レアアースも液体ヘリウムも不要!
ありふれた元素からなる極低温冷却材料を開発

〜 医療用MRIや量子コンピューター冷却への応用に期待 〜

NIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)

NIMSは大島商船高等専門学校と共同で、レアアース金属や液体ヘリウムを一切使用せずに極低温(約4K=マイナス269℃以下)を実現できる、銅・鉄・アルミニウムといったありふれた元素のみからなる新しい蓄冷材料を開発しました。三角格子が生み出す、スピン同士が互いの向きを同時に満たせない『フラストレーション』という一部の磁性体がもつ特殊な性質を利用することで、従来レアアースに依存していた極低温冷却に代わる新たな手法を示した成果です。液体ヘリウム不足への対応に加え、今後需要が拡大する医療用MRIや量子コンピューターの安定冷却への応用が期待されます。本成果は、12月22日に英国科学誌 Scientific Reports に掲載されました。

概要

従来の課題

主に医療用MRIなどに広く用いられている極低温冷却技術は、供給不安や資源枯渇が懸念される液体ヘリウムやレアアース元素に強く依存しているという問題がありました。たとえば、現在の蓄冷材に使われているホルミウムは、年間採掘量が100トンしかなく偏在しているため、今後、極低温冷却の需要が大きくのびることが見込まれる中、こうした希少資源に頼らない新しい冷却技術の開発が強く望まれていました。

成果のポイント

今回、NIMSと大島商船高等専門学校の研究チームは、レアアース金属元素を一切含まず、銅・鉄・アルミニウムといった豊富な元素だけで構成される物質を用いた、液体ヘリウムを使わずに極低温まで冷やす機械式冷凍機(GM冷凍機)用の蓄冷材を開発しました。三角格子と呼ばれる特殊な結晶構造をもつ磁性体に特有のスピンの向きが極低温まで揃いにくくなる「フラストレーション」という効果を利用することで、遷移金属でありながら極低温で大きな比熱を示すことを実現したものです。従来のレアアース(ホルミウム化合物)を含む冷却材と同程度の性能を達成しています。レアアース元素を用いない冷凍機用の磁性蓄冷材が実用レベルの性能を示したのは、今回が初めてです。

図: 1960年代のGM冷凍機では鉛(Pb)が蓄冷材として用いられていましたが、1990年代にはレアアース金属化合物HoCu2が導入され、冷却性能が大きく向上しました。今回開発したレアアースフリー蓄冷材CuFe0.98Al0.02O2(CFAO)は、これらに匹敵する冷却能力を持ちながら、豊富な元素のみで構成されるため、持続可能で環境負荷の少ない極低温冷却技術につながります。

将来展望

今回開発した蓄冷材料は、豊富な資源を用いているため持続可能性が高く、環境負荷が少ないという特徴があります。そのため、今後需要の拡大が予想される医療用MRIや量子コンピューターの極低温冷却への応用が期待されます。

その他

  • 本研究は、NIMS 磁性・スピントロニクス材料研究センター グリーン磁性材料グループの寺田 典樹 主席研究員、間宮 広明 主席研究員、齋藤 明子 主席研究員、および大島商船高等専門学校の増山 新二 教授からなる研究チームによって、JST 研究成果最適展開支援プログラム A-STEP事業「希土類元素を含まない極低温度冷凍機用蓄冷材料の開発」(研究代表者: 寺田 典樹)の一環として実施されました。
  • 本研究成果は、2025年12月22日に英国科学誌 Scientific Reports にてオンライン掲載されました。

掲載論文

題目 : Innovative Cryogenic Cooling Material Using Spin Frustration from Abundant Elements
著者 : Noriki Terada, Hiroaki Mamiya, Akiko T. Saito, and Shinji Masuyama
雑誌 : Scientific Reports
DOI : 10.1038/s41598-025-29709-5
掲載日時 : 2025年12月22日

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研究内容について

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主席研究員
寺田 典樹 (てらだ のりき)
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TEL: 029-860-4627

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