AI時代を支える新磁性体、二酸化ルテニウム薄膜の「交代磁性」を実証

〜 AI・データセンター向け高速・高密度メモリ開発に期待 〜

NIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)
国立大学法人東京大学
国立大学法人京都工芸繊維大学
国立大学法人東北大学

NIMSは東京大学、京都工芸繊維大学、東北大学と共同で、二酸化ルテニウム(RuO2)薄膜が第三の磁性体である交代磁性を示すことを実証しました。「第三の磁性体」は、強磁性体を用いたメモリの問題点を解決し得るものであり、高速・高密度な次世代メモリ素子として応用が期待されています。本研究により、RuO2がその有力候補であることに加え、結晶配向制御による機能向上の可能性も示されました。研究成果は2025年9月24日付で『Nature Communications』に掲載されました。

概要

従来の課題

二酸化ルテニウム(RuO2)は、「第三の磁性」である交代磁性を示す有力候補として注目されてきました。従来の強磁性体は外部磁場で容易に書き込める一方、漏れ磁場による記録エラーが高密度化の壁でした。反強磁性体は漏れ磁場などの外乱に強いものの、スピン(原子レベルのN極-S極)が打ち消し合うため電気的な読み出しが難しいという課題があります。そこで、外乱に強く、しかも電気的に読み取り—将来的には書き換えまで狙える—という“いいとこ取り”の磁性体が求められてきました。しかしRuO2の交代磁性をめぐっては世界的に実験結果が一致しないことから本質解明が進まず、さらに均一な結晶配向をもつ薄膜試料が十分に得られていなかったため、決定的な実証に至っていませんでした。

成果のポイント

NIMS・東京大学・京都工芸繊維大学・東北大学の共同研究チームは、サファイア基板上に結晶の向きをそろえた単一配向(単一バリアント)RuO2薄膜を作製し、基板選択と成長条件の最適化によって配向が決まる仕組みを明らかにしました。X線磁気線二色性で全体の磁化(N極-S極)が打ち消される磁気秩序とスピン配列の向きを特定し、さらにスピンの向きで電気抵抗が変わる現象(スピン分裂磁気抵抗)を観測して、スピン向きによる電子状態の違いを電気的に確認しました。これらの結果は第一原理計算とも整合し、総合してRuO2薄膜が交代磁性体であることを実証しました[図]。本成果は、RuO2薄膜が高速・高密度な次世代メモリ材料として有望であることを強く裏付ける成果となりました。

図: X線磁気線二色性とスピンの向きで示した単一配向RuO2薄膜の交代磁性の概念図。

将来展望

今後、この成果を基盤として、RuO2薄膜を利用した高速・高密度の次世代磁気メモリの実現を目指します。交代磁性の高速・高密度という特長を活かすことで、省エネルギー型情報処理への貢献が期待されます。また、本研究で確立した放射光を用いた磁性解析技術は、他の交代磁性材料の探索やスピントロニクス素子の開発にも応用可能です。

その他

  • 本研究は、NIMS 磁性・スピントロニクス材料研究センター スピントロニクスグループの温 振超 (ウェン ジェンチャオ) 主任研究員、Cong He (ツォン ハ) ポスドク研究員 (研究当時) 、介川 裕章 グループリーダー、三谷 誠司 上席研究員、磁性・スピントロニクス材料研究センターの大久保 忠勝 副センター長、東京大学大学院理学系研究科の岡林 潤 准教授、京都工芸繊維大学 三浦 良雄 教授、および東北大学 関 剛斎 教授らで構成される研究チームによって実施されました。
  • 本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(22H04966、24H00408)、文部科学省次世代X-nics半導体創生拠点形成事業(JPJ011438)、東北大学金属材料研究所のGIMRTプログラム、東北大学電気通信研究所の共同研究プロジェクトの支援を受けています。
  • 本研究成果は、2025年9月24日に国際科学誌『Nature Communications』のオンライン版に掲載されました。

掲載論文

題目 : Evidence for single variant in altermagnetic RuO2(101) thin films
著者 : Cong He, Zhenchao Wen, Jun Okabayashi, Yoshio Miura, Tianyi Ma, Tadakatsu Ohkubo, Takeshi Seki, Hiroaki Sukegawa, and Seiji Mitani
雑誌 : Nature Communications
DOI : 10.1038/s41467-025-63344-y
掲載日時 : 2025年9月24日

関連ファイル・リンク

お問い合わせ先

研究内容について

NIMS 磁性・スピントロニクス材料研究センター
スピントロニクスグループ
主任研究員
温 振超 (ウェン ジェンチャオ)
E-Mail: WEN.Zhenchao=nims.go.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)
TEL: 029-859-2250
東京大学大学院理学系研究科 附属スペクトル化学研究センター 
准教授 
岡林 潤
E-Mail: jun=chem.s.u-tokyo.ac.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)
TEL: 03-5841-4418
URL: http://spectrum.chem.s.u-tokyo.ac.jp/ (東京大学 大学院理学系研究科附属 スペクトル化学研究センター)
京都工芸繊維大学 電気電子工学系
教授
三浦 良雄
E-Mail: miura=kit.ac.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)
TEL: 075-724-7405
URL: https://www.liaison.kit.ac.jp/researchers_db/ (研究者紹介ハンドブック | 京都工芸繊維大学)
東北大学金属材料研究所 磁性材料学研究部門
教授
関 剛斎
E-Mail: takeshi.seki=tohoku.ac.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)
TEL: 022-215-2095
URL: https://magmatelab.imr.tohoku.ac.jp/ (関 研究室 | 金属材料研究所・磁性材料学研究部門)

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