硬い酸化物が大きく膨張する新現象を発見

— 結晶の基本骨格と化学組成を保ったまま、原子の並び方が変わることで「戻らない巨大膨張」を実現 —

NIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)

NIMS(物質・材料研究機構)は、高圧合成で作られた硬い無機酸化物Ba4Ru3O12を加熱すると、体積が約4.4%増加し、その膨張が冷却後も元に戻らない熱応答現象を発見しました。通常、このような大きな体積変化は、結晶構造の大きな変化や化学反応を伴い、材料の性質を変化させます。しかし本研究では、結晶の基本骨格、すなわち結晶構造の対称性と化学組成を保ったまま、結晶内部の原子配置が変わることで、「戻らない巨大膨張」が起こることを明らかにしました。本成果は、酸化物材料における新しい熱応答メカニズムを示すものであり、高温環境で使われるセラミックス材料や、熱による変形・応力を制御する材料の新たな設計指針につながることが期待されます。

従来の課題 : 硬く安定な酸化物では、大きな熱応答を起こしにくかった

複数の材料を組み合わせた部品では、材料ごとの熱膨張の違いから内部に熱応力が生じ、これがひび割れや接合不良、性能劣化の原因となります。そのため、性能の変化を伴わずに、材料の体積変化を自在に制御・固定化し、内部応力を用途に応じて制御することが重要です。しかし、無機酸化物やセラミックスは、熱による体積変化が小さく、通常は冷却すると元に戻ってしまいます。また、大きな体積変化が起こる場合、多くは結晶構造の大きな変化や化学反応を伴い、材料の性質が変化します。そのため、結晶構造の基本骨格や化学組成を保ったまま、大きな不可逆熱応答を示す無機材料の実現が求められていました。

成果のポイント : 内部の原子配置の変化で、酸化物が大きく膨張することを発見

NIMSは、高圧合成によって得られたルテニウム酸バリウム(Ba4Ru3O12)が、加熱によって体積を約4.4%増加させ、冷却後も膨張した状態を保つことを発見しました。これは、通常の熱膨張とは異なる「戻らない膨張」現象です(図)。
放射光X線回折による精密構造解析などの結果、この膨張は、分解や酸化還元反応、電子状態・磁気状態の変化ではなく、結晶内部にあるルテニウム原子の配置変化によって起こることが分かりました。結晶構造の対称性と化学組成を保ったまま、大きな不可逆膨張が生じる点が本成果の特徴です。

図: 加熱によりルテニウム原子の配置が変わり、結晶の基本骨格を保ったまま体積が増加する模式図。左から右へ、加熱に伴う変化を示す。赤いほど、ルテニウム原子がその位置を占める割合が高いことを示す。冷却後も体積は元に戻らず、膨張した状態が保たれる。なお、格子サイズの変化は視認性のため実際より強調して示している。

将来展望

今後は、この現象が起こる条件を明らかにし、膨張の大きさや発生温度を制御する方法を探ります。さらに、同じ考え方をさまざまな酸化物材料に広げることで、温度変化に応じた体積変化を設計できる材料の開発を目指します。
将来的には、電子デバイスやパワーデバイスで問題となる熱応力を抑え、部品の信頼性や寿命を高める材料への応用が期待されます。

その他

  • 本研究は、NIMS ナノアーキテクトニクス材料研究センター 量子物質創製グループのリ・ズジュン 大学院生、ユアン・ホンボ 大学院生、アレクセイ・A・ベリク 主席研究員、辻本 吉廣 主幹研究員、山浦 一成 グループリーダー、およびNIMS 磁性・スピントロニクス材料研究センター 磁性理論グループの只野 央将 グループリーダーによる研究チームによって行われました。
  • 本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(課題番号:JP25K01657、JP25K01507)の支援を受けて実施されました。
  • 本研究成果は、2026年5月20日に米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society 」オンライン版に掲載されました。

掲載論文

題目 : Giant Lattice Expansion through Structural Frustration Release in a Dense Oxide
著者 : Zhijun Li, Hongbo Yuan, Alexei A. Belik, Terumasa Tadano, Yoshihiro Tsujimoto, Kazunari Yamaura
雑誌 : Journal of the American Chemical Society
DOI : 10.1021/jacs.6c07579
掲載日時 : 2026年5月20日

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量子物質創製グループ
グループリーダー
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TEL: 029-860-4658

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