発電菌が発電時に発酵していることを発見

~微生物燃料電池と高効率な物質・材料生産を両立する技術への応用に期待~

2017.07.13


国立研究開発法人物質・材料研究機構

NIMSと東京大学の研究チームは、微生物燃料電池に応用されている細菌「発電菌」において、これまで発電時に呼吸しかしないと考えられてきた発電菌が、発酵を行っていることを明らかにしました。

概要

  1. 国立研究開発法人物質・材料研究機構 (NIMS) エネルギー・環境材料研究拠点の岡本章玄主任研究員、東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻の徳納吉秀 大学院生 (JSPS特別研究員 DC1) 、元同所属の橋本和仁教授 (現NIMS理事長) の研究チームは、微生物燃料電池に応用されている細菌「発電菌」において、これまで発電時に呼吸しかしないと考えられてきた発電菌が、発酵を行っていることを明らかにしました。さらに、発酵反応が高速化する仕組みも見出しました。呼吸より発酵の方が多様な物質生産へと繋がるため、発電菌の発酵反応を高効率に進行させることで、発酵と発電を組み合わせた新しい物質生産技術への展開が期待できます。
  2. 細菌は一般的に、「呼吸」と「発酵」という代謝反応によって、有機物を分解して生きていくエネルギーを得ています。有機物を分解する際に電子 (還元力) が発生しますが、呼吸では電子を細胞外の物質に渡してエネルギーを得ているのに対し、発酵では細胞外への電子の移動はありません。発電菌は、有機物の分解で発生した電子を体外の電極に渡すことができるため、電気の供給源として利用することができます。そのため、発電菌が発電できるのは呼吸をしているからであって、発酵は起きていないと考えられてきました。一方、細菌の呼吸や発酵は、産業として広く応用されており、特に発酵はお酒の製造から薬剤前駆体やバイオプラスチックなど、多様な物質生産が可能です。もし発電菌で発酵を起こすことができれば、発電しながら同時に多様な物質を生産できる技術を開発できます。
  3. 今回、本研究チームは、シェワネラ菌という発電菌を用いて、発電時に発酵反応が起こっていることを明らかにしました。シュワネラ菌の呼吸で働く酵素と発酵で働く酵素をそれぞれ欠損させて、それぞれの場合の電流や増殖速度を調べました。すると、呼吸で働く酵素が欠損しても電流や増殖速度に変化がない一方で、発酵で働く酵素が欠損すると電流や増殖速度が大きく減少することが分かりました。電子が細胞外へ移動しているため、外から見ると呼吸反応が進行しているように見えますが、細胞内では発酵反応が進行している状態であり、この結果は、いわば「発酵的呼吸」と呼べる仕組みが働いていることを示しています。さらに、この発酵反応は、電子と一緒に移動するプロトン (水素イオン) の移動速度を速くすることで高速化が可能であり、電極上での高効率な発酵反応の実現が期待できます。
  4. 本研究によって、発電菌が新しいタイプの代謝を行っていることが明らかになりました。今後は、プロトンの移動速度がどのように制御されているか、その仕組みを理解し、発酵反応を効率化することで、高効率な物質生産技術への展開を目指していきます。また、生物合成のモデル菌である大腸菌を遺伝子工学によって発電菌として機能させることが可能であり、様々な研究開発が行われている大腸菌の代謝反応が、プロトン移動を速くすることで加速できることが期待できます。
  5. 本研究は、JSPS科研費 特別推進研究 (24000010)、若手研究A (17H04969)等の一環として行われました。
  6. 本研究成果は、Angewandte Chemie International Edition誌のオンライン版にて現地時間2017年6月29日に掲載されました。

「カーボン電極上で発電する発電菌の電子顕微鏡像」の画像

カーボン電極上で発電する発電菌の電子顕微鏡像



本件に関するお問合せ先

(研究内容に関すること)

国立研究開発法人物質・材料研究機構
エネルギー・環境材料研究拠点
主任研究員 岡本 章玄 (おかもと あきひろ)
TEL: 029-860-4430
E-Mail: okamoto.akihiro=nims.go.jp
([ = ] を [ @ ] にしてください)

(報道・広報に関すること)

国立研究開発法人物質・材料研究機構
経営企画部門 広報室
TEL : 029-859-2026
FAX : 029-859-2017
E-Mail: pressrelease=ml.nims.go.jp
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