- KEK-PF広エネルギー帯域VUV-SXビームラインBL-2 MUSASHIにおける電子分光研究
KEK物構研フォトンファクトリーでは、機能性材料の電子分光研究のための新しいビームラインBL-2 MUSASHI (Multiple Undulator beamline for Spectroscopic Analysis of Surface and Hetero-Interface) を建設し、2015年度より全国共同利用ビームラインとしての運用を開始している。本ビームラインでは長直線部に真空紫外 (VUV) と軟X線 (SX) 用の2台のアンジュレータをタンデム配置することで、30 - 2,000 eVの非常に広いエネルギー範囲において高エネルギー分解能かつ高フラックスの放射光ビームを利用できる。エンドステーションにはレーザー分子線エピタキシー+in situ角度分解光電子分光 (ARPES) 装置が設置されており[1]、機能性材料、特に薄膜表面・界面におけるARPESをはじめとした様々な軟X線分光測定が可能となっている。
[1] K. Horiba et al., Rev. Sci. Instrum. 74, 3406 (2003).
複合アニオン酸化物は遷移金属酸化物の酸素イオンの一部を別のアニオンに置き換えた物質であり、これまで超伝導や高イオン伝導など多彩な物性が発見されている。近年、遷移金属酸化物への簡便なアニオンドープ方法として、固体試薬を反応剤として用いたトポタクティック合成法が開発された。この合成法を薄膜試料に適用すると、バルク試料と比べて反応性が向上するとともに、エピタキシャル関係の維持やヘテロ接合といった薄膜特有の性質を付加することができる。本講演では、これまで我々が作製した新しい複合アニオン酸化物薄膜の合成法および構造、物性、電子状態について紹介する。