毒性元素を含まない直接遷移型の近赤外線向け半導体を発見

~テルル化カドミウム水銀、ヒ化ガリウムを代替する近赤外線用素子実現への期待~

2020.12.11


国立研究開発法人 物質・材料研究機構 (NIMS)
国立大学法人 東京工業大学 元素戦略研究センター

NIMSは東京工業大学と共同で、安価で毒性の無いカルシウム、シリコン、酸素から構成される「Ca3SiO」が、赤外線用のLEDや検出器として応用が可能な直接遷移型の半導体であることを発見しました。

概要

  1. NIMSは東京工業大学と共同で、安価で毒性の無いカルシウム、シリコン、酸素から構成される「Ca3SiO」が、赤外線用のLEDや検出器として応用が可能な直接遷移型の半導体であることを発見しました。現在、赤外線領域で利用されている半導体の多くは、カドミウム、テルルなどの毒性元素を含むのに対し、今回発見したCa3SiOは、安価な非毒性の元素のみからなるという付加価値を備えた新たな近赤外線向け半導体としての応用が期待されます。
  2. 赤外線は、光ファイバー通信、太陽電池、暗視装置等に用いられる産業上、非常に有益な波長帯です。これまで、赤外線領域で利用される半導体として、テルル化カドミウム水銀、ヒ化ガリウムなどの毒性元素を含む材料が用いられてきました。一方、毒性のない元素からなる赤外半導体は、専ら発光特性などが期待できない間接遷移型と呼ばれる半導体です。そのため、毒性のない元素から構成され、かつ、バンドギャップが赤外線領域にあり、高機能素子への応用が可能な直接遷移型半導体の開発が望まれていました。
  3. 本研究グループは、毒性元素を含まない半導体を見つけ出すために、まずは従来の半導体の探索指針とは異なる指針を検討しました。従来は、周期表のⅢ族 - Ⅴ族、または、Ⅱ族 - Ⅵ族のように、周期表のⅣ族元素の左右に位置する元素を組み合わせて、バンドギャップなどの半導体特性を制御してきました。そのため、テルル化カドミウム水銀、ヒ化ガリウムのように、毒性元素が含まれる組み合わせを利用しなくてはなりませんでした。そこで、通常+4価の陽イオンとしてふるまうシリコンが - 4価の陰イオンとして寄与する結晶構造に着目しました。そして、逆ペロブスカイト型結晶構造を持つ酸珪化物であるCa3SiOなどの物質群を選択し、その合成、物性評価、および、理論計算を進めた結果、それらのバンドギャップが約0.9 eV (波長では1.4μm) という小さな値を示し、直接遷移型の半導体となることを見出しました。バンドギャップが小さいほど長波長の赤外線を吸収したり、検出したりできる材料となり、また、直接遷移型であることから、赤外線発光特性や、薄くしても光を漏らさず吸収する特性が期待できるため、LED等の赤外線光源や赤外線検出器を構成することのできる新しい近赤外線向け半導体として非常に期待できる材料です。
  4. 今後、発見した半導体の大型単結晶の合成、薄膜成長プロセスの開発、ならびに、ドーピング・固溶による物性制御を進め、赤外線領域の高輝度LEDや高感度検出器の開発を目指していきます。これらの実現によって、これまで用いられてきた毒性元素を含む近赤外線向け半導体素子を、毒性の無い元素で構成された素子に代替させることができると期待されます。
  5. 本研究は、国立研究開発法人物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点の大橋直樹拠点長と、University College London (UCL)のA. Shluger教授からなる研究チームによって、国内では、文部科学省元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型 電子材料拠点>の一環として、また、英国・UCLとの日本学術振興会研究拠点形成事業を通じた交流によって実施されました。
  6. 本研究成果は、米国化学会刊行のInorganic Chemistry誌への掲載が決定し、現地時間2020年12月10日にオンライン版として掲載されます。

「プレスリリース中の図 : Ca3SiO 半導体の逆ペロブスカイト型結晶構造」の画像

プレスリリース中の図 : Ca3SiO 半導体の逆ペロブスカイト型結晶構造



掲載論文

題目 : Inverse perovskite oxysilicides and oxygermanides as candidates for non-toxic infrared semiconductor and their chemical bonding nature
著者 : Ohashi, Naoki; Mora-Fonz, David; Otani, Shigeki; Ohgaki, Takeshi; MIYAKAWA, Masashi; Shluger, Alexander
雑誌 : Inorganic Chemistry
DOI : 10.1021/acs.inorgchem.0c02897
掲載日時 : 現地時間2020年12月10日

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拠点長 大橋 直樹 (おおはし なおき)
TEL: 029-860-4437
E-Mail: OHASHI.Naoki=nims.go.jp
([ = ] を [ @ ] にしてください)
国立大学法人 東京工業大学 元素戦略研究センター
特任教授 雲見 日出也 (くもみ ひでや)
E-Mail: kumomi=mces.titech.ac.jp
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