電磁波を散乱なく伝送する「トポロジカルLC回路」の発見

~蜂の巣構造が鍵、携帯電話などマイクロ電磁波を伝送するデバイスの小型化に新しい道~

2018.11.19


国立研究開発法人 物質・材料研究機構

NIMSは、直角や鋭角の経路でも電磁波が散乱を受けずに伝送される「蜂の巣状トポロジカルLC回路」の作製に成功しました。

概要

  1.  NIMSは、直角や鋭角の経路でも電磁波が散乱を受けずに伝送される「蜂の巣状トポロジカルLC回路」の作製に成功しました。エレクトロニクスに幅広く使われている高周波電磁導波路に応用することで、コンパクトな設計が実現し、携帯電話など様々な電子デバイスの小型化・高集積化に貢献できると期待されます。
  2. ものの形状が変化しても、その変化に影響されない「トポロジカルな性質」を持つ物質の研究が盛んに行われています。もともと電子系で発見されたトポロジカルな性質ですが、近年、光や電磁波にも拡張できることが明らかとなり、散乱に強い光・電磁導波路の開発に役立つと期待されています。しかし、光や電磁波でトポロジカルな性質を実現するには、ジャイロ物質と呼ばれる特殊な物質に磁場を印加したり、複雑な構造が必要とされており、既存のエレクトロニクスやフォトニクスの技術と融合するために、単純な物質と構造でトポロジカルな性質を実現することが求められていました。
  3. 本研究グループは、2015年にシリコン等誘電体の円柱を蜂の巣格子に組むことによって、光・電磁波のトポロジカルな性質を実現できることを示しました。今回、高周波の電磁波を伝送するマイクロストリップとよばれる平坦な回路において、線状金属箔が蜂の巣構造を持つように設計し、六員環をつくる金属箔と六員環同士を繋げる金属箔の線幅を異なるようにすれば、伝送される電磁波がトポロジカルな性質を持つことを理論的に見いだしました。さらに、実際にマイクロストリップを作製し、表面の電場を測定することで、マイクロストリップ内部で決まった方向の電磁エネルギー渦巻きを作りながら伝搬するという、トポロジカル電磁波の様子を詳細に観測することに成功しました。
  4. 今回の研究によって、簡単な加工でトポロジカルな性質を持つ電磁波の伝送を実現できることが実証されました。トポロジカル電磁伝送は鋭角や直角の経路からも散乱を受けないため、コンパクトな電磁回路の設計が可能となり、デバイスの小型化・高集積化が期待できます。また、トポロジカル電磁モードが持つ渦巻きの方向と巻き数は、情報の担い手として高密度な情報伝達に利用できます。これらの特性はいずれも、IoTや車の自動運転等に代表される高度情報化社会の実現に寄与するものです。
  5. 本研究は、物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (WPI-MANA) の古月暁MANA主任研究者、苅宿俊風研究員と、中国Tongji大学Hong CHEN教授のグループからなる研究チームによって行われました。また本研究は 、日本学術振興会科学研究費助成事業基盤研究 (B) 「実空間操作によるトポロジカル状態発現の摂理探索と新規機能の創成」の一環として行われました。
  6. 本研究成果は、Nature Communications誌にて2018年11月2日にオンラインで掲載されました。

「プレスリリース中の図 : 実験に使われたマイクロストリップの写真 (左) と有効LC回路 (右)」の画像

プレスリリース中の図 : 実験に使われたマイクロストリップの写真 (左) と有効LC回路 (右)



掲載論文

題目 : Topological LC-circuits based on microstrips and observation of electromagnetic modes 
with orbital angular momentum
著者 : Yuan Li, Yong Sun, Weiwei Zhu, Zhiwei Guo, Jun Jiang, Toshikaze Kariyado, Hong Chen and Xiao Hu
雑誌 : Nature Communications 
掲載日時 : 2018年11月2日

本件に関するお問合せ先

(研究内容に関すること)

国立研究開発法人 物質・材料研究機構
国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (WPI-MANA)
ナノシステム物性理論グループ
MANA主任研究者
古月暁 (ふるつきぎょう)
TEL: 029-860-4897
E-Mail: Hu.Xiao=nims.go.jp
([ = ] を [ @ ] にしてください)

(報道・広報に関すること)

国立研究開発法人 物質・材料研究機構
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