超分子技術で量子マテリアルを構築

— 有機分子を用いてトポロジカルエッジ状態を直接観測 —

NIMSは、豊田高専、佐賀大学、奈良女子大学、ドイツ・キール大学などとの共同研究により、ハニカム格子とカゴメ格子の両方の性質をもつ2次元構造を有機分子で作製し、トポロジカル物質に特有のエッジ状態(内部とは異なる「端」にのみ存在する状態)が現れることを発見しました。有機分子は構造を柔軟に設計できる一方、分子同士を電子的に強く結びつけることが難しく、これまでトポロジカル物質の合成は無機材料が中心でした。今回、有機分子の集積体(超分子)で特殊な電子状態を実現したことは、有機分子を使った新たな量子マテリアルの設計につながります。この研究成果は、9月2日にNano Letters誌にて掲載されました。

従来の課題

量子技術は社会を根本から変えていくことが期待される革新的な技術ですが、今後の一層の発展のためにはその基盤となる量子マテリアルの開発が不可欠です。しかし、これまでに知られている量子マテリアルはそのほとんどが無機材料からできており、設計と合成の柔軟性に大きな問題がありました。一方で、有機分子が集まって形成される超分子構造には、柔軟な設計が可能であるという特徴があります。しかし、超分子は一般的に構成要素間の電子的な結合が弱く、量子マテリアルとして利用するには適していませんでした。そのため、有機分子をベースにした量子マテリアルの新たな設計方法の開発が望まれていました。

成果のポイント

今回、研究チームは、トリプチセン分子を拡張した有機分子(トリプチセン誘導体、図 左を参照)を構成単位として組み上げることで、ハニカム格子とカゴメ格子の両方の性質をもつ2次元構造(2原子カゴメ格子)を作ることに成功しました。ハニカム格子はグラフェン(グラファイトの一層分)の持つ、その名の通り蜂の巣(ハニカム)のような構造の格子であり、カゴメ格子は日本の伝統工芸の籠目に似た構造をもつ格子で、それらの特異な電子状態のために、近年、極めて盛んに研究が行われています。それらのハイブリッドとも言える2原子カゴメ格子を実際の物質でつくったのは、これまでにほとんど例がありません。

さらに、研究チームが作製した試料を走査トンネル顕微鏡で観測したところ、有機分子の2次元構造とその外部との境界(エッジ)の領域にのみ存在する特殊な電子状態を発見しました。詳細な理論解析を行ったところ、この状態は数学的な構造(トポロジー)に由来する、トポロジカルエッジ状態であることがわかりました。これは、この試料の量子マテリアルとしての性質を明瞭に示しています。また、有機分子からできているにも関わらずこのような状態をもつのは、有機分子同士が強く結合しているためであり、これはトリプチセン誘導体を構成する3つの平面がプロペラ型に立体的に配置され、隣どうしで互いに接触することに由来しています(図 右のt1)。このようなユニークな分子構造を設計・合成して実際に超分子として集積化できたことが、本研究成果が得られた要因です。

図: (左) 今回使用したトリプチセン誘導体の分子構造。 (中央) トリプチセン誘導体を集積して作製した超分子の形状(上)およびその端に存在するトポロジカルエッジ状態(下)を示す走査トンネル顕微鏡像。 (右) トリプチセン誘導体からできた超分子の模式図。プロペラ状のグレーの領域がトリプチセン誘導体を表す。

将来展望

今後は今回の成果をもとにして、量子技術の応用に向けたマテリアルの開発を加速していきます。たとえば、このようなユニークな格子構造を利用することで、高移動度の半導体的な状態と超伝導状態との切り替えや、超高速・超低消費電力の光スイッチング、さらには室温での無損失エネルギー輸送が可能になるかも知れません。また、有機分子のもつ設計の柔軟性を活かして、さまざまな量子マテリアルを実現していきます。

その他

  • 本研究は、NIMS ナノアーキテクトニクス材料研究センターの内橋 隆 副センター長、荒船 竜一 主幹研究員、若林 克法 グループリーダー、豊田高専の阿波賀 邦夫 校長、佐賀大学の水津 理恵 准教授、奈良女子大学の土射津 昌久 准教授、ドイツ・キール大学のRichard Berndt 教授などからなる研究チームによって、JSPS科研費 (課題番号25H00867, 25K01670, 20H05621, 20H02707, 23K03322, 25K01609, 22H05473)、JST さきがけ (課題番号JPMJPR21A9)、文部科学省トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の一環として行われました。
  • 本研究成果は、2026年9月2日に米国化学会発行のNano Lettersオンライン版にて掲載されました。

掲載論文

題目 : Direct Observation of the Zigzag Edge States of a Supramolecular Diatomic Kagome Lattice
著者 : Ryohei Nemoto, Xiangzhi Meng, Behzad Mortezapour, Alexander Weismann, Saya Nakano, Masahisa Tsuchiizu, Ryuichi Arafune, Noriaki Takagi, Sho Nakamura, Katsunori Wakabayashi, Rie Suizu, Richard Berndt, Takashi Uchihashi, and Kunio Awaga
雑誌 : Nano Letters
DOI : 10.1021/acs.nanolett.6c03195
掲載日時 : 2026年9月2日

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研究内容について

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副センター長
内橋 隆 (うちはし たかし)
E-Mail: UCHIHASHI.Takashi=nims.go.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)
TEL: 029-860-4150
豊田工業高等専門学校
校長
阿波賀 邦夫
E-Mail: awaga=toyota-ct.ac.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)
TEL: 0565-32-8811
佐賀大学 シンクロトロン光応用研究センター
准教授
水津 理恵
E-Mail: rsuizu=cc.saga-u.ac.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)
TEL: 0952-28-8854
URL: http://www.slc.saga-u.ac.jp (佐賀大学シンクロトロン光応用研究センター)
奈良女子大学 研究院自然科学系
准教授
土射津 昌久
E-Mail: tsuchiiz=cc.nara-wu.ac.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)
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