1111型鉄系超伝導体母物質の電子状態解明

~ディラック電子も確認 鉄系超伝導の起源解明と新規デバイス開発に期待~

2018.02.01


国立研究開発法人 物質・材料研究機構
立命館大学

NIMSは立命館大学らと共同で、高温超伝導体として有望な鉄系超伝導体探索のもととなる母物質「CaFeAsF」の電子状態を実験的に解明し、ディラック電子と呼ばれる特殊な電子の存在を確認しました。

概要

  1. NIMSは立命館大学らと共同で、高温超伝導体として有望な鉄系超伝導体探索のもととなる母物質「CaFeAsF」の電子状態を実験的に解明し、ディラック電子と呼ばれる特殊な電子の存在を確認しました。鉄系超伝導体が超伝導になる起源解明にむけた重要な基礎的知見となると期待されます。
  2. 2008年に東工大・細野教授らの報告した鉄系超伝導体は、発見からわずか1年で超伝導転移温度が30度も上昇したため、高温超伝導体の有力な候補物質として注目され、より高い転移温度を実現するために、超伝導発現の機構解明が進められています。超伝導研究では、母物質の一部の元素を置換して新たな超伝導体の探索が行われるため、超伝導発現機構の解明には、母物質の電子状態の解明が重要ですが、最も高い超伝導転移温度である絶対温度56度を示す1111型と呼ばれる鉄系超伝導体の母物質については、不純物や欠陥の少ない高品質な試料の作製が難しく、電子状態の実験的解明が進んでいませんでした。
  3. 今回、共同研究チームは、1111型鉄系超伝導体の母物質である「CaFeAsF」について、電子状態の最も重要な指標である、最もエネルギーが大きい電子の状態を示した「フェルミ面」を完全に決定しました。中国の研究チームが合成した高品質CaFeAsF単結晶を使い、NIMSと米国の研究チームが、超低温、強磁場中で量子振動を測定することによりフェルミ面の実験的な観測に成功しました。観測されたフェルミ面は、電子的およびホール的の2種類の円筒状フェルミ面からなり、電気伝導を担うキャリア数が特異に少ないなど、理論的な予測と一致することが、立命館大学による理論研究との比較から確認されました。さらに、量子振動の詳細な解析により、電子的なフェルミ面が、不純物の影響を受けにくく固体中を高速で移動する「ディラック電子」と呼ばれる特別なタイプの電子によるものであることを明らかにしました。
  4. 今回明らかになった1111型母物質の電子状態は、鉄系超伝導の起源解明にとって重要な基礎的知見となります。また、ディラック電子の存在を確認したことで、超伝導とディラック電子を組み合わせた新たな機能性を持った電子デバイスの開発につながると期待されています。
  5. 本研究は国立研究開発法人物質・材料研究機構機能性材料研究拠点量子輸送特性グループ寺嶋太一主席研究員らと、立命館大学池田浩章教授らが、中国科学院上海微系统与信息技术研究所(SIMIT)、米国国立強磁場研究所(NHMFL)と共同で行いました。本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(JP17K05556, 17J06088, 16H04021, 16H01081)、中国科学院(the Youth Innovation Promotion Association of the Chinese Academy of Sciences No. 2015187 )、 (中国) 国家自然科学基金委员会(National Natural Science Foundation of China No. 11574338)の支援を受けています。また、研究の一部が実施された米国国立強磁場研究所(NHMFL)は米国国立科学財団(National Science Foundation Cooperative Agreement No. DMR- 1157490)およびフロリダ州の支援を受けています。
  6. 本研究成果は米国物理学会の発行するPhysical Review X誌に掲載され、オンライン版が2018年2月1日に公開予定です。 (論文 : Taichi Terashima, Hishiro T. Hirose, David Graf, Yonghui Ma, Gang Mu, Tao Hu, Katsuhiro Suzuki, Shinya Uji, and Hiroaki Ikeda "Fermi surface with Dirac fermions in CaFeAsF determined via quantum oscillation measurements" Physical Review X, DOI: 10.1103/PhysRevX.8.011014)

「(左) CaFeAsFの電気抵抗とその磁場微分。電気抵抗が約5 Tより高磁場で上下にうねっているのが量子振動 (赤色のライン) 。微分では振動がよりはっきりと見える (黄色のライン) 。測定温度は絶対温度0.03 K。 (右) バンド計算によるフェルミ面。赤色で示したホール的なフェルミ面と緑色の電子的フェルミ面がある。下にある挿入図はエネルギーバンドの計算結果の一部。赤と青で示した二つのエネルギーバンドが交差するところにディラック電子が出現し緑色の電子的フェルミ面を作る。」の画像

(左) CaFeAsFの電気抵抗とその磁場微分。電気抵抗が約5 Tより高磁場で上下にうねっているのが量子振動 (赤色のライン) 。微分では振動がよりはっきりと見える (黄色のライン) 。測定温度は絶対温度0.03 K。
(右) バンド計算によるフェルミ面。赤色で示したホール的なフェルミ面と緑色の電子的フェルミ面がある。下にある挿入図はエネルギーバンドの計算結果の一部。赤と青で示した二つのエネルギーバンドが交差するところにディラック電子が出現し緑色の電子的フェルミ面を作る。



本件に関するお問い合わせ先

(研究内容に関すること)

国立研究開発法人 物質・材料研究機構
機能性材料研究拠点
量子輸送特性グループ
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TEL: 029-863-5510
E-Mail: TERASHIMA.Taichi=nims.go.jp
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立命館大学
理工学部 教授
池田 浩章 (いけだ ひろあき)
TEL: 077-561-2851
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