令和6年度文部科学大臣表彰をNIMS職員ら7名が受賞
2024.04.17
令和6年度科学技術分野の文部科学大臣表彰において、NIMS職員ら7名が受賞しました。
今年度の受賞者は、以下の7名です。
【科学技術賞 (開発部門) 】三成 剛生、金原 正幸
【若手科学者賞】荒井 俊人、只野 央将、土井 康太郎、松田 翔一
【研究支援賞】大木 忍
科学技術賞 (開発部門) : 2名
受賞者
三成 剛生(みなり たけお)
高分子・バイオ材料研究センター 高分子材料分野 プリンテッドエレクトロニクスグループ グループリーダー
(株) プリウェイズ 代表取締役社長
金原 正幸 (かねはら まさゆき)
(株) C-INK 代表取締役社長
(株) プリウェイズ 取締役副社長
【業績名】
半導体製造を効率化するプリンテッドエレクトロニクスの開発
従来の半導体・電子部品製造プロセスでは、金属膜から不要な部分を除去して電子回路を形成するサブトラクティブ方式が多く用いられており、高コストで環境負荷が大きいことが問題でした。本開発では、金属をインク化し、簡便な印刷技術を用いることで配線を形成するプリンテッドエレクトロニクスを実現しました。低温焼成で良好な導電性が得られる金属ナノ粒子インクと、微細な配線を安定的に印刷する技術を実現し、配線や薄膜トランジスタ素子といった複雑なデバイスを印刷のみで形成し、実用レベルで動作させることに初めて成功しました。
本開発により、印刷技術によって必要な部分にのみ材料を配置することで、効率的な回路形成が可能なアディティブ方式による新たな製造様式を実現しました。また、開発した銀ナノ粒子インクは、インクジェットで安定的に吐出して基板との良好な密着性が得られる特徴を有し、受賞者らが手掛ける販売・導入支援によって、さまざまな用途に利用されています。
本成果は、プリンテッドエレクトロニクスによって高性能の電子回路を安定的に製造できることを証明し、半導体製造プロセスの大幅な効率化、省資源化、環境負荷低減に寄与しています。
若手科学者賞 : 4名
受賞者
荒井 俊人 (あらい しゅんと)
高分子・バイオ材料研究センター 独立研究者
【業績名】
有機半導体の分子配列制御と高効率キャリア輸送に関する研究
機能性材料を塗布して電子デバイスを作製する技術はプリンテッドエレクトロニクスと呼ばれ、従来の大規模・複雑化したデバイス製造工程を簡略化する技術として期待されています。しかしながら、塗膜の厚みや結晶性の制御が困難なことから、作製したデバイスには、素子間で性能にばらつきがあり、その本来的な性能を発揮するための分子配列制御技術が求められていました。
受賞者は、π電子骨格とアルキル鎖からなる低分子有機半導体において、アルキル鎖長の異なる分子を混合して結晶化させることで、厚みが分子レベルで均一な薄膜単結晶を構築する技術を開発しました。また、この研究を足掛かりに、薄膜層内の分子配列制御に関する理解を進展させました。これにより、塗布型有機トランジスタの高移動度化や低電圧駆動化に大きく貢献しました。
本研究成果は、軽量・フレキシブルな電子デバイスの応用に資する技術になると期待されます。
受賞者
只野 央将(ただの てるまさ)
磁性・スピントロニクス材料研究センター 磁性理論グループ グループリーダー
【業績名】
機能材料におけるフォノンの非調和効果に関する研究
熱電変換材料をはじめとする機能材料の開発では、熱伝導や構造相転移など、フォノンの非調和性に関する物性の深い理解と制御が求められます。しかし、従来のフォノン計算手法は非調和性の取り扱いが不十分であり、準安定相を含む多くの物質で破綻するという問題がありました。
受賞者は、非調和性の効率的なモデリング手法や多体理論を組み合わせた一連の計算スキームとソフトウェアを開発することでこの問題を解決し、準安定高温相のフォノン分散、熱伝導、電子格子相互作用の理論計算を世界に先駆けて実現しました。同手法によってクラスレート化合物の特異な熱伝導の起源解明などへ貢献しました。
本研究成果は、計算機シミュレーションを用いた有限温度での物性予測へ弾みを付けるものであり、準安定相を含む高機能材料の効率的な探索へと繋がると期待されます。
受賞者
土井 康太郎(どい こうたろう)
構造材料研究センター 材料創製分野 耐食材料グループ 主任研究員
【業績名】
酸素と応力に着目した金属材料の腐食防食に関する研究
腐食とは、金属材料が周囲の環境により溶解、消耗する現象です。金属材料は地球上で使用される限り必ず腐食し劣化します。金属材料の長期信頼性を向上させ安心・安全な社会を維持するためには、金属材料の腐食メカニズムを解明し腐食を克服する防食技術を開発することが重要です。
受賞者は、「酸素」と「応力」の2つの因子に着目しこれらの因子が腐食に及ぼす影響を明らかにすることで、金属材料の腐食に関する知見を深化させました。さらに、それぞれの因子が持つ特徴を利用して新たな腐食加速試験法や防食表面処理技術を開発し、腐食防食分野における新たなスタンダードを打ち立てました。
本研究成果は、腐食防食技術の発展と金属材料の長寿命化に繋がり、資源の節約や環境負荷の軽減、持続可能な人間社会の実現に貢献すると期待されます。
受賞者
松田 翔一 (まつだ しょういち)
エネルギー・環境材料研究センター 電池材料分野 電気化学スマートラボチーム チームリーダー
【業績名】
リチウム空気二次電池の高重量エネルギー密度化に関する研究
リチウム空気電池(LAB)は、現行のリチウムイオン電池の5倍以上エネルギー密度を実現する潜在的可能性を有しており、次世代蓄電池の最有望候補です。一方で、実用に足る十分な電池性能が得られていないことが課題でした。
受賞者は、電池内反応の先端オペランド解析による劣化機構解明、多孔性カーボン電極の開発、負極保護技術の確立により、500Wh/kg級LABの室温での安定作動に世界で初めて成功しました。さらに、電気化学自動実験ロボットを独自に開発し、データ科学的手法と組み合わせることで、LABのサイクル寿命向上を実現する多成分電解液を発見しました。
本研究成果は、LABの実用化に向けたブレークスルーであり、高エネルギー密度なLABの早期社会実装を可能とし、カーボンニュートラル実現に貢献するものであると期待されます。
研究支援賞 : 1名
受賞者
大木 忍 (おおき しのぶ)
技術開発・共用部門 材料創製・評価プラットフォーム 強磁場計測ユニット 主幹エンジニア
【業績名】
強磁場NMRの開発と実用材料への応用による貢献
NMR(核磁気共鳴)は有機化合物中の水素や炭素の分析(溶液NMR)に広く使われますが、多様な元素を含む無機・固体材料の分析(固体NMR)にも高いポテンシャルを有します。しかし、多くの無機元素の固体NMR分析は感度や分解能に課題があり、その向上のために超伝導磁石とそれに伴う強磁場用のプローブの開発による分析環境の強磁場化が必要でした。
本業績では、固体NMR分析における感度や分解能の課題に対し、物質・材料研究機構で開発された高温超伝導体を磁石の一部に利用した世界初の超伝導磁石の開発により、従来の限界であった23.5テスラの壁を突破(世界最高磁場)しました。同時に、様々な核種に対応するプローブを開発し、今まで測定が困難であった元素の測定を可能にしました。さらに、その技術を応用した国内外でも数少ない固体NMR計測装置を共用化し、大学や企業等の材料開発に貢献しました。
本業績の支援を受け、チタン観測が実用化し、Ziegler-Natta 触媒(オレフィン重合体の触媒で1963 年度のノーベル賞の受賞対象)の構造解明につながりました。また、モリブデン観測の実用化により、燃料電池用材料「Ba-Mo-Nb-O 系酸化物」の高いイオン伝導性の鍵となる「Mo とNb の隠された秩序状態」の解明に貢献しました。
本業績により、世界の主要なNMR施設における超強磁場NMR装置の稼働に貢献するとともに、実用材料の応用においても、ガラスやセメント、触媒、次世代電池等の材料開発に貢献し、新材料による技術革新が期待されます。