有機分子で世界初!1次元スピン1/2ハイゼンベルグ分子鎖を実現

~鎖の長さによって特性が変化 量子コンピュータへの新たな可能性~

NIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)

NIMSを中心とする国際共同研究チームは、表面での化学反応と超高分解能走査型プローブ顕微鏡を用いて、特定の電子状態を持つ分子を1次元に連結した「分子鎖」の合成に世界で初めて成功しました。この分子鎖は「スピン1/2ハイゼンベルグ反強磁性鎖」と呼ばれ、分子の数によって特性が変化することが明らかになりました。本成果は、有機分子の量子コンピュータ素子への展開につながることが期待できます。この研究成果は、2月28日にScience Advances誌にて掲載されました。

概要

従来の課題

炭素原子のπ結合から生じた自由に動き回る電子「π電子」について、そのスピンの特性を生かして有機分子をナノスピントロニクスへ展開する可能性が世界中で注目を集めています。ギャップ励起など、スピン同士の強い相互作用から物質全体で発現するさまざまな特性の存在は証明されてきました。しかし、分子ごとにスピンの状態を観察できる分子鎖の合成が困難であったため、単一のスピン同士がどのように相互作用をして物質全体の特性に影響しているのか、詳細な分析が困難でした。特に、スピン同士が相互作用して互いに反対方向を向く「スピン-1/2ハイゼンベルグモデル」を実現できる新たな分子の合成とその物性解明が強く望まれていました。

成果のポイント

今回、本研究チームは、金表面上で、合成で用いる前駆体分子の構造を工夫することにより、反応性の高い不対電子であるπ電子をもつ分子が連なる、1次元の分子鎖の合成に成功しました。さらに極低温かつ超高真空中で動作する走査型トンネル顕微鏡を用いた実験と理論計算により、隣り合うπ電子のスピンが互いに反対方向を向いており、分子が偶数連なった分子鎖ではギャップ励起を、奇数の鎖では低い電圧で抵抗が低くなる近藤励起を示すなど、スピン1/2ハイゼンベルグ反強磁性鎖に現れる物理現象が、連なっている分子の数に強く関連していることを明らかにしました。

図: ハイゼンベルクスピン1/2反強磁性体の偶奇効果

将来展望

1次元鎖を用いたこの成果を展開し、リング状構造体や2次元薄膜などトポロジカルスピンモデルやフラストレーションスピン系の実現に適したプラットフォームの実現など、量子マテリアルに関する今後の展開が期待できます。

その他

  • 本研究は、NIMSマテリアル基盤研究センターナノプローブグループの川井 茂樹 グループリーダー、Kewei Sun ICYS研究員、シンガポールNanyang Technological University 伊藤慎庫教授、フィンランドAalto University Adam S. Fosterからなる研究チームによって、JSPS科研費22H00285と24K21721の一環として行われました。
  • 本研究成果は、2025年2月28日に“Science Advances”のオンライン版に掲載されました。

掲載論文

題目 : On-Surface Synthesis of Heisenberg Spin-1/2 Antiferromagnetic Molecular Chains
著者 : Kewei Sun, Nan Cao, Orlando J. Silveira, Adolfo O. Fumega, Fiona Hanindita, Shingo Ito, Jose L. Lado, Peter Liljeroth, Adam S. Foster, Shigeki Kawai
雑誌 : Science Advances
掲載日時 : 2025年2月28日
DOI : 10.1126/sciadv.ads1641

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お問い合わせ先

研究内容について

NIMS マテリアル基盤研究センター
ナノプローブグループ
グループリーダー
川井 茂樹 (かわい しげき)
E-mail: KAWAI.Shigeki=nims.go.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)
TEL: 029-859-2751
URL: https://www.nims.go.jp/group/Nanoprobe/ (ナノプローブグループ)

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