令和2年度文部科学大臣表彰をNIMS職員が受賞
2020.05.01
令和2年度科学技術分野の文部科学大臣表彰において、NIMS職員5名が受賞しました。
今年度の受賞者は、以下の5名です。
【科学技術賞 (研究部門) 】宝野 和博
【若手科学者賞】介川 裕章、中山 裕康
【創意工夫功労者賞】大里 啓孝
【研究支援賞】松下 能孝
科学技術賞 (研究部門) : 1名
日本の科学技術の発展等に寄与する可能性の高い独創的な研究又は開発を行った者を対象に贈られる賞です。
受賞者
【業績名】
ナノ構造を制御した先進磁性材料の研究
Nd-Fe-B、Fe-Pt、Co基ホイスラー合金などの強磁性体をモーターやデータストレージに応用するためには、これらの合金のナノ構造を制御して、それぞれの応用に適した磁気特性を発現する必要がありました。受賞者らはこれらの磁性体のナノ構造を3次元アトムプローブや電子顕微鏡で解析し、それをもとにナノ構造を制御した永久磁石材料と磁気記録用材料を開発しました。これらの研究により、ネオジム磁石の粒界が強磁性であることを発見、それを非磁性に改質することにより、Dyなどの重希土類元素を使わずにネオジム磁石を高保磁力化する手法を開拓しました。また、Fe-Pt系合金のナノ粒子の分散や配向を制御することに成功し、熱アシスト磁気記録方式に対応できるFePt-C系ナノ粒子分散型熱アシスト磁気記録媒体の基本構造の実現に成功しました。さらに、スピン分極率の高いCo基強磁性ホイスラー合金ナノ構造で制御し、高密度磁気記録の再生ヘッド応用に有望なホイスラー合金系低抵抗磁気抵抗素子を開発しました。
一連の成果は、磁石メーカーにおける脱ジスプロシウムネオジム磁石開発に指導原理を与え、日米のハードディスクメーカーにおける次世代高密度磁気記録研究開発に寄与しています。
若手科学者賞 : 2名
萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者を対象に贈られる賞です。
受賞者
【業績名】
高出力トンネル磁気抵抗素子のための新バリア材料の研究
トンネル磁気抵抗素子はスピントロニクス応用の中心的な素子として広く活用されていますが、その絶縁層 (バリア) に利用できる材料には制限があり高性能化が停滞していました。
介川は、新規バリアを精力的に開拓し、マグネシウムとアルミニウムの酸化物であるスピネルが良いバリアとなることを発見しました。この発見により課題であった磁性体との間の格子ミスマッチを解消し、高バイアス電圧印加時の磁気抵抗比が既存素子を大きく超えるなどの優れた性能を実証しました。また、スピネル材料が持つ豊かな組成バリエーションを活かし、用途に応じた柔軟なバリア設計ができることも示しました。
本研究成果は、スピントロニクス素子の適用範囲を大きく広げ、超高性能磁気センサーや大容量磁気メモリなど社会に大きな影響を与える応用分野の創成に繋がると期待されます。
受賞者
【業績名】
スピン流 - 電流相互変換を介した磁気抵抗効果に関する研究
スピン流は次世代電子技術候補であるスピントロニクスの基盤となることから、新しい物理原理に基づく生成・制御・計測手法の確立が求められています。しかし、純スピン流は電荷を伴わないためその電気的検出は容易ではなく、従来、高周波測定法や微細加工技術が用いられてきました。中山はスピン流変換型磁気抵抗効果を発見し、これを用いたスピン流定量手法を実証しました。これにより、高周波測定法や微細加工技術を用いない比較的簡便な磁気輸送測定による純スピン流の定量が可能となりました。また、中山はこの手法を応用することで、スピン流変換の光による操作の検出に成功するなど、スピン流変換現象に関する研究で成果を上げました。
本研究成果は、スピントロニクスにおけるスピン流物性の研究を加速し、スピン流を利用した革新的なスピントロニクスデバイスの実現に向けて大きく貢献するものと期待されます。
創意工夫功労者賞 : 1名
優れた創意工夫により職域における技術の改善向上に貢献した者を対象に贈られる賞です。
受賞者
【業績名】
酸化ガリウムドライエッチング技術の考案
酸化ガリウムは、高性能・低価格なパワーデバイスを実現できる可能性のある材料だが、デバイスプロセス技術が確立していなかったため、これまでその性能が発揮できるデバイスを試作できない状態でした。大里は、酸化ガリウムの特徴である大きな絶縁破壊強度を生かすために、従来のプレーナー構造からトレンチMOS構造への転換を目的として、ドライエッチング技術の開発を行いました。この技術によって試作したトレンチMOS型ショットキーバリアダイオードの動作実証結果によって、市販のシリコンカーバイド製ダイオードより低損失・低消費電力であることが示されました。
本研究成果は、酸化ガリウムパワーデバイスの発展を促進させ、今後成長が予想されるパワーデバイス市場の活性化および電気機器の省エネ化に繋がると期待されます。
研究支援賞 : 1名
本賞は今年度より新設された賞で、科学技術の発展や研究開発の成果創出に向けて、高度で専門的な技術的貢献を通じて研究開発の推進に寄与する活動を行い、顕著な功績があった者を対象に贈られる賞です。
受賞者
【業績名】
X線回折法を用いた物質開発および人材育成支援に対する貢献
物質開発において、X線回折法は最も初期に行う試料分析手法です。その一方、装置・解析ソフトの自動化に伴い、実験手法の基礎、結晶学およびデータ解析学が蔑ろにされてきています。事実、実験誤差・解析誤差を鑑みると、不正確な解析結果が公表されている事例が増加しており、加えて、近年は科学技術の進歩や社会・産業界の要請に伴い、研究ターゲットは非常に多様化しつつあります。その一方で、各分野における成果を正当に評価でき、装置開発も可能な (分析・装置) 技術者・研究者が減じているのが現状であり、その技術開発分野における次世代の育成、実験手法の標準化は急務です。本業績では、前項で示した様な各種問題点に対して、定常業務である装置の維持管理や依頼分析業務に加えて、出願者は依頼分析業務のみならず講習会の開催など次世代に対する啓蒙活動を行い、適切な成果の創出 (論文化) に努めて参ると共に、X線回折法に関する深い知識を基にISOなどの標準化にも寄与を果たしました。
本業績の支援を受け、2012年に現在のグループに所属して以降、国際学術雑誌に総数140報の学術論文を出版し、総数7件の論文賞などを受賞しています。
本業績により、所属機関全体での研究機器の共用体制が確立され、研究現場の研究生産性向上に大きく貢献すると共に、物質開発の促進ならびに次世代人材育成に貢献を果たしました。
関連ファイル・リンク
- 磁性・スピントロニクス材料研究拠点
- ICYS
- 技術開発・共用部門 (RNFS)