門脇 万里子
(構造材料研究拠点 腐食特性グループ 研究員)
【業績名】
炭素鋼のミクロ電気化学特性の解析と新規高耐食鋼の創製
炭素鋼 (Fe-C合金) は、自動車やインフラストラクチャーなどに使用される、現代社会を支える材料の一つですが、腐食しやすいことが課題です。炭素鋼はミクロな視点で見ると、組成や原子配列の異なる様々な金属組織から構成されています。本研究では、そのような金属組織や、さらにそれよりもミクロな個々の原子という視点から耐食現象の解析に取り組みました。
まず、炭素鋼の代表的な金属組織ごとの電気化学計測を行い、耐食性を比較しました。そして、Feの結晶格子間に固溶Cを含有するミクロ組織である「マルテンサイト」が耐食性に優れることを解明しました。次に、マルテンサイトが耐食性に優れる理由を第一原理計算により解析しました。その結果、固溶Cが存在する場合はFe-固溶C間で電子的な相互作用が生じ、Feの電子構造が腐食反応を起こしにくい状態に変化することを解明しました。さらに、固溶Cだけでなく固溶Nも耐食性向上に効果的であることを見出しました。
従来は鉄鋼材料を高耐食化するため、多くの場合Crなどの希少元素が利用されてきました。一方、本研究では、CやNなどのユビキタス元素 (資源量が豊富な元素) を適切に利用することでも高耐食化がもたらされることを明らかにしました。省資源かつ低コストな新しい鉄鋼材料の創製への活用が期待されます。