「2025年度 つくば賞・つくば奨励賞」をNIMS研究員2名が受賞

茨城県科学技術振興財団(理事長:江崎玲於奈)が表彰する「2025年度 つくば賞・つくば奨励賞」について、高田 和典 フェロー、構造材料研究センターのウー ラダー 主任研究員の2名が選出されました。

「つくば賞・つくば奨励賞」は、茨城県内において科学技術に関する研究に携わり、顕著な研究成果を収めた研究者を顕彰し、研究者の創造的な研究活動を奨励するものです。

「つくば賞」を受賞した高田 和典 フェローの授賞の対象となった研究主題は「全固体電池の研究開発」です。
「つくば奨励賞」を受賞したウー ラダー 主任研究員の授賞の対象となった研究主題は「持続可能な未来を支える革新的なマテリアル・イノベーション:TIISA 断熱材技術の展開と社会実装」です。


2025年度 つくば賞

高田 和典 フェローの写真

高田 和典
フェロー
(物質・材料研究機構)

【研究主題】
全固体電池の研究開発
【研究業績概要】

リチウムイオン電池の誕生はノートパソコンや携帯電話の普及を促し、高度情報化社会の構築をもたらしたのみならず、低炭素社会実現に向けた自動車の電動化や再生可能エネルギーの高効率貯蔵への道を切り開いた。しかしながら、可燃性の有機溶媒を用いるリチウムイオン電池において、このような用途での電池の大型化は安全性の低下を引き起こす。
この問題の解決に向けて不燃性の固体電解質を採用する全固体電池に期待が高まり、ほとんどの研究者が固体電解質のイオン伝導性向上を通じて全固体電池の実現に取り組む中、高田和典氏はイオン伝導性の向上が電池性能の向上に結び付いていない点にいち早く着目し、材料物性を電池性能として発揮するための電池の基本設計構築を目指した。この取り組みにおいて、固体電解質の骨格構成元素と耐酸化・還元性の関係を明確化し、リチウムイオン電池の高エネルギー密度の源である黒鉛負極とLiCoO2正極の組み合わせを全固体電池において実現した。
さらに、作動電流が低いという全固体電池最大の課題を解決するために、酸化物系固体電解質の薄層を正極界面に介在させるというきわめて独創性の高い界面構造を創出し、現在車載用電池としての実用化を間近にひかえて精力的な開発が進められている全固体電池の基本設計を確立した。

2025年度 つくば奨励賞

実用化研究部門

ウー ラダー 主任研究員の写真

Wu Rudder (ウー ラダー)
主任研究員
(物質・材料研究機構 構造材料研究セ ンター 超耐熱材料グループ)

【研究主題】
持続可能な未来を支える革新的なマテリアル・イノベーション:TIISA 断熱材技術の展開と社会実装
【研究業績概要】

ウー・ラダー氏は、国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)の主任研究員として、12年以上にわたり断熱材料の研究に従事し、画期的な成果を挙げてきた。ウー氏の最も顕著な業績は、世界初の流動性固体断熱材であるThermal Insulation Inflatable Solid Air(TIISA®)の開発である。
TIISA®は、微粒子を利用し粒子間の空間を精密に制御することで、極めて低い熱伝導率を実現している。ナノ構造界面でのフォノン散乱による断熱性制御という独創的なアプローチにより、低真空下で1mW/mK、常温常圧下で8mW/mKという世界最高水準の断熱性能を達成した。さらに、嵩密度0.001g/cm³未満という従来のエアロゲルの10分の1以下の軽量化を実現した。
ウー氏の研究の特筆すべき点は、優れた性能と実用性の両立にある。従来のエアロゲルは脆弱な構造のため取り扱いが困難であったが、TIISA®は液体並みの流動性を持ち、施工性と経済性を大幅に向上させた。また、環境と人体に安全なアモルファスシリカで構成され、-253°Cから1300°Cという広範な温度範囲での使用が可能である。
ウー氏は研究成果の社会実装にも積極的に取り組んでおり、2021年にNIMS発ベンチャー企業である株式会社Thermalyticaを設立し、最高技術責任者として事業化を推進している。建築用断熱塗料、家電用断熱材、工場熱機器の保温断熱、バッテリの熱暴走対策、液化水素の運搬・貯蔵用保冷断熱など、多岐にわたる分野での実用化を進めている。実際の応用例としては、屋内型スポーツ施設、工場熱機器、大規模養鶏場にTIISA®断熱塗料を施工し、室内温度の低減による冷房効率の向上や鶏の生存率向上を実現している。
その功績は国内外で高く評価されており、2023年にはシンガポール政府主催の世界最大級のスタートアップコンテストであるSLINGSHOTにおいて、150カ国・地域から参加した4,700社のスタートアップの中からグランプリを受賞し、昨年にはKPMG Global Tech Innovator Competition 2024で世界優勝を果たすなど、日本企業として初の快挙を次々に成し遂げ、ウー氏の断熱材料研究と実用化における卓越した貢献が世界的に認められている。

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