理事長挨拶(2023年1月)

NIMS理事長 宝野 和博
あけましておめでとうございます。2023年の年頭にあたりご挨拶を申し上げます。
昨年4月にNIMSの理事長に就任してから8カ月の間に多様なステークホルダーのご意見を伺う機会を得ましたが、改めて特定国立研究開発法人としてのNIMSには大きな期待が寄せられていることを感じました。この期待に応えるべく、引き続き材料科学技術における世界最高水準の成果の創出と、その社会還元に努めてまいります。
昨年は日本の科学技術競争力が世界的に低下の一途をたどっているという報道を頻繁に耳にしましたが、そのような中、政府は、科学技術イノベーションを我が国の経済再生の原動力であると明確に位置づけ、先端科学技術への大胆な投資、スタートアップへの徹底支援に取り組み始めました。その一方で、我が国の人口減、大学院博士課程学生の長期減少傾向を考えると、研究者が個人レベルで努力するだけでは十分ではなく、NIMSが組織として研究力を一層高めるための戦略を立て、それを着実に実行することが重要と考えています。
NIMSにおいては、本年4月1日より第5期中長期計画が始まります。第4期からの大きな変更点は、これまでさまざまな分散していた高分子・バイオ系の研究者を結集した「高分子・バイオ材料研究センター」を新たに発足することです。この分野の研究を強化するために動物実験施設、有機系材料実験室の拡充を行っています。また、運営費交付金プロジェクトでは、7研究センター (エネルギー・環境材料、磁性・スピントロニクス材料、構造材料、電子・光機能材料、ナノアーキテクトニクス材料、高分子・バイオ材料、マテリアル基盤) において基盤研究を継続的に進めていきます。それと平行して、量子材料、カーボンニュートラル、バイオマテリアルなど、時代の要請によりタイムリーに取り組むべき課題は重点プロジェクトとして組織横断的に柔軟な体制で進めてまいります。これら運営交付金による研究は国の戦略に基づくミッション研究と呼んでいますが、ミッションだけでは優秀な人材を魅了するのに十分ではないと考えます。よって、NIMSの自己収入を活用して、個人の発想と裁量で自由に行える基礎研究もしっかりと支援します。我が国の大学・研究機関の競争環境が強まるなか、優秀な人材を魅了できるよう、NIMSのブランディング力を強化し、採用についても定期公募以外でも的確な人材を迅速に採用できる制度を整えていきます。
我が国の輸出の25%を占める素材産業の基盤研究を支える人材が不足してきているなか、データ駆動型手法を活用して、マテリアル開発効率的に行っていく必要があります。そのためにマテリアルデータ中核拠点を整備し、そこで収集・蓄積されたデータを研究者が活用できる基盤を構築します。近年、国際舞台での日本人研究者の存在感が低下し、国際化の重要性が改めて指摘され始めています。NIMSで世界最高水準のマテリアル研究を行って行くためには、海外の研究機関や大学に所属するマテリアル研究者とグローバルに連携できる体制を構築する必要があり、コロナ禍により途絶えていた国際的な人材交流を再活性して行きます。
NIMSは特定国立研究開発法人として、基礎・基盤研究に閉じず、イノベーション創出にも貢献することが期待されています。これまでも企業とのCOEセンターやマテリアルオープンプラットフォーム (MOP) を通して産業界とさまざまな共同研究を実施してきました。これに加えて、研究者自らが新材料を社会実装させるためのスタートアップ支援も行ってまいります。NIMSが材料科学技術において世界的な存在であり続けるためには、グローバルな視点で研究環境の変化に柔軟に対応し、積極的に新たな挑戦を続けていくことが必要であると感じています。
理事長としてNIMSの研究力の一層の向上のために尽力していく所存ですので、本年もご支援、ご指導を賜りますようどうぞよろしくお願い申し上げます。
