平成30年度文部科学大臣表彰をNIMS職員が受賞
2018.04.17
(2018.05.21 更新)
平成30年4月17日、平成30年度科学技術分野の文部科学大臣表彰の表彰式が行われ、NIMS職員7名が表彰されました。
科学技術賞 (開発部門)
【業績名】
超高性能嗅覚センサ素子と関連技術体系の開発
【受賞者】
吉川 元起 (国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 ナノメカニカルセンサグループ グループリーダー)
柴 弘太 (国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 ナノメカニカルセンサグループ 主任研究員)
今村 岳 (国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 独立研究者)
五感センサで最も社会実装が遅れている人工嗅覚を実現するためには、要求される性能を有する新たなセンサ素子と感応膜の開発に加え、多次元データ分析技術を含む関連要素技術との統合が必要でした。
本開発では、従来比100倍以上の高感度とモバイル機器に埋め込めるほどの超小型を両立し、人工嗅覚の実現に必要となる各種特性を網羅したセンサ素子「膜型表面応力センサ (Membrane-type Surface stress Sensor, MSS) 」の開発に成功しました。また、MSSに塗布してガスを吸着させる感応膜として、高性能な有機無機ハイブリッド系ナノ粒子材料群をはじめとする各種機能性材料の開発に成功しました。さらに、機械学習を駆使したハードウェアとソフトウェアの双方向最適化指針と新たな解析技術を確立しました。
本開発により、人工嗅覚の開発に必要となる基礎的な要素技術体系が提供され、産学官連携「MSSアライアンス」および実証実験活動「MSSフォーラム」の発足に至りました。
本成果は、食品、医療、環境、安全などにおける、既存の置き換えではない全く新しい産業群創出への基盤形成に寄与しています。
科学技術賞 (理解増進部門)
【業績名】
五感で学ぶ体験型サイエンスショーによる材料科学の普及啓発
【受賞者】
荏原 充宏 (国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 MANA准主任研究者)
材料科学 (ものづくり) は、これまで我が国が世界をけん引してきた科学と社会をつなぐ重要な学問であり、特に資源に乏しい我が国としては、Made in Japanの重要性を社会に普及啓発することは極めて重要です。しかし、身の回りの様々な道具 (材料) とその原料 (物質) とを頭の中で結びつけるのは困難です。
本活動では、映像や実験体験、触っていい展示物などを融合し、さらに科学ヒーローをモチーフとしたキャラクター「スマポレンジャー」を考案し、“ナノ戦隊スマポレンジャーショー”を通じて五感で学べる材料科学の普及啓発を行っています。さらに、サインエンスショーの他、家でも家族と科学について熱く語る機会を作るため、実際の素材のサンプルやマンガ本の配布、PDFの無料ダウンロードサービスなども提供しています。これらの活動はすべて日本語・英語の両方に対応するように行っています。
本活動により、茨城県域の生涯学習および地域開発事業に貢献するとともに、筑波大学などのボランティア活動とも連携することで、大学生のアウトリーチ教育に寄与しています。
若手科学者賞(3件)
【業績名】
分子界面の新規機能発現に向けた走査型プローブ顕微鏡の研究
【受賞者】
清水(加藤) 智子 (元 先端材料解析研究拠点 極限計測分野 ナノメカニクスグループ 主任研究員 (現 慶應義塾大学 理工学部物理情報工学科 准教授) )
「分子界面の新規機能発現に向けた走査型プローブ顕微鏡の研究」
有機分子の機能を保持したまま安定な金属上に均一膜を形成する技術は有機デバイスの進展に欠かせません。その鍵となる分子界面の構造や相互作用を解析できる走査型トンネル顕微鏡 (STM) と原子間力顕微鏡 (AFM) には、扱える試料の制限が多いという技術的課題があります。
本研究では、金属電極上の電子輸送膜、光スイッチ型分子の均一膜構造の製作に成功し、金属-分子界面における分子物性の変化と膜形成機構をSTM測定により解明しました。さらに三次元的表面に対する高解像度AFM測定法を確立し、現在は不均一構造をもつ材料に対応するマルチスケールSTM/AFM同時測定装置を設計・開発中です。
本研究成果は、有機デバイス研究の進展や、エネルギー・環境問題の解決に通じる材料開発を支える計測技術の発展に寄与するものと期待されます。
「発電細菌を用いた生体電子移動機構に関する研究」
生体における電子移動を真に理解することは、生物を利用したエネルギー・物質変換の効率向上に不可欠であり、生命機能の解明においても本質的に重要です。しかし、生体の一部を切り取る既存の方法論では、生命活動と電子移動の有機的な関係を理解することが困難でした。
本研究では、電極への細胞外電子移動を行う「発電細菌」を用いたアプローチを開拓し、生体電子移動研究の分野を牽引しました。同氏は、再現性よくかつ高感度に細胞外電子移動を追跡する手法を確立し、細胞外電子移動の分子レベル機構を解明、その一般性を実証しました。さらに、細胞外電子移動の律速過程が共役するプロトン移動であると特定し、その知見を呼吸と発酵の両方の特徴を持つ新規な生体エネルギー獲得機構の発見へと繋げました。
本研究成果は、細菌による発電や物質生産など幅広いバイオ技術にも貢献すると期待されます。
「酸化亜鉛ヘテロ界面の高品質化による量子機能性開拓の研究」
これまで、電子の量子性を用いる半導体量子デバイスの研究では、電子の散乱が少ない高品質なGaAsが主に用いられてきました。しかしながら、酸化物半導体は電子の散乱頻度が多く、量子デバイスの材料として注目されてきませんでした。
本研究では、酸化亜鉛薄膜の成長条件の最適化を行い、最高品位の半導体とされるGaAsと同程度まで電子の散乱頻度を抑制し、高品質な酸化亜鉛薄膜の作製手法を確立しました。さらに、高品質な酸化亜鉛薄膜では、酸化物に特有の強い電子相関を有し、信頼性の高い量子計算 (トポロジカル量子計算) への応用が期待される新たな量子状態が発現することを見出しました。
本研究成果は、量子デバイスの材料として高品質酸化亜鉛が非常に稀有な物質系であることを明らかにし、信頼性の高い量子計算への応用が期待されます。
関連ファイル・リンク
- 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点
- 先端材料解析研究拠点
- 磁性・スピントロニクス材料研究拠点