「横型トムソン効果」の観測に世界で初めて成功
〜 トムソン効果発見から170年 新原理により次世代熱マネジメント技術の創出へ 〜2025.06.26
NIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)
国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学
国立大学法人東京大学
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)
NIMSは、名古屋大学・東京大学との共同研究により、金属や半導体に熱流、電流、磁場を互いに直交する方向に印加すると吸熱や発熱が発生する現象「横型トムソン効果」を観測することに世界で初めて成功しました。本研究により、熱・電気・磁気変換現象に関する物理および物質・材料科学のさらなる発展や、新たな熱マネジメント技術の創出が期待されます。この研究成果は、6月26日にNature Physics誌に掲載されます。
概要
従来の課題
熱力学や電磁気学の開拓者の1人であるウィリアム・トムソンの名を冠するトムソン効果は、ゼーベック効果とペルチェ効果と並ぶ基本的な熱電効果の一つであり、金属や半導体に熱流と電流を同じ方向に流した際に吸熱または発熱が発生する現象です(図 a-c)。これらの現象は、熱流(または温度勾配)と電流が平行であるため“縦型”熱電効果と呼ばれます。一方、ネルンスト効果やエッチングスハウゼン効果と呼ばれる熱流と電流が直交した方向に変換される“横型”熱電効果が、シンプルな素子構造で動作する熱マネジメント原理として近年注目を集めています(図 d, e)。現在も世界中で縦型および横型熱電効果に関する物質・材料研究やデバイス開発が進められていますが、現象自体の発見は1800年代にまでさかのぼります(図 a-e)。しかし、トムソン効果の“横型版”の現象は、その存在は示唆されていたものの、これまで実験的に観測されたことがありませんでした。
成果のポイント
今回、当研究チームは、熱流、電流、磁場を互いに直交する方向に印加した際に、ビスマス-アンチモン合金において従来の熱電効果では説明できない吸発熱信号を観測しました。この吸熱・発熱は磁場方向の反転によって切り替え可能であり、横型トムソン効果から期待される振る舞いと一致しました(図 f)。横型トムソン効果はネルンスト効果とエッチングスハウゼン効果が同時に発現することによって生じ、従来のトムソン効果とは本質的に異なる現象です。

図: 縦型・横型熱電効果の模式図
将来展望
本研究は、実験的に未開拓であった熱電変換現象を世界で初めて観測したものであり、熱電分野の歴史に新たな一歩を刻むものです。今後の研究により大きな横型トムソン効果を示す物質が発見されれば、材料や素子全体に発生する吸発熱を磁場方向で能動的に制御できる新技術に繋がる可能性があります。
その他
- 本研究は、名古屋大学大学院工学研究科機械システム工学専攻の髙萩 敦 大学院生(兼 NIMS研修生)が博士課程研究の一環として進めたものであり、NIMS 磁性・スピントロニクス材料研究センターの内田 健一 上席グループリーダー(兼 東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 教授)、平井 孝昌 主任研究員、Sang Jun Park (サン ジュン パク)NIMSポスドク研究員、名古屋大学大学院工学研究科機械システム工学専攻の長野 方星 教授、Alasli Abdulkareem(アルアスリ アブドゥルカリーム)特任講師との共同研究によって得られました。
- 本研究は、JST戦略的創造研究推進事業ERATO「内田磁性熱動体プロジェクト」(研究総括:内田健一、課題番号:JPMJER2201)、JSPS 科学研究費助成事業 基盤研究(S) (22H04965)、基盤研究(B) (19H02585)、特別研究員奨励費 (23KJ1122)の支援の下で行われました。
- 本研究成果は、2025年6月26日にNature Physics誌にオンライン掲載されます。
掲載論文
題目 : Observation of the transverse Thomson effect
著者 : Atsushi Takahagi, Takamasa Hirai, Abdulkareem Alasli, Sang Jun Park, Hosei Nagano, and Ken-ichi Uchida
雑誌 : Nature Physics
DOI : 10.1038/s41567-025-02936-3
掲載日時 : 2025年6月26日
著者 : Atsushi Takahagi, Takamasa Hirai, Abdulkareem Alasli, Sang Jun Park, Hosei Nagano, and Ken-ichi Uchida
雑誌 : Nature Physics
DOI : 10.1038/s41567-025-02936-3
掲載日時 : 2025年6月26日
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研究内容について
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長野 方星
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