磁気冷凍材料の冷却能力と安定性を両立する材料設計手法を確立
〜 共有結合の精密制御により高効率・高持続性磁気冷凍材料を実現 〜2025.12.19
NIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)
国立大学法人京都工芸繊維大学
公益財団法人高輝度光科学研究センター
兵庫県公立大学法人 兵庫県立大学
Technical University of Darmstadt
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)
NIMS、京都工芸繊維大学、高輝度光科学研究センター、兵庫県立大学、東北大学、ダルムシュタット工科大学の研究チームは、磁場のオン・オフで温度が変化する磁気冷凍材料について、冷却能力と安定性の両立を可能にする材料設計の新手法を開発しました。材料内部の共有結合の種類や配置を精密に制御することで、磁気的な性質の変化に伴う原子配列の遷移がスムーズに進行し、それに伴う不可逆的なエネルギー損失の大幅な抑制が可能になったことで、この両立に成功しました。本成果は、エネルギー効率の高い磁気冷却技術の開発に新たな道を拓くものであり、2025年12月18日にAdvanced Materials誌に掲載されます。
概要
従来の課題
エアコンや冷蔵庫、冷凍機など従来の冷却方式(蒸気圧縮式冷却)では、温室効果ガスを排出する冷媒が使用されており、環境負荷が懸念されます。温室効果ガスを排出しない技術の候補の一つとして、磁場のオン・オフで温度変化する材料を利用した磁気冷却技術が注目されています。しかし、この技術の性能向上を目指す研究開発において、次に述べるジレンマが長い間立ちはだかっていました。すなわち、磁場のオン・オフを繰り返す際に材料内部でエネルギー損失が発生するため、冷却能力を保持し続けることが困難である一方(安定性の欠如)、その損失を抑えるための材料設計を行うと、磁場を加えた際の温度変化が減少して冷却効果が弱まる(冷却能力の減少)というトレードオフです。
成果のポイント
本研究チームは、金属間化合物の組成を原子レベルで精密に調整することで、元に戻すことができないエネルギーの損失を制御する金属間化合物の材料設計手法を開発しました。この手法を実証するため、磁気冷凍材料であるGd(ガドリニウム)とGe(ゲルマニウム)の金属間化合物の改良を試みました。この材料は、磁場印加時にGdのスピンの向きが揃い(図の青丸から緑丸への変化)、温度が上昇しますが、スピンの変化に連動して、層間を構成するGe(図の茶丸)の結合距離が変わりヒステリシス(履歴)が発生していました。今回、Geの一部をSn(スズ)に置換することで、層間の厚み変化を抑えた結果、冷却能力の低下を防ぐことに成功しました。さらに磁場を印加した当初の温度変化も7Kから8K(7℃から8℃)と増加し、持続性のみならず、材料の磁気冷却性能も向上させることに成功しました。
図: 今回開発した材料の模式図。磁場を印加していない状態(右側)では、上側のスラブ(以下、層と標記)と下層に含まれるGdのスピンの向き(白矢印)は揃っていないが、磁場を印加すると(左側)揃い、温度が上昇する。
将来展望
今回得られた磁気冷凍材料は極低温領域で動作し、水素の液化に最適な特性を示すことから、環境負荷の少ない液体水素技術の実現に貢献すると期待されます。さらに、本研究は望ましい特性を実現する磁気冷凍材料設計の新たな手法を提案しています。今後は、この新手法に基づき、他の化合物への応用拡大を計画し、その応用分野の拡大を目指していきます。
その他
- 本研究は、NIMS磁性・スピントロニクス材料研究センターのTang Xin 主任研究員、寺田 典樹 主席研究員、Xiao Enda ポスドク研究員、只野 央将 グループリーダー、Andres Martin-Cid ポスドク研究員、大久保 忠勝 副センター長、Hossein Sepehri-Amin グループリーダー、NIMS技術開発・共用部門の松下 能孝 ユニットリーダー、NIMS 宝野 和博 フェローと、京都工芸繊維大学の三浦 良雄 教授、高輝度光科学研究センター(JASRI)の大河内 拓雄 主幹研究員(現:兵庫県立大学教授)、河口 彰吾 主幹研究員、小林 慎太郎 研究員、東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センターの中村 哲也 教授、及び、ダルムシュタット工科大学のAllan Döring 博士課程学生、Konstantin Skokov senior researcher、Oliver Gutfleisch 教授からなるチームによって、日本学術振興会国際共同研究プログラム(JRP-LEAD with DFG;プログラム番号 JPJSJRP20221608)および科学技術振興機構(JST)ERATO「内田磁性熱動体プロジェクト」(課題番号 JPMJER2201)の支援を受けて実施されました。
- 本研究成果は、2025年12月18日にAdvanced Materials誌のオンライン版に掲載されます。
掲載論文
題目 : Control of Covalent Bond Enables Efficient Magnetic Cooling
著者 : Xin Tang, Yoshio Miura, Noriki Terada, Enda Xiao, Shintaro Kobayashi, Allan Döring, Terumasa Tadano, Andres Martin-Cid, Takuo Ohkochi, Shogo Kawaguchi, Yoshitaka Matsushita, Tadakatsu Ohkubo, Tetsuya Nakamura, Konstantin Skokov, Oliver Gutfleisch, Kazuhiro Hono and Hossein Sepehri-Amin
雑誌 : Advanced Materials
DOI : 10.1002/adma.202514295
掲載日時 : 2025年12月18日
著者 : Xin Tang, Yoshio Miura, Noriki Terada, Enda Xiao, Shintaro Kobayashi, Allan Döring, Terumasa Tadano, Andres Martin-Cid, Takuo Ohkochi, Shogo Kawaguchi, Yoshitaka Matsushita, Tadakatsu Ohkubo, Tetsuya Nakamura, Konstantin Skokov, Oliver Gutfleisch, Kazuhiro Hono and Hossein Sepehri-Amin
雑誌 : Advanced Materials
DOI : 10.1002/adma.202514295
掲載日時 : 2025年12月18日
お問い合わせ先
研究内容について
E-Mail: Tang.xin=nims.go.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)
TEL: 029-859-2739
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E-Mail: H.SEPEHRIAMIN=nims.go.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)
TEL: 029-859-2739
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E-Mail: OHKUBO.Tadakatsu=nims.go.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)
TEL: 029-859-2716
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京都工芸繊維大学 電気電子工学系
教授
三浦 良雄
教授
三浦 良雄
E-Mail: miura=kit.ac.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)
TEL: 075-724-7405
URL: https://www.liaison.kit.ac.jp/researchers_db/ (研究者紹介ハンドブック | 京都工芸繊維大学)
TEL: 075-724-7405
URL: https://www.liaison.kit.ac.jp/researchers_db/ (研究者紹介ハンドブック | 京都工芸繊維大学)
高輝度光科学研究センター 回折・散乱推進室
研究員
小林 慎太郎
研究員
小林 慎太郎
E-Mail: kobayashi.shintaro=spring8.or.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)
TEL: 050-3496-8688
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兵庫県立大学 高度産業科学技術研究所
教授
大河内 拓雄
教授
大河内 拓雄
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〒606-8585 京都市左京区松ヶ崎橋上町
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〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1丁目1-1
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E-Mail: kouhou=spring8.or.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)
TEL: 0791-58-2785
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兵庫県立大学 播磨理学キャンパス経営部
高度産業科学技術研究課
佐々木 正和
兵庫県立大学 播磨理学キャンパス経営部
高度産業科学技術研究課
佐々木 正和
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TEL: 0791-58-0249
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Dolivostraße 15, 64293 Darmstadt, Germany
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〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
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科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部
グリーンイノベーショングループ
中村 亮二
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K's五番町
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TEL: 03-3512-3528
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