トンネル磁気抵抗(TMR)に対する新理論を提案

〜 TMR比向上の鍵「TMR振動」の解明に前進 〜

NIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)

NIMSは、磁気メモリ等に応用されるトンネル磁気抵抗(TMR)について、絶縁層の厚さによってTMR比が振動する現象を説明する新たな理論を提案しました。このTMR振動は、NIMSが近年達成したTMR比の世界最高記録に付随して明瞭に観測される現象であり、その起源の解明は、さらなるTMR比の向上に直結すると期待されます。本研究成果は、米国物理学会の学術誌『Physical Review B』のLetter論文として、2025年6月9日に掲載されました。

概要

従来の課題

TMR効果は、磁性層/絶縁層/磁性層という薄膜素子において、左右の磁性層の磁化の向きが平行な場合と反平行な場合とで、素子の電気抵抗が異なる現象です。磁気センサーや磁気メモリなど応用範囲の拡大に向けて、電気抵抗の変化率(TMR比)のさらなる向上が求められています。NIMSは近年、TMR比の世界最高記録を更新し、「TMR比が絶縁層の膜厚に応じて振動する現象(TMR振動現象)」の解明がTMR比をさらに高めるための鍵であることを示しました。しかし、TMR振動現象は、過去に多くの研究がなされたにもかかわらず、その起源が20年以上明らかにされてきませんでした。

成果のポイント

当研究チームは、従来の理論研究で見過ごされてきたメカニズムを取り入れた、新たなTMR効果の理論を提案しました。この理論により、TMR振動現象を理論的に再現できることを示しました。TMR効果は、磁性層と絶縁層からなる薄膜構造において発現し、両層の界面構造が重要な役割を担うと考えられています。本研究のポイントは、この界面における波動関数の重ね合わせ状態 [図 (a)] を理論に取り入れた点にあります。この理論に基づいて計算されたTMR比が、実験で得られたTMR振動現象をよく再現することも確認されました [図 (b)]。

図: (a) TMR振動現象が生じる仕組みの模式図。磁性層と絶縁層の界面における波動関数の重ね合わせが鍵となる。
(b) 理論計算と実験データの比較。計算結果は様々な条件で実験結果とよく一致し、TMR振動現象を再現している。

将来展望

これまでTMR振動現象に関する実験は、鉄(Fe)など限られた磁性材料を用いた薄膜で行われてきました。今後は、より多様な磁性体を用いた実験が進められ、本理論との比較を通じて、TMR振動現象に対する理解が一層深まることが期待されます。さらに、本理論はTMR振動を制御するための指針や、TMR比のさらなる向上に向けた設計方針の確立にも貢献すると見込まれます。

その他

  • 本研究は、NIMS磁性・スピントロニクス材料研究センター磁性理論グループの増田 啓介主任研究員、三浦 良雄招聘研究員を中心とし、同センタースピントロニクスグループのシャイケ トーマス客員研究員、介川 裕章グループリーダー、三谷 誠司上席研究員、NIMSナノアーキテクトニクス材料研究センター量子ビット材料グループの小塚 裕介グループリーダーにより構成される研究チームによって実施されました。
  • 本研究は、JSPS科研費(22H04966、23K03933、24H00408)および文部科学省データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト事業(JPMXP1122715503)の支援を受けています。
  • 本研究成果は、2025年6月9日付で『Physical Review B』誌のオンライン版にLetter論文として掲載されました。また、本論文はEditors’ Suggestion(注目論文)にも選出されています。

掲載論文

題目 : Theory for tunnel magnetoresistance oscillation
著者 : Keisuke Masuda, Thomas Scheike, Hiroaki Sukegawa, Yusuke Kozuka, Seiji Mitani, and Yoshio Miura
雑誌 : Physical Review B
掲載日時 : 2025年6月9日
DOI : 10.1103/PhysRevB.111.L220406

関連ファイル・リンク

お問い合わせ先

研究内容について

NIMS 磁性・スピントロニクス材料研究センター
磁性理論グループ
主任研究員
増田 啓介 (ますだ けいすけ)
E-Mail: MASUDA.Keisuke=nims.go.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)
TEL: 029-859-2228

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