ほぼ室温超伝導を示す高圧下ランタン水素は量子固体だった

~予測より低い圧力で超伝導になる理由を理論的に説明 低圧での室温超伝導実現へ道筋~

2020.02.06


国立研究開発法人 物質・材料研究機構 (NIMS)
国立大学法人 東北大学
国立大学法人 東京大学
国立研究開発法人 理化学研究所

NIMSと東北大学、東京大学、理研などで構成される国際研究チームは、温度-23℃というほぼ室温で超伝導になる高圧下ランタン水素が、原子核の量子ゆらぎのおかげで広い圧力域で安定に存在する「量子固体」であることをコンピュータシミュレーションにより発見しました。この発見は、水素を多く含んだ水素リッチ化合物による高温超伝導やさらには室温超伝導がこれまで考えられていたよりも遙かに低い圧力で実現できる可能性を示しています。

概要

  1. NIMSと東北大学、東京大学、理研などで構成される国際研究チームは、温度-23℃というほぼ室温で超伝導になる高圧下ランタン水素が、原子核の量子ゆらぎのおかげで広い圧力域で安定に存在する「量子固体」であることをコンピュータシミュレーションにより発見しました。この発見は、水素を多く含んだ水素リッチ化合物による高温超伝導やさらには室温超伝導がこれまで考えられていたよりも遙かに低い圧力で実現できる可能性を示しています。
  2. 超伝導物質はゼロ抵抗でエネルギーロスの無い送電が可能であるため、環境エネルギー問題解決のカギとして注目されています。特に室温超伝導の実現は人類の長らくの夢であり、これまで多くの研究が行われてきました。そのような中、130~220 GPaの高圧力下でランタン水素が絶対温度250K (-23℃) というほぼ室温で超伝導化することが2019年に報告され、それまでの超伝導転移温度の最高記録を塗り替えました。高い温度で超伝導を実現する立方晶構造のLaH10は130~220 GPaの広い圧力域で安定に存在しています。しかし、これまでの理論計算はこの構造を安定化するには230 GPa以上の高圧が必要であると予測していました。なぜ理論予測より100 GPaも低い圧力で立方晶構造が安定なのか、その理由に注目が集まっていました。
  3. 本研究では、これまでの理論計算で無視されていた原子核の量子ゆらぎに注目し、この効果を取り入れたコンピュータシミュレーションを行いました。その結果、高圧下ランタン水素において水素原子核の量子ゆらぎが極めて大きいこと、そして立方晶LaH10が量子ゆらぎ効果によって広い圧力域で安定化している「量子固体」状態であることを明らかにしました。また、量子ゆらぎ効果を考慮した計算によって、実験で得られた超伝導転移温度を圧力依存性も含め精度良く説明することにも成功しました。
  4. 原子核の量子ゆらぎは、多くの物質で見られる普遍的な現象です。現在、高圧下ランタン水素の超伝導転移温度をさらに塗り替える別の水素リッチ化合物の発見が期待されています。量子ゆらぎ効果を考慮する本研究のシミュレーション手法を用いることで、そのような候補物質の組成・構造の理論予測がより高い精度で可能になります。今後は適用対象を広げ、室温超伝導物質の理論予測を目指します。
  5. 本研究は、物質・材料研究機構 磁性・スピントロニクス材料研究拠点の只野央将研究員、東北大学理学研究科の是常隆准教授、東京大学大学院工学系研究科の有田亮太郎教授 (理化学研究所創発物性科学研究センター計算物質科学研究チームチームリーダー) 、バスク大学のIon Errea博士、マックス・プランク研究所のAntonio Sanna博士、ソルボンヌ大学のMatteo Calandra博士、ローマ・ラ・サピエンツァ大学のFrancesco Mauri教授、José A. Flores-Livas博士らからなる国際研究チームによって行われました。また、本研究の一部は科研費 (No. 16H06345)「強相関物質設計と機能開拓 - 非平衡系・非周期系への挑戦 - 」、 (No. 18K03442)「第一原理計算に基づく多面的なアプローチによる超伝導物質探索」、 (No. 19H05825)「量子液晶の理論構築」の一環として行われました。
  6. 本研究成果は、Nature誌にて現地時間2020年2月5日午後6時 (日本時間6日午前3時) にオンライン掲載されます。

「プレスリリース中の図 : 立方晶LaH10の結晶構造とポテンシャルエネルギー曲面の概念図」の画像

プレスリリース中の図 : 立方晶LaH10の結晶構造とポテンシャルエネルギー曲面の概念図



掲載論文

題目 : Quantum crystal structure in the 250-kelvin superconducting lanthanum hydride
著者 : Ion Errea, Francesco Belli, Lorenzo Monacelli, Antonio Sanna, Takashi Koretsune, Terumasa Tadano, Raffaello Bianco, Matteo Calandra, Ryotaro Arita, Francesco Mauri, and José A. Flores-Livas
雑誌 : Nature
掲載日時 : 現地時間2月5日午後6時 (日本時間6日午前3時)
DOI : 10.1038/s41586-020-1955-z

本件に関するお問合せ先

(研究内容に関すること)

国立研究開発法人 物質・材料研究機構
磁性・スピントロニクス材料研究拠点 
磁性理論グループ
研究員 只野央将 (ただの てるまさ)
TEL: 029-859-2332
E-Mail: Tadano.Terumasa=nims.go.jp
([ = ] を [ @ ] にしてください)
国立大学法人 東北大学
大学院理学研究科物理学専攻
准教授 是常隆 (これつね たかし)
E-Mail: koretsune=cmpt.phys.tohoku.ac.jp
([ = ] を [ @ ] にしてください)
国立大学法人 東京大学
大学院工学系研究科物理工学専攻
教授 有田亮太郎 (ありた りょうたろう)
(理化学研究所創発物性科学研究センター計算物質科学研究チームチームリーダー)
E-Mail: arita=ap.t.u-tokyo.ac.jp
([ = ] を [ @ ] にしてください)

(報道・広報に関すること)

国立研究開発法人 物質・材料研究機構
経営企画部門 広報室
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FAX: 029-859-2017
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