世界最高レベルの波長分解能を持つ分光型赤外線センサーを開発
~50nm台の波長分解能と±1°の指向性を実現 より高度な温度センサーや位置センサー実現へ~
国立研究開発法人 物質・材料研究機構 (NIMS)
国立研究開発法人 科学技術振興機構 (JST)
NIMSは物質の熱ふく射を波長分解し、かつ、飛来する方向を絞って検出できる多波長型の赤外線センサーを開発しました。このセンサーは50 nmの波長分解能と±1°の指向性を持ち、これにより、熱ふく射の波長分布やその温度変化が未知の物体であっても、非接触で真温度を計測でき、その物体の状態を判別するセンサーへの応用が期待されます。また、精度の高い位置センサーやガスセンサーなどへの応用も期待できます。
概要
- NIMSは物質の熱ふく射を波長分解し、かつ、飛来する方向を絞って検出できる多波長型 (分光型) の赤外線センサーを開発しました。このセンサーは50 nmの波長分解能と±1°の指向性を持ち、これにより、熱ふく射の波長分布やその温度変化が未知の物体であっても、非接触で真温度を計測でき、その物体の状態を判別するセンサーへの応用が期待されます。また、精度の高い位置センサーやガスセンサーなどへの応用も期待できます。
- 地上の全ての物体は熱ふく射として電磁波を放出しており、物体を構成する材料の種類や状態に応じて異なる波長分布の電磁波を放出しています。しかし、既存のサーモグラフィーや赤外線カメラには、電磁波を波長分別する能力が無く、広い波長範囲の総和としてしか計測されません。そのため、あらかじめ波長分布が分かっている人体などは比較的正確に温度が求められますが、熱ふく射の波長分布が分からないコーティング材料や、分布が温度と共に変化するような半導体材料などの温度計測では、大きな誤差が生じ問題となっていました。
- 本研究グループは、1 cm×1 cmのシリコンチップ上に、それぞれ異なる波長に応答する赤外線素子を4つ搭載した、分光型のオンチップ赤外線センサーを開発しました。一つ一つの素子は、特定の波長の電磁波だけを熱に変える表面構造を持ち、発生した熱を焦電体で電気信号に変換します。具体的には、極微小な隆起構造を周期的に配置し、その隆起構造の周期を調整することで吸収する波長を調整することができ、かつ垂直に入射した波長のみを吸収します。さらに隆起構造のサイズと高さを精密に調整することで、高い感度と指向性、そして世界最高クラスの波長分解能を実現することに成功しました。本研究では、中赤外帯域(3.5µm~3.9 µm)の4つの波長に対して50nm台の波長分解能で応答し、かつ指向性も±1°となるように4つの素子を製作して並べることで、世界初の高い波長分解能と指向性とを同時に持つ、多波長オンチップセンサーを実現しました。
- 今回の成果を応用することで、温度などの状態や物体の材質に関する情報を非接触で「見る」ことができ、真温度計測、工場ラインの品質状態管理、住宅やオフィスのひと見守りセンサー、車載環境センサーなど、高度な認知能力を持つセンサーシステムの開発につながることが期待されます。
- 本研究は、物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 長尾忠昭グループリーダーらの研究グループによって行われました。また、科学技術振興機構 (JST)戦略的創造研究推進事業CREST「エネルギー高効率利用のための相界面科学」研究領域における研究課題「セラミックスヘテロ層における界面電磁場制御と熱エネルギー利用」 (研究代表者 : 長尾 忠昭) による研究支援のもとで行われました。本研究成果は、2019年8月26日に「Advanced Science」誌のオンライン速報版で公開されます。
プレスリリース中の図 : 今回製作した4波長赤外線センサー。 (左) 4波長センサー全体の光学顕微鏡写真。 (中) 1波長分の素子の中の電磁波吸収構造の光学顕微鏡写真。 (右) さらに拡大した走査電子顕微鏡写真。