次世代リチウムイオン電池正極材料における充放電エネルギー効率低下の起源を解明

~電極材料の結晶構造変化に鍵があった~

2023.12.15


国立研究開発法人物質・材料研究機構 (NIMS)

NIMSは、ソフトバンク株式会社と共同で、高エネルギー密度蓄電池用電極材料において、放電電圧が充電電圧よりも著しく低くなる原因が、充放電時における結晶構造変化の経路が充電時と放電時で異なるためであることを明らかにしました。

概要

  1. 国立研究開発法人物質・材料研究機構 (以下「NIMS」) は、ソフトバンク株式会社 (以下「ソフトバンク」) と共同で、高エネルギー密度蓄電池用電極材料 (モデル材料としてLi2RuO3) において、放電電圧が充電電圧よりも著しく低くなる (電圧ヒステリシス) 原因が、充放電時における結晶構造変化の経路が充電時と放電時で異なるためであることを明らかにしました。本研究成果は、従来の定説とは異なった機構の存在を明らかにしたものです。
  2. 次世代の高容量正極材料として、LiCoO2などの従来型正極材料よりも多量のリチウムイオンを含有し、かつ、安定して脱離挿入できるリチウム過剰系電極材料が注目されています。リチウムイオン過剰系電極材料は、従来型正極材料の2倍に相当する300 mAh/g以上の高い容量を発現するため、リチウムイオン電池を高エネルギー密度化できる有望な正極材料候補として研究されていますが、充放電時の電圧ヒステリシスが大きく充放電時のエネルギー効率が低いという課題があります。
  3. 研究チームは、リチウム過剰系電極材料のモデル材料としてLi2RuO3を用いて、その充電前後の結晶構造を精査したところ、放電後の結晶構造が充電前の構造に戻っているにもかかわらず、電圧ヒステリシスが観測されることを見出しました。従来、リチウム過剰系電極材料における電圧ヒステリシスの起源は、充放電で結晶構造が不可逆に変化することに起因するとした学説が提唱されており、今回の結果はその学説で説明できない現象です。そこで研究チームは、各種先端分析技術を駆使して、充放電時の電極の構造変化を詳細に解析したところ、結晶構造が変化する【経路】が充電時と放電時とで異なることを明らかにしました。すなわち、リチウム過剰系電極材料における電圧ヒステリシスの起源が、結晶構造の不可逆変化ではなく、結晶構造が変化する【経路】に起因することを明らかにしました。
  4. 今後は、今回得られた知見を利用し、充放電における電圧ヒステリシスの有無に着目するだけではなく、結晶構造の変化に着目した材料評価を行うことで、高容量と高い充放電エネルギー効率を両立するリチウム過剰系電極材料の開発加速が期待されます。
  5. 本研究は、主に、NIMS-SoftBank先端技術開発センターの研究開発の一環として、マルセラ カルパ研究員、久保田 圭主任研究員、松田 翔一チームリーダー、高田 和典フェロー (NIMS-SoftBank先端技術開発センター、センター長) らの研究チームによって実施されました。
  6. 本研究成果は、日本時間の2023年11月6日に、Energy Storage Materials 誌にオンライン掲載されました。

プレスリリース中の図

掲載論文

題目 : Voltage hysteresis hidden in an asymmetric reaction pathway
著者 : マルセラ カルパ久保田 圭小野 愛生、水木 恵美子、松田 翔一高田 和典
雑誌 : Energy Storage Materials
掲載日時 : 2023年11月6日 (日本時間)
DOI : 10.1016/j.ensm.2023.103051

お問い合わせ先

(研究内容に関すること)

NIMS
エネルギー・環境材料研究センター
フェロー 高田 和典
(NIMS-SoftBank先端技術開発センター センター長)
E-Mail: TAKADA.Kazunori=nims.go.jp
([ = ] を [ @ ] にしてください)

(報道・広報に関すること)

NIMS 国際・広報部門 広報室
〒305-0047 茨城県つくば市千現1-2-1
TEL: 029-859-2026
FAX: 029-859-2017
E-Mail: pressrelease=ml.nims.go.jp
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