巨大地震に耐える新鋼材:優れた耐久性と変形の仕組みを解明

〜 溶接性×疲労耐久性を両立した新鋼材の、疲労特性の理解を深化 〜

NIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)

NIMSは、巨大地震から建物を守る鋼材ダンパーの高性能化に向け、2021年に溶接時に割れにくい新鋼材、FMS合金(Fe(鉄)-Mn(マンガン)-Si(シリコン)合金)を開発しました(2021年プレスリリース「溶接しても超長疲労寿命な第二世代FMS合金を開発」)。本研究では、幅広い変形レベルに対して優れた耐久性を示すこの新鋼材の変形の仕組みを明らかにしました。この成果は鋼材ダンパーの長寿命化・高耐力化・汎用性向上につながり、巨大地震に備える安全で強靭な都市インフラの実現に大きく貢献するものです。本研究成果は2025年11月19日付で国際科学誌『Materials Science and Engineering: A』に掲載されました。

概要

従来の課題

鋼材ダンパーは、地震の際に変形することで揺れのエネルギーを吸収し、建物の損傷を抑える部材です。その耐久性は「繰り返される変形(金属疲労)にどれだけ耐えられるか」で決まります。特に、長く続く大きな揺れが懸念される巨大地震に備えるには、きわめて高い耐久性が求められます。NIMSではこれまで、疲労耐久性に優れ、かつ建物部材として組み立てやすい溶接性を兼ね備えた新鋼材を開発してきましたが、地震の規模によってダンパーの変形量は大きく変わるため、どのような揺れに対しても安定した性能を発揮できるかを実験で確かめることが、実用化に向けた課題でした。

成果のポイント

今回、新しく開発した鋼材に対して、さまざまな変形レベルで繰り返し変形を与える試験(疲労試験)を行いました。その結果、小さな変形から大きな変形までの幅広い条件で耐久性を維持できることがわかりました。特に巨大地震を想定した条件では、一般的な鋼材と比べて最大約20倍の耐久性を示すことが確かめられました。また、金属疲労プロセスにおける金属内部組織の変化を詳細に解析することで、新鋼材に特異的にみられる破断まで緩やかに続く硬化が、徐々に進行する結晶構造の変化とそれに伴う組織の微細化に起因することを解明することにも成功しました。この知見は今後のダンパー設計に大きく貢献する重要な成果です。

図: 変形の大きさ(全ひずみ振幅)と耐久性(疲労寿命)の関係 : 新鋼材である第二世代FMS合金は優れた耐久性を有する。

将来展望

今後、溶接を含めた鋼材ダンパーの製造、実機での評価を進め、社会への実装を目指します。幅広い変形条件で安定した耐久性を示す新鋼材を活かすことで、巨大地震にも耐える、安全で強靭な都市インフラの実現に貢献します。

その他

  • 本研究は、NIMS構造材料研究センター加工熱処理プロセスグループの吉中 奎貴 主任研究員、澤口 孝宏 上席研究員、江村 聡 主幹研究員、同センター溶接・接合技術グループの柳樂 知也 グループリーダー、NIMS技術開発・共用部門材料溶解創製ユニットの高森 晋 主任エンジニア、株式会社竹中工務店技術研究所からなる研究チームによって行われました。
  • 本研究は、JST研究成果最適展開支援プログラムA-STEP(JPMJTR203B)、JSPS科学研究費助成事業若手研究 (23K13227)、池谷科学技術振興財団研究助成の支援の下で行われました。
  • 本研究成果は、2025年11月19日にMaterials Science and Engineering: A誌にオンライン掲載されました。

掲載論文

題目 : Low cycle fatigue and microstructures of Fe–15Mn–11Cr–7.5Ni–4Si alloy
著者 : Fumiyoshi Yoshinaka, Takahiro Sawaguchi, Tomoya Nagira, Susumu Takamori, Satoshi Emura, Yasuhiko Inoue
雑誌 : Materials Science and Engineering: A
DOI : 10.1016/j.msea.2025.149457
掲載日時 : 2025年11月19日

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NIMS 構造材料研究センター
材料創製分野 加工熱処理プロセスグループ
主任研究員
吉中 奎貴 (よしなか ふみよし)
E-Mail: YOSHINAKA.Fumiyoshi=nims.go.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)
TEL: 029-859-2642

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