NIMS一般公開2026 開催報告
NIMSは、年に一度の研究所公開「NIMS一般公開2026」を開催しました。2026.07.03
NIMSは、2026年5月31日(日)に、「NIMS一般公開2026」を開催し、千現・並木・桜の3地区(茨城県つくば市)を同時公開しました。当日は3,359人が来場し、中でも高校生から大学院生まで多くの学生が研究現場を訪れ、研究者から最先端の材料研究について直接説明を受けるなど、材料科学の魅力に触れました。
今年はNIMS設立25周年、前身である金属材料技術研究所の設立70周年、無機材質研究所の設立60周年の節目を迎え、「限界突破」をテーマに実施しました。材料の性能向上に挑む研究成果に加え、研究者が困難な課題を乗り越え、新たな価値を生み出してきた歩みにも焦点を当て、材料科学の魅力と社会的意義を発信しました。
NIMSでは、研究成果を広く社会に発信するとともに、将来、研究者やエンジニア、事務職などの立場でNIMSの活動を担う可能性のある若い世代に、研究現場を知ってもらうことを一般公開の重要な目的の一つとしています。70を超える研究室・実験施設を公開した中で、予約制ラボ23種と研究者体験コース3種は学生限定で実施しました。透過型電子顕微鏡(TEM)や有機合成ロボットなど最先端研究設備の見学や研究プロセスを体験できる機会を提供したほか、エンジニア職・事務職向け説明会や連携大学院の紹介も行いました。当日は早稲田大学から約40名、筑波大学から約30名の学生が団体で訪れるなど、588人の学生が来場し、研究者の説明に熱心に耳を傾けていました。
また、25周年記念企画として開催した特別講演会では、NIMSの研究成果が社会実装へとつながる過程を紹介しました。白色LEDの普及を支えた「サイアロン蛍光体」、高層ビルの制振装置として実用化された「FMS合金制振ダンパー」を題材に、研究開発を担ったNIMS研究者と実用化を推進した企業関係者が登壇し、基礎研究の成果が企業との連携を通じて社会で活用されるまでの道のりを語りました。
以下、各企画の様子と来場者の声(一部抜粋)をご紹介します。
25周年記念特別講演会『なぜLEDの光は自然になった? — 世界の明かりを変えた「サイアロン蛍光体」誕生秘話』
私たちの暮らしを照らす白色LEDは、どのような材料の発見と挑戦によって実現されたのでしょうか? その舞台裏に迫るべく、三菱ケミカル株式会社エネルギー変換材料グループ グループ長である洪 炳哲氏をお迎えし、NIMSの 廣崎 尚登特別フェローとともに、白色LEDの普及を支えた「サイアロン蛍光体」をテーマに講演を行いました。材料の発見から性能向上、企業との連携、そして実用化に至るまでの道のりを、基礎研究を担った研究者と、社会実装を推進した企業、それぞれの立場から語りました。
聴講者の声
「材料の創造や開発と、商流にのせるという両側面のお話を一度に聞ける機会は大変貴重でした」
「技術の進歩のために自由に研究できる環境が国内にあることが励みになりました」
「当たり前に使っているものはすべて長年の研究成果であり、それが現在進行形で行われていると再認識しました」
三菱ケミカル株式会社の洪 炳哲様と廣崎 尚登NIMS特別フェローの講演の様子
25周年記念特別講演会『「FMS合金制振ダンパー」で建造物の耐震性の限界を超える』
高層ビルの制振装置として実用化された「FMS合金制振ダンパー」を題材に、優れた耐疲労性を示す材料の基礎研究を行うNIMS研究者と、建築部材としての開発・実用化を進めた企業関係者が登壇しました。講演では、NIMSの吉中 奎貴主任研究員(構造材料研究センター)が金属疲労の解説とともに、疲労に強い材料の特異な変形機構と材料設計、溶接などの技術開発について紹介しました。続いて株式会社竹中工務店 技術研究所 未来・先端研究部 先端材料グループ長の井上泰彦氏から、長周期地震動と制振ダンパー、FMS合金の優位性の解説があり、また、実用化への展開に不可欠な企業における製造技術開発や部材評価といった、基礎研究の成果が研究機関と企業の連携で社会実装に至るプロセスや、技術導入の現状と今後の展望について紹介いただきました。
聴講者の声
「材料研究という観点で社会課題を解決するという命題をもって取り組まれていて素晴らしいと思いました」
「形状記憶合金と振動を紐づけた発想に感銘を受けました」
「これからも大胆な研究に挑戦していってください」
地震の大きな変形に繰り返し耐える新鋼材の開発について語る吉中 奎貴主任研究員
注目成果講演『眠らない研究者? — AIとロボットが拓く「超高速」材料開発』
これまでの新材料開発は、膨大な時間と試行錯誤の積み重ねによって進められてきました。もしAIが有望な材料を予測し、ロボットが休むことなく実験を続けることができれば、研究者は不要になるのでしょうか?本講演では、数十年かかることもある材料探索を、AIとロボットによって劇的に加速する最前線の研究について、田村 亮グループリーダー(マテリアル基盤研究センター)がNIMSでの取り組みを紹介しました。
講演の最後に、「AIはあくまで研究者の知的パートナーです。目標を定め、新しい発想を生み出し、結果に意味を与えるのは、これからも人間の役割です」と述べ、AI時代における研究者の重要性を強調しました。
聴講者の声
「最新の情報技術と地道な物質探索の両方が重要であると学べました」
「自動実験とAIの活用は、今後ますます重要になると思いました」
AIは「人間」とチームを組むことで材料開発の真価を発揮すると語る田村 亮グループリーダー
注目成果講演『材料もキントレで強くなる? —「疲労を味方にする」逆転の発想』
橋や自動車などが破壊する原因の多くは「金属疲労」によるもの。しかし、岡田 和歩主任研究員(構造材料研究センター)は金属疲労を逆手にとった「予疲労トレーニング」で、従来性能の限界を突破する強い鋼を実現しました。あらかじめ適正な負荷を材料に繰り返しかける、いわば材料に「キントレをさせる」新発想で、安全な社会をつくるNIMSの挑戦を紹介しました。
聴講者の声
「筋肉トレーニングと金属疲労を対応させている点が素晴らしい」
「大学の講義で金属の破断機構については学んでいましたが、このような発想は全くなかったので、目から鱗でした」
疲労破壊は構造物破壊事故の原因の約8割を占めると語る岡田 和歩主任研究員
『限界突破』をテーマに75のラボを公開 !
公開した75の研究室・実験施設では、超高速で変化する磁気現象の観察や再生医療を支える材料、AI・ロボットを活用した材料探索など、それぞれの研究者が「限界突破」に挑む最前線の研究を紹介しました。また、NIMSならではの大型研究設備や最先端の分析・評価装置も公開し、研究が実際に行われている現場を体感できる機会となりました。
来場者は、普段は立ち入ることのできない研究現場で、最先端の材料研究に取り組む研究者やエンジニアから直接説明を受けながら、研究内容や研究設備、材料科学の魅力に触れました。
さらに、将来材料科学を担う若い世代に、研究者との対話を通して研究現場をより深く体験してもらうため、23のラボは学生限定の事前予約制としました。全国各地から多くの学生が参加し、研究者の説明に熱心に耳を傾け、各ラボで活発な質疑応答が行われました。
来場者の声
「液体エレクトレットの研究室では、実際に作製されたセンサーを手に取ったり、反応している様子を見せてもらえ、とても興味深かった」
「命を救うものづくりに参加して、実際にどんな医療器具が使われるのかや、どんな素材が使われているのかがわかり、材料は医療にとってすごく重要だと感じた。将来の進路の参考になった」
「情報工学に興味があり、数理的な推論ではシミュレーションだけでなく、実験計画に参加できると知り、自分もMDPFの方のように情報分野から実験に参加してみたいと思った」
1500トン鍛造シミュレーターについて解説する黒田 秀治ユニットリーダー【千現5-1】
開発中の最先端の医療材料スマートポリマーの動作をデモで紹介【並木21-C】
新材料を含む多様な鉄鋼材料を様々な温度で衝撃破壊する研究について説明する上路 林太郎グループリーダー【千現1-A】
ヘリウム回収システムの重要性について語る二森 茂樹主席エンジニア【桜2-A】
研究者を疑似体験できる「研究者体験コース」
高校生から大学院生を対象に、研究者とともに実験や分析を体験できる「研究者体験コース」を実施しました。「蛍光体分子の設計・合成体験」「耐食金属材料・チタンのカラーリングと腐食評価体験」「TEM基本技術を体験」の3コースを開催し、参加者は実際の研究で用いられる装置や手法に触れながら、材料研究がどのように進められているのかを体験しました。
各回1時間半以上にわたる学生限定のプログラムで、今年も予約開始後すぐに満席となる人気ぶりでした。NIMSへの就職を希望する学生をはじめ44名が参加し、実習だけでなく、研究者との対話や参加者同士の交流を通して、進路や研究活動への理解を深める機会となりました。
参加者の声
「発光に特化した材料設計や目の前で次世代分子蛍光体が光るのを見てすごく感動しました」
「ステンレスが実はまだまだ新しい素材であると知ってとても驚きました」
「TEMを実際に見て将来の可能性を感じました」
TEM(透過型電子顕微鏡)の特徴について説明する上杉 文彦主幹エンジニア【研究者体験コース3】
NIMSの構内を巡り、歴史とトリビアに触れる「ガイドツアー」
NIMS創立25周年、金材技研70年、無機材研60年を記念し、千現と並木の両地区の特色とNIMSの歴史を感じられるツアーを合計6回実施し、123名の方にご参加いただきました。並木地区では、極限技術特殊実験棟や超高圧電子顕微鏡棟の特殊な構造の紹介をはじめ、理論研究棟の謎めいた佇まいや、昭和レトロな給水塔、千現地区では、つくば万博の日本政府館に展示されていたパネル作品の実物や、屋外暴露試験場を見学するなど、NIMSトリビアも交えたツアーの終了時には、拍手が起こり、質問も続きました。
参加者の声
「研究所全体を効率よく見学できた。歴史や研究の積み重ねに触れられた」
「ずっと疑問に思っていた“タワー”が何なのか知れたのが、良かった」
高圧力特殊実験棟(並木)や屋外暴露試験場(千現)を巡る様子
研究で未来を切り拓くーNIMS連携大学院のリアル
NIMS連携大学院ブースでは、連携大学院生の学生生活の様子も含めてNIMS連携大学院の制度を紹介したほか、インターンシップや若手国際研究センター(ICYS)などNIMSで研究するための様々な制度についても紹介しました。さらに連携大学院の教員を務める佐光貞樹主幹研究員(高分子・バイオ材料研究センター)による「材料科学者からのメッセージ」と題した講演も行いました。当日は、筑波大学、早稲田大学、東京理科大学、東京科学大学、東北大学をはじめとする約100名の大学生が来場しました。将来NIMSで研究者として活躍する可能性を持つ学生たちとの交流を通じて、NIMSの研究活動や人材育成制度を知っていただく機会となり、NIMSへの関心の高まりがうかがえました。
大学生の声
「NIMS連携大学院について詳しく知ることができた」
「研究者として国研で働くことへの理解が深まった」
「研究には正解がないという考え方に共感した」
学生の相談に答えるNIMS連携大学院の教員と連携大学院生(写真左)。NIMS連携大学院について説明する連携大学院生(写真右)。
「エンジニア職・事務職」業務説明会
エンジニア職・事務職それぞれの具体的な仕事内容や役割、職種間の連携について、実際に働く職員の体験談を交えながら紹介しました。当日は、県内外の大学生・大学院生や企業の方が参加し、いくつもの質問が寄せられ、活発な質疑応答が行われました。「各領域で実際に働いている方の話をもっと聞きたい」という声もあり、参加者の関心の高さがうかがえる説明会となりました。
「エンジニア職・事務職」業務説明会の様子
「クイズ ! まてりある」~1100名超が挑戦 ! 材料科学クイズ
「通常はすぐに逃げてしまう静電気を蓄え、長期間安定して保持できる — そんな“静電気の蓄電池”のような役割を果たす材料は、何と呼ばれているでしょうか?」
去年に続き、NIMSが研究する「物質」や「材料」にまつわるクイズ企画を3地区・計10か所で実施しました。来場者は、材料のユニークな性質や活用例をヒントに答えを考え、大学生同士で相談する姿や、子ども以上に保護者が熱心に解説を読み入る様子も見られました。
お問い合わせ先
E-Mail: openhouse=nims.go.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)