令和7年度文部科学大臣表彰をNIMS職員14名が受賞

令和7年度科学技術分野の文部科学大臣表彰において、NIMS職員14名が受賞しました。

本表彰は、科学技術に関する研究開発、理解増進などにおいて顕著な成果をおさめた人々の功績をたたえることで、科学技術に携わる人々の意欲向上を図り、日本の科学技術水準の向上に寄与することを目的として文部科学省が定めるものです。
今年度の受賞者は、以下の14名です。

【科学技術賞 (科学技術振興部門) 】 吉川 英樹松波 成行藤原 康裕藤間 淳
【若手科学者賞】 天神林 瑞樹西口 昭広増田 啓介南 皓輔
【研究支援賞】 津谷 大樹渡辺 英一郎池田 直樹大井 暁彦
【創意工夫功労者賞】 細谷 順子諸永 拓

科学技術賞 (科学技術振興部門) : 4名

科学技術の振興に寄与する活動を行った者を対象に贈られる賞です。

受賞者

吉川 英樹 (よしかわ ひでき)
技術開発・共用部門
データ創出・活用型データ連携部会運営室
上席室長

松波 成行 (まつなみ しげゆき)
技術開発・共用部門
マテリアル先端リサーチインフラセンターハブ
代表

藤原 康裕 (ふじわら やすひろ)
技術開発・共用部門
材料データプラットフォーム
データ活用ユニット
主幹エンジニア 

藤間 淳 (ふじま じゅん)
技術開発・共用部門
材料データプラットフォーム
データ活用ユニット
主幹エンジニア

【業績名】
材料データDX推進のシステム基盤構築と全国共有化の振興

材料分野において膨大な研究データはAIの学習データとして貴重であり、マテリアル革新力強化の政府戦略でも高品質な実験データ創出力を活用することが謳われている。しかし一部のデータは論文として公開されるが、ほとんどのデータは再利用されることなく死蔵される。そのため研究現場で生産されるデータを他者が再利用できる形に翻訳するいわゆるデータ構造化を行った後に蓄積する仕組みが喫緊の課題であった。
本活動では、全国の研究現場からデータをオンラインで収集し構造化する自動処理技術を共用できるデータ処理&蓄積システムResearch Data Express(RDE)をパブリッククラウド上に構築した。
本活動により、多数種のデータ構造化技術が共用され、実験装置のメーカーの違いによりデータが比較困難であった課題が解消し、合成加工プロセス・計測・特性評価・理論計算の多様な材料研究データを統合して再利用することが容易となった。
本成果は、2023年1月にシステムがサービスを開始以来マテリアルDXプラットフォーム構想の中核的なシステムとしてARIM、DxMT、SIP3、JST ALCA-SPRING、GteX、CRESTなどの公的な研究プロジェクトのDXに寄与している。

若手科学者賞 : 4名

萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満(出産・育児により研究に専念できない期間があった場合は、42歳未満)の若手研究者を対象に贈られる賞です。

受賞者

天神林 瑞樹 (てんじんばやし みずき)
ナノアーキテクトニクス材料研究センター
独立研究者

【業績名】
動的濡れ性制御による液滴輸送技術の研究

液状食品の容器への付着など、液体の基材表面への不本意な付着は様々な産業で問題視されている。そこで付着損失なく液体を輸送するための撥水・撥油性表面の開発が求められる。しかし、これまでの表面では有機溶媒などの表面張力の低い液体や、ミストなどのμmサイズの液滴の付着抑制が困難であった。
受賞者は液体の動力学的安定性に着目した表面設計により、水・油・有機溶媒を僅かな傾斜で滑落可能な撥液性コーティング剤を開発した。さらに、撥液処理をμm液滴に施す独自手法を用い、μm水滴を付着損失なく自在に輸送する技術を開発した。
本研究成果は、液体の付着に起因するエネルギー損失や環境汚染の低減に貢献すると期待される。

受賞者

西口 昭広 (にしぐち あきひろ)
高分子・バイオ材料研究センター
主幹研究員

【業績名】
高分子間相互作用制御による組織再生ハイドロゲル開発の研究

ハイドロゲルは、分子網目内に多量の水を含むソフトマテリアルであり、組織再生を促進するバイオマテリアルとして医療応用が期待されている。一方で、ハイドロゲルの構造や機能を制御する手法は確立されておらず、その医療応用は進んでいない。
受賞者は、高分子間相互作用制御に基づき、材料の物理化学的・生物学的特性を分子レベルで制御することで、生体適合性と操作性に優れ、組織再生能を有するハイドロゲルを開発した。
本研究成果は、細胞や薬剤との複合材料および組織工学用の足場材料として再生医療や創薬モデル構築、ドラッグデリバリーキャリアへの応用が期待される。
 

受賞者

増田 啓介 (ますだ けいすけ)
磁性・スピントロニクス材料研究センター
磁性理論グループ
主任研究員

【業績名】
トンネル磁気抵抗効果の新規メカニズムに関する理論研究

トンネル磁気抵抗効果は磁気センサーや磁気メモリに応用されるスピントロニクス現象であるが、この効果を更に増大させる指針や実用上の律速となる大きな温度依存性の起源については未解明な点が多かった。
受賞者は、非従来型の磁気デバイス構造に着目し、新規メカニズムによる巨大なトンネル磁気抵抗効果が発現しうることを理論予測した。また、トンネル磁気抵抗効果の大きな温度依存性が磁気デバイスの接合界面におけるs-d交換相互作用に起因することを初めて明らかにした。
本研究成果は、物性理論の見地から実用磁気デバイス開発に重要な知見を与えるものである。具体的には、トンネル磁気抵抗デバイスの更なる小型化や室温での特性向上に向けたデバイス構造や材料選択の設計指針になると期待される。

受賞者

南 皓輔 (みなみ こうすけ)
高分子・バイオ材料研究センター
嗅覚センサグループ
主幹研究員

【業績名】
相界面における吸脱着現象の解明と化学センサに関する研究

早期診断・スクリーニングには、多様な検査目標を網羅的に調べる必要がある。しかし、各検査目標に対応した専用センサをそれぞれ開発することは、技術的にもコスト的にも課題が多い。
受賞者は、化学センサ感応膜の固–気相界面における吸脱着現象を理論的に解明することで、堅牢な化学センサ開発の指針を見出した。さらに、化学センサ開発における「プローブを作り、標的を検出する」という従来の固定概念にとらわれず、逆転の発想から、全く新しいパターン認識による固体材料識別法を確立した。この新たな手法により、多様な検査目標を検出可能なセンサ手法を開発した。
本研究成果は、分子レベルからタンパク質、ウイルスなどの大きさのナノ粒子に至るまで、幅広い大きさの多種多様な検査目標を同一の手法で識別できる画期的な技術であり、新たな医療診断・スクリーニングの手法として発展すると期待される。

研究支援賞 : 4名

高度で専門的な技術的貢献を通じて研究開発の推進に寄与する活動を行い、顕著な功績があった者を対象に贈られる賞です。

受賞者

津谷 大樹 (つや だいじゅ)
技術開発・共用部門
材料創製・評価プラットフォーム
微細加工ユニット
ユニットリーダー

渡辺 英一郎 (わたなべ えいいちろう)
技術開発・共用部門
材料創製・評価プラットフォーム
微細加工ユニット
主任エンジニア

池田 直樹 (いけだ なおき)
技術開発・共用部門
材料創製・評価プラットフォーム
微細加工ユニット
主任エンジニア

大井 暁彦 (おおい あきひこ)
技術開発・共用部門
材料創製・評価プラットフォーム
微細加工ユニット
主任エンジニア

【業績名】
超微細加工プロセス技術による先端デバイス開発への貢献

超微細加工プロセス技術は半導体のみならず、多くのデバイス分野で必要とされているが、共用のクリーンルームでは異種材料による汚染を防ぐために、材料やデバイスを制限している例が多い。近年、多様な材料系でのデバイス開発の需要が急速に高まっており、これらの最先端研究を促進するための共用施設への期待が高まっていた。
本業績では、施設・設備の運用管理を工夫することによって、材料制限のないデバイス研究開発共用拠点を確立し、これまでに民間企業100社以上、大学・研究所50機関以上への技術支援を提供してきた。また、二次元層状物質を用いたプロセス技術や高精密ドライエッチング技術の開発に独自に取り組み、これらの技術支援によって多くの成果創出に貢献した。
本業績の支援を受け、世界で初めてグラフェンを用いた結合量子ドットデバイスの動作実証に成功した。超微細加工によって、2つの近接した量子ドットや電極等を一枚のグラフェンシートで作製する技術を開発した。また、描画技術とエッチング技術を駆使して、アルミニウム薄膜へのナノホールアレイ形成よるカラーフィルタの開発に成功した。
本業績により、多様な材料系における高度なデバイス研究を促進するとともに、技術支援によって企業や大学等の成果創出に貢献した。これらの取り組みは、我が国の強みであるデバイス材料産業の競争力強化につながっている。また、開発を支援したモイスチャーセンサでは、その成果をもとにスタートアップ企業が設立され、社会実装が進められている。

創意工夫功労者賞 : 2名

優れた創意工夫により職域における技術の改善向上に貢献した者を対象に贈られる賞です。

受賞者

細谷 順子 (ほそや じゅんこ)
技術開発・共用部門
材料データプラットフォーム
データ基盤ユニット
主幹エンジニア

【業績名】
材料データプラットフォームシステム信頼性の改善

物質・材料研究機構(NIMS)は、2003年から「NIMS 物質・材料データベース (MatNavi)」をはじめとした材料データプラットフォームシステム (MDPFシステム)をインターネットで公開している。このシステムを運用する中で2つの課題を抱えていた。1つ目はオンプレミス運用に伴う課題である。オンプレミスとはサーバなどのITリソースをNIMS内に設置して運用管理する方法で、カスタマイズの自由度が高くITリソースを占有できるメリットがある半面、全てを自ら管理する必要があり、システム可用性の低さ、新技術やセキュリティ対策を迅速に対応できないなどの課題があった。2つ目の課題はWebスクレイピングによる被害で、データ駆動による材料研究が盛んになってきた2018年ごろから、MatNaviに収録されている高品質で貴重な材料データが不正に収集される問題が顕在化し、毎日繰り返されるWebスクレイピングを止める作業は運用担当者の極めて大きな負担となっていた。これらの課題解決のため、MDPFシステムをオンプレミスからパブリッククラウドへ移行し、MatNavi利用の入り口となる認証システムに大きな変更を加えることとした。クラウドへ移行後は、稼働率が90.7%から98.1%に向上させることに成功し、認証システム改良後はWebスクレイピングの発生件数を97%激減させ、運用管理者の負担は大幅に軽減した。

受賞者

諸永 拓 (もろなが たく)
技術開発・共用部門
材料創製・評価プラットフォーム
電子顕微鏡ユニット
主幹エンジニア

【業績名】
電子顕微鏡によるその場力学特性評価技術の改良

材料の力学特性を理解するために、引張、圧縮などの力学試験を行いながら、電子顕微鏡を用いて変形や破壊挙動を直接その場観察することは非常に有効な手段と言える。しかしながら、中でも透過型電子顕微鏡内で行なう力学試験は、試験片サイズがサブミクロンオーダーと非常に微細で、装置や設置条件などの様々な制約を受けるため、試験前段階の試験片準備が高難度で成功率も低いという課題があった。
そこで試料片準備専用ステージの開発・作製を行い、成功率を飛躍的に向上させた。また専用ステージに合わせ準備工程の見直しと試験片をセットするチップの改良により、試験片準備の高効率化と試験の高精度化も実現した。
本技術は電子顕微鏡内での力学試験の敷居を下げ、材料の変形および破壊挙動の解明や、それらに基づく力学特性の理解・評価を強力にサポートし、材料開発に貢献することが見込まれる。

表彰式

2025年4月15日(火)、文部科学省(東京都千代田区)において「令和7年度科学技術分野の文部科学大臣表彰」表彰式が行われ、野中 厚 文部科学副大臣より受賞者に賞状とメダルが授与されました。

科学技術賞 (科学技術振興部門)
科学技術賞 (科学技術振興部門) の受賞者4名の表彰集合写真

(左より) 藤間 淳 主幹エンジニア、吉川 英樹 上席室長、松波 成行 代表、藤原 康裕 主幹エンジニア

若手科学者賞
若手科学者賞の受賞者4名の表彰集合写真

(左より) 天神林 瑞樹 独立研究者、西口 昭広 主幹研究員、南 皓輔 主幹研究員、増田 啓介 主任研究員

研究支援賞
研究支援賞の受賞者4名の表彰集合写真

(左より) 渡辺 英一郎 主任エンジニア、津谷 大樹 ユニットリーダー、池田 直樹 主任エンジニア、大井 暁彦 主任エンジニア

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