高温で速度に影響されない「理想の摩擦」を呈する挙動を観測

— 摩擦の起源解明につながる新発見 —

NIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)

NIMSはアメリカ地質調査所・東京大学との共同研究で、従来“理想”とされながら現実には実現されていなかった「すべり速度に全く依存しない摩擦」を、潤滑材料としても用いられる層状酸化物マイカ(雲母)を200℃に加熱することで初めて実験的に確認しました。さらにその理由が、高温下での結晶内部の欠陥消失にあることを明らかにしました。この発見は、これまで未解明だった摩擦の根本原理の解明に迫るとともに、省エネ型潤滑剤の設計・開発などへの発展が期待されます。本成果は2026年7月20日にPhysical Review Lettersオンライン版に掲載されました。

従来の課題 : 物質間の動摩擦力のすべり速度に対する応答を予測する理論がない

乾燥状態の物質間において「動摩擦力(ものを動かしているときの摩擦力)は、すべり速度(動くスピード)に関係なく、常に一定である」という法則(アモントン・クーロンの法則)があり、高校物理の教科書でも、摩擦の基本法則の一つとして説明されています。しかし実際には、多くの材料ですべり速度によって摩擦力がわずかに変化する(速度・状態依存摩擦則)ため、クーロン則の「完全にスピードに依存しない状態」は実証できていませんでした。動摩擦力のわずかな変化は、動力変動における振動や摩耗の発生、動力伝達の変動など機械の安定動作に大きく影響します。そのため、摩擦とすべり速度の関係を理解し予測することは、機械設計や潤滑材料の開発にとって重要な課題であり、この物理現象の解明が求められていました。

成果のポイント :
高温で動摩擦力のすべり速度依存性が消失し、結晶内部の欠陥も消失

今回、NIMS・アメリカ地質調査所・東京大学の研究チームは、層状酸化物の一つであるマイカ(KAl2[Si3AlO10](OH)2)単結晶間の動摩擦力を室温から200℃まで測定したところ、温度の上昇とともにすべり速度の変化への動摩擦力の応答が小さくなり、200℃ですべり速度に無関係になることを発見しました。この現象は従来の摩擦理論では全く説明できない現象で、理想的なクーロン摩擦を実現したと言えます。実験試料を電子顕微鏡で観察すると、マイカ結晶内のリプロケーションと呼ばれる波のような欠陥の有無とすべり速度依存性の関連が明らかとなり、複雑な摩擦現象の背景に結晶の欠陥が関係することを初めて示す成果です。

図: すべり速度(V)を変化させた際のマイカの摩擦係数の変化、低温では摩擦係数の変化が大きいが、200℃の高温では摩擦係数がすべり速度変化と無関係になる。低温では摩擦面からやや離れた結晶内部に欠陥が存在し、この欠陥のすべり摩擦がすべり速度に依存するが、高温では欠陥が消失し摩擦係数がすべり速度と無関係となることを発見した。

将来展望

今後は、摩擦実験を電子顕微鏡内で実施し、結晶内の欠陥の有無と動摩擦力のすべり速度依存性の関係をその場観察を用いて明らかにします。さらに研究対象をさまざまな層状材料に展開することで、すべり速度に対する新しい摩擦の法則の開発を目指します。将来的には、固体潤滑剤として使われる層状材料の設計につながり、さまざまなすべり速度で性質の変化しない使いやすくエネルギー損失を抑える潤滑剤の開発が期待されます。

その他

  • 本研究は、NIMS 電子・光機能材料研究センター 資源循環材料グループの佐久間 博 主幹研究員、アメリカ地質調査所(USGS)Rock Physics Laboratoriesの Diane E. Moore 博士、David A. Lockner 博士、東京大学大学院理学研究科の小暮 敏博 名誉教授からなる研究チームによって行われました。
  • 本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金(課題番号:JP24K00795, JP25H00688, JP20K04115)の支援を受けて実施されました。
  • 本研究成果は、2026年*7月**20日にPhysical Review Letters(のオンライン版に)にて掲載されますされました。

掲載論文

題目 : Velocity-independent dry friction on mica: Realization of ideal Amontons-Coulomb friction
著者 : Hiroshi Sakuma, Diane E. Moore, David A. Lockner, Toshihiro Kogure
雑誌 : Physical Review Letters
DOI : 10.1103/y3jy-nqcd
掲載日時 : 2026年7月20日(オンライン版)

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資源循環材料グループ
主幹研究員
佐久間 博 (さくま ひろし)
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TEL: 029-860-4942

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