熱を電気に変える「ナノ界面」をマクロに三次元形成した磁性体を開発
— 熱エネルギーの有効活用に向けた新たな材料設計の指針 —2026.07.21
NIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)
国立大学法人東京大学大学院新領域創成科学研究科
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)
NIMSと東京大学からなる研究チームは、磁性を持つ絶縁体粉末の表面を金属で被覆し、これを押し固めることで、材料内部全体に三次元ナノ界面が分布する新しい複合体を開発しました。この構造を用いて、従来はナノスケールの薄膜界面でのみ観測されてきた絶縁体中のスピンによって駆動される熱電変換を、マクロスケールの材料で観測することに成功しました。この研究成果は、絶縁体中の熱エネルギーを有効活用するための新たな材料設計指針を与えるものであり、7月21日にNature Communications誌に掲載されます。
従来の課題
身の回りに存在する膨大な廃熱・未利用熱を電気エネルギーとして活用する熱電変換は、エネルギー利用効率の向上やカーボンニュートラルの実現に向けた重要な技術の一つです。スピンゼーベック効果は2008年に日本で発見された物理現象であり、磁性体に温度勾配を与えることでスピン流を介した熱電変換が可能となります。しかし、従来のスピンゼーベック素子は、磁性体と金属薄膜の積層構造であるため、素子を厚くすることや多層化することによる出力電力の向上には限界がありました。
成果のポイント
今回、研究チームは、磁性絶縁体であるイットリウム鉄ガーネット(YIG)粉末の表面を白金(Pt)で被覆し、低温・高圧で押し固めることで、YIGとPtのナノスケール界面が材料内部全体に三次元的に分布するバルク複合体を開発しました。この複合体では、従来の薄膜積層素子とは異なり、バルク内部全体に分布した界面を利用したスピンゼーベック効果による熱電変換が可能となります(図)。作製したYIG-Ptバルク複合体においてスピンゼーベック効果が発現することを実証するとともに、材料内部に分散した金属経路を利用することで厚み方向のスケールアップに有利となることを示しました。本成果は、ナノスケールの界面現象をマクロスケールのエネルギー変換へ繋げる「トランススケール」スピンゼーベック効果の概念を実証したものです。
図: 従来型スピンゼーベック素子とトランススケール・スピンゼーベック素子の概念図。従来構造(a)では、スピン流の寄与は磁性体と金属の界面近傍のみに現れる(b)。一方、今回開発した複合体(c)では、金属が材料内部に三次元的に分散しており(d)、バルク全体を使ったスピン流生成とスピンゼーベック効果による熱電変換が可能となる(e)。
将来展望
本成果により、ナノスケール界面を材料内部全体に三次元的に形成することで、薄膜界面に限られていたスピン熱電現象をバルク材料へ拡張できることが示されました。今後、三次元界面構造の設計・制御や材料の最適化により、熱電変換性能のさらなる向上が期待されます。従来の熱電変換技術では利用できなかった絶縁体中の熱エネルギーをマクロスケールの材料で電気エネルギーに変換可能であることを実証したことで、新たな熱マネジメントデバイスの開発に繋がる可能性が生まれました。
その他
- 本研究は、NIMS 磁性・スピントロニクス材料研究センターのSang Jun Park (サンジュン パク) 博士研究員、内田 健一 上席グループリーダー(兼 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 物質系専攻 教授)、東京大学 大学院新領域創成科学研究科 物質系専攻の平田 圭佑 助教(研究開始当時 豊田工業大学 助教)らの研究チームによって、JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO「内田磁性熱動体プロジェクト」(研究総括:内田健一、課題番号:JPMJER2201)の支援のもと行われました。
- 本研究成果は、2026年7月21日にNature Communications誌に掲載されます。
掲載論文
題目 : Trans-scale spin Seebeck effect in nanostructured bulk composites based on magnetic insulator
著者 : Sang J. Park*, Keisuke Hirata, Hossein Sepehri-Amin, Fuyuki Ando, Takamasa Hirai, and Ken-ichi Uchida
雑誌 : Nature Communications
DOI : 10.1038/s41467-026-75232-0
掲載日時 : 2026年7月21日
著者 : Sang J. Park*, Keisuke Hirata, Hossein Sepehri-Amin, Fuyuki Ando, Takamasa Hirai, and Ken-ichi Uchida
雑誌 : Nature Communications
DOI : 10.1038/s41467-026-75232-0
掲載日時 : 2026年7月21日
お問い合わせ先
研究内容について
E-Mail: UCHIDA.Kenichi=nims.go.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)
TEL: 029-859-2062
URL: https://www.jst.go.jp/erato/uchida/ (JST ERATO 内田磁性熱動体プロジェクト)
URL: https://uchida-lab.k.u-tokyo.ac.jp/ (NIMS スピンエネルギーグループ / 東京大学 内田・中西研究室)
TEL: 029-859-2062
URL: https://www.jst.go.jp/erato/uchida/ (JST ERATO 内田磁性熱動体プロジェクト)
URL: https://uchida-lab.k.u-tokyo.ac.jp/ (NIMS スピンエネルギーグループ / 東京大学 内田・中西研究室)
報道・広報について
NIMS 国際・広報部門 広報室
〒305-0047 茨城県つくば市千現 1-2-1
〒305-0047 茨城県つくば市千現 1-2-1
E-Mail: pressrelease=ml.nims.go.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)
TEL: 029-859-2026
FAX: 029-859-2017
TEL: 029-859-2026
FAX: 029-859-2017
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 広報室
〒277-8561 千葉県柏市柏の葉 5-1-5
〒277-8561 千葉県柏市柏の葉 5-1-5
E-Mail: press=k.u-tokyo.ac.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)
TEL: 04-7136-5450
TEL: 04-7136-5450
科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町 5-3 サイエンスプラザ
〒102-8666 東京都千代田区四番町 5-3 サイエンスプラザ
E-Mail: jstkoho=jst.go.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)
TEL: 03-5214-8404
FAX: 03-5214-8432
TEL: 03-5214-8404
FAX: 03-5214-8432
支援事業について
科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部
推進第1グループ
中村 亮二
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
推進第1グループ
中村 亮二
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
E-Mail: eratowww=jst.go.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)
TEL: 03-3512-3528
TEL: 03-3512-3528