年9月30日には、文部科学省マテリアル先端リサーチインフラ(ARIM)により収集されたデータの一部共用が開始されました。さらに、収集・蓄積される多様なデータを解析できる機械学習システム「pinax」を立ち上げ、データ駆動型材料研究にデータをご活用いただける環境を整えてきました。
一方で、前期から「スマートラボ」による自動実験の取り組みも進めており、すでに自動化された合成・測定・評価を日常的な研究の一部として活用している研究者も現れています。今後は、データと自動実験をAIで有機的につなぎ、条件探索から実験計画、実行、評価、次の実験提案までを一体として行う「自動自律実験」の実現を目指します。ただし、すべての材料を一つの自動自律実験システムでカバーすることはできません。そのためバルク材料、粉体、溶液、薄膜、分子・高分子など、対象とする材料やプロセスの特性に応じて最適化された複数のシステムを立ち上げ、それらとMDPFのデータ基盤をAIで連携させることで、材料研究を飛躍的に加速する自動自律実験プラットフォームの構築を目指します。
さらに、エネルギー・環境分野や経済安全保障への貢献も、NIMSが果たすべき重要な使命です。2025年度に新たな重点研究課題として設定した「水素関連マテリアルの基盤研究」をさらに発展させるとともに、カーボンニュートラルや資源循環社会の実現に資する材料、レジリエントな社会基盤を支える構造材料などの研究を戦略的に推進してまいります。特に、昨年度整備した「水素環境下材料試験施設」をはじめとする共用基盤を最大限活用し、国内外の大学・研究機関・企業との連携を一層強化することで、世界をリードする成果の創出を目指します。
こうした挑戦を継続的に生み出すためには、研究基盤・研究環境の整備が不可欠です。研究活動の拡大に伴うスペース不足や老朽化施設への対応は依然として大きな課題であり、新棟建設によるスペース問題の抜本的な解決に取り組んでまいります。
言うまでもなく、研究の中心にあるのは「人」です。人口減少と国際的な人材獲得競争が進むなかで、材料科学分野で我が国が持続的にリードするためには、多様で優秀な人材を世界中から惹きつけ、育成し、活躍してもらうことが不可欠です。将来NIMSに変革をもたらす若手人材をいかに発掘し、その成長と活躍の場を提供していくかという課題に取り組んでまいります。その一環として、国内においては、NIMSは筑波大学をはじめとする研究大学7校との連携大学院協定を結び、大学院生をNIMSジュニア研究員として雇用し、経済的な不安なく博士課程に進学できる環境を実現するだけでなく、研究面でも最先端の環境を提供してきました。
人口減少が進む日本国内だけで材料分野のタレントを探すことには限界があります。そのためNIMSでは、優秀な人材の発掘を国際的な視野で捉え、とりわけ今後大きな人流が期待される東南アジアやインドを重要なパートナーと位置づけています。その具体的な取り組みとして、すでにインド工科大学(IIT)10校およびインド理科大学院(IISc)との間で国際連携大学院協定(International Cooperative Graduate Program: ICGP)を締結しています。さらにその一部とは、教員と大学院生が研究滞在を行うJoint Research Centerへと発展しており、共同研究や人材交流の面で着実に成果を上げつつあります。将来の材料科学を担う若手人材がNIMSで学び、研究し、次のステージへ飛躍していくための国際的な人材循環のエコシステム構築を目指します。
また、ポスドク、若手国際研究センター(ICYS)リサーチフェロー、日本学術振興会(JSPS)特別研究員といった若手研究者の処遇改善とキャリア支援を一層進めてまいります。研究者一人ひとりが、より良い研究環境のもとで能力を最大限に発揮し、挑戦と協働の文化を育むことこそが、NIMSにとって最も重要な資産であると確信しています。我が国の科学技術を支える若手研究者のキャリア形成過程において、NIMSが魅力的で「選ばれる」選択肢の一つでありたいと思っています。
本年も引き続き、皆様の変わらぬご支援とご指導を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)
理事長 宝野 和博

過去のご挨拶
-
2025年1月1日
-
2024年1月1日
-
2023年4月1日
-
2023年1月1日
-
2022年4月1日