液体水素製造時の蒸発ロスを防ぐ触媒の発見
— 液化前に水素分子の安定化(=発熱)を促進し、水素社会の実現に寄与 —2026.04.06
NIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)
国立大学法人東京科学大学
高知工科大学
NIMSは、東京科学大、高知工科大との共同研究により、液体水素の貯蔵・輸送における長年の課題であった「蒸発ロス」を大幅に抑制できる新しい高性能触媒を発見しました。二酸化ケイ素(シリカ)など安価な酸化物に鉄などの金属ナノ粒子を担持したこの複合触媒は、従来の酸化鉄ベースの触媒に比べてはるかに優れた性能を発揮します。本研究は、これまで主流であった「磁性」ではなく、触媒表面の不均一な「電場」が変換を促進するという新しいメカニズムを実証したものです。本研究成果は、水素エネルギー社会への貢献が期待されるもので2026年3月12日にThe Journal of Physical Chemistry Letters誌に掲載されました。
従来の課題
次世代のクリーンエネルギーとして期待される水素は、効率よく貯蔵・輸送するために、-253℃以下の極低温で液体にする必要があります。しかし、水素分子には「オルソ水素」と「パラ水素」という、原子核のスピンの向きが異なる2つのタイプが存在します(図)。常温の水素ガスは「オルソ : パラ = 3 : 1」の割合ですが、液体水素の温度ではほぼ100%「パラ水素」の状態が安定です。しかし急速に液化すると、オルソ水素からパラ水素への変換が遅れ、液体中にエネルギー的に不安定なオルソ水素がかなり残ってしまいます。この残留オルソ水素は貯蔵中も変換を続け、エネルギー放出と液体水素の部分気化を引き起こし、大きなロスをもたらします(図: 赤破線)。この損失を防ぐには、液化前にオルソ水素をパラ水素に変換する高性能な触媒(図: 青破線)が必要ですが、これまでの酸化鉄など磁性を利用した触媒では性能が不十分でした。
成果のポイント
研究チームは、従来の「磁性」ではなく、酸化物触媒表面の陽イオン/陰イオンの配列が生み出す不均一な「電場(静電気のムラ)」がオルソ-パラ水素変換を促進するという独自の仮説を立てました。この仮説に基づき、シリカ(SiO2)やアルミナ(Al2O3)など安価な酸化物と、鉄(Fe)やコバルト(Co)などのありふれた金属ナノ粒子を組み合わせることで、従来触媒を上回る高性能触媒の開発に成功しました。
図: 水素ガスはオルソ水素とパラ水素の混合物です。両者の比率は温度に依存しますが、それだけでなく冷却速度にも大きく影響されます。触媒なしで水素を急冷すると、図中の赤い破線で示すように、オルソ水素からパラ水素への変換が遅れ、液体中にエネルギー的に不安定なオルソ水素がかなり残留します。残留オルソ水素は貯蔵中もゆっくりと変換を続け、エネルギーを放出します。これが液体水素の部分気化を引き起こし、貯蔵中の蒸発ロスの原因となります。従って、液化工程の前に、オルソ水素をパラ水素に完全に変換する触媒の使用が不可欠です。(青破線で図示)。この触媒は、貯蔵中の蒸発ロスを防ぎ、水素の取り扱い効率を高めます。
将来展望
液体水素は、オーストラリアや中東のような水素生産・輸出国と日本のような水素輸入国との間の長距離海上輸送において特に重要な役割を果たしています。本研究で発見された触媒設計アプローチと高性能触媒は、日本における水素経済の発展に寄与すると期待されます。
その他
掲載論文
題目 : Exploring Ortho–Para Hydrogen Conversion Catalysts Based on Surface Electric Field Gradient
著者 : Hiroshi Mizoguchi, Yuichi Shirako, Shusaku Shoji, Hideki Abe, Takeshi Fujita, and Hideo Hosono
雑誌 : The Journal of Physical Chemistry Letters
DOI : 10.1021/acs.jpclett.6c00357
掲載日時 : 2026年3月12日
著者 : Hiroshi Mizoguchi, Yuichi Shirako, Shusaku Shoji, Hideki Abe, Takeshi Fujita, and Hideo Hosono
雑誌 : The Journal of Physical Chemistry Letters
DOI : 10.1021/acs.jpclett.6c00357
掲載日時 : 2026年3月12日
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研究内容について
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藤田 武志 (ふじた たけし)
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