半導体ダイヤモンドCVD研究の中でも特にn型ドーピングを中心として、使える半導体デバイス形成を目指し、各種デバイス固有の仕様に合わせた材料制御の技術開発を行っています。
また、CVD技術を通して得られた知見をもとに、デバイスレベルでの結晶評価を並行して行います。Ga2O3等とのヘテロデバイスも重要な研究対象です。パワーエレクトロニクス、極限環境で利用されるセンサや半導体回路等への応用を考えています。
目的
カーボンニュートラル社会の実現に向け、電力消費の低減は喫緊の課題です。パワー半導体素子の効率向上は省エネのために極めて有効な手段です。
現状、ほとんどのパワー半導体素子はシリコンを用いて作られていますが、その性能は物質限界に近づいています。さらなる性能向上のために有望なのが、ワイドギャップ半導体の利用であり、SiCやGaNを用いてつくられたパワー半導体素子の普及が進みつつあります。
我々は、それらを超える高効率/高耐圧パワー半導体デバイスや耐環境デバイスの実現に資するべく、超ワイドギャップ材料の研究開発に取り組んでいます。
アプローチ
超ワイドギャップ半導体材料は、高性能なパワー半導体素子用として優れたポテンシャルをもちますが、その実現のためには多くの技術課題を克服する必要があります。例えば、高欠陥密度、準安定性、ドーピング/コンタクト形成の困難、および高電界集中などが挙げられます。
我々は、これらの技術課題の解決に貢献できるエピタキシャル成長技術や界面制御技術の確立を目指します。当面はダイヤモンド、酸化ガリウムを中心に取り組み、より新しいターゲットにも積極的に挑戦します。
小泉 聡(こいずみ さとし) / グループリーダー
半導体ダイヤモンド研究
概要
ダイヤモンドはワイドギャップ半導体材料として深紫外線オプトエレクトロニクス、パワーデバイス等への応用が期待されています。
これまでNIMSのダイヤモンド研究グループは1980年代にダイヤモンド気相成長技術を、1990年代にn型半導体化技術を確立し、さらに21世紀に入りpn接合の形成に成功してきました。全て世界初の技術であり、日本が誇る世界的研究成果です。
現在、これらの研究はNIMSにおける超ワイドギャップ半導体研究の重要な一コマとして発展的に継続されています。
特徴
ダイヤモンドの5.5eVという大きなバンドギャップ、その表面が持つ負性電子親和力という特異な性質が様々な特性を生み出す可能性を持っています。ドーピング制御、成長制御の不完全さからこの性質を生かした応用が困難でした。
シリコン並みの不純物制御、結晶完全性制御技術の確立を目指し、「使える」ダイヤモンド材料化を目指します。
主な研究
まとめ
- n型ドーピングの高度化により種々のダイヤモンドデバイス形成に成功
- 究極のパワーデバイス半導体材料としてのダイヤモンド気相成長技術を探求
- ピアレビュー論文:186報、権利化特許:7件
廖 梅勇(リョウ メイヨン)
ダイヤモンドMEMSと半導体電子デバイス及びその集積化
概要
ダイヤモンドはSi, GaN, やSiCなどの実用化済み半導体材料の物性値を凌駕し、Microelectromechanical system (MEMS) 或いは電子デバイスへの応用において圧倒的に高い素子性能が期待できる究極的半導体材料である。
既存の半導体材料は実現不可能と思われる高感度・高信頼性MEMSセンサ(磁気、温度、振動、加速度など)、高周波数機械振動子および高温・高圧・極限環境に耐える電子デバイスへの応用を期待している。
本研究は、高品質ダイヤモンドのCVD成長、MEMSデバイスおよび光・電子デバイスに関する研究開発に従事している。
特徴
- 先駆けて単結晶ダイヤモンドMEMS分野の開拓
- 室温で最高品質因子、高信頼性を持つダイヤモンドMEMS振動子の研究開発
- 集積化ダイヤモンドMEMSチップの研究開発
- n型ダイヤモンドのトランジスタの実証
主な研究
単結晶ダイヤモンドMEMSバッチ製造、最高温度MEMS磁気センサ、アクチュエータ、MEMS応用など数多く最先端の研究成果を生み出した。
- 品質因子として最高レベル(Q値100万以上)のダイヤモンドカンチレバーの開発に成功し、その機械エネルギー損失機構解明から理論的にダイヤモンドMEMSの優位性を示した。
- 世界で初めて電気信号で駆動する単結晶ダイヤモンドMEMSチップの開発に成功した。単結晶ダイヤモンドMEMSチップを実際に動作させたところ、高感度、低動作電圧、高温動作(600℃)などにおいて優れた特性を示した。
- さらに、高温動作(500℃)可能で且つ高い磁気感度(10nT/Hz0.5)を持つダイヤモンMEMS磁気センサを開発した。
- 本成果は耐磨性走査型顕微鏡プローブと内燃機関、石油、鉱物探索、原子炉の材質劣化診断、宇宙利用など過酷な環境下における磁気センシングに応用されることが期待できる。
n型ダイヤモンド半導体デバイスとCMOS回路の開発に挑戦し、世界で初めてダイヤモンドn型電子デバイスMOSFETとMESFETの開発に成功した。
まとめ
ダイヤモンドMEMSセンサーは、他の半導体よりもはるかに高い信頼性と感度を備えていることが実証されている。
ダイヤモンドMEMS(カンチレバーなど)の作製プロセスは再現性が高く、制御ができ、ハイエンドセンシングへの応用が期待されている。
大島 祐一(おおしま ゆういち)
超ワイドギャップ半導体の高速・高品質成膜技術の開発
概要
脱炭素社会に向けた省エネ実現のため、パワーデバイスの低損失化は喫緊の課題である。現状、ほとんどのパワー半導体デバイスはSiを用いて作られているが、その性能はSiの物性限界に到達しつつある。そこで、Siを超える高性能な超ワイドバンドギャップ (ultra-wide bandgap; UWBG) 半導体パワーデバイスの実現と普及が求められている。
本研究では、そのような新材料の優れたポテンシャルを引き出し、高性能デバイスを十分な経済性を確保しながら製造するために必要な高品質・高速成膜技術の確立を目指す。
特徴
- ハライド気相成長応 (halide vapor phase epitaxy; HVPE)法のUWBG材料への展開
- 寄生反応を防ぎ、MOCVD等に比べ100倍以上の高速成膜が可能。
- 良好な電気特性制御に貢献する、高純度結晶成長技術
- 成長モード制御や選択成長を駆使した欠陥密度低減技術
主な研究
GaNなどのIII-V族化合物半導体の高速成膜で実績のあるHVPE法を、UWBG半導体として注目されているGa2O3の成長に展開し、その確立を目指している。これまでに、独自の反応炉設計、および成長反応とエッチング反応のバランス最適化による寄生反応抑制技術により100 µm/hを超える超高速成長を実現し、それを用いて100 µmを超える厚膜を成長することに成功している。また、選択成長と高速成長の両立にも成功し、転位密度の大幅な低減にも成功した。
これらの成果は、数十µmを超える厚いドリフト層を備えた高耐圧のGa2O3パワーデバイスの実現に大きく貢献すると考えている。
まとめ
次々世代高性能パワーデバイス材料として注目されているGa2O3のHVPE法による超高速厚膜成長および選択成長による欠陥低減を実証した。本研究で得られた、平衡定数の大きな析出反応でも寄生反応を抑制しながら高速成長を実現する技術は、Ga2O3以外の新たな材料系にも展開可能と期待される。
大島 孝仁(おおしま たかよし)
酸化物パワー半導体の新しい構造制御
概要
カーボンニュートラル実現のために、半導体分野では次世代パワー半導体による超低損失なパワーデバイスの実用化が求められている。その次世代パワー半導体の中でも研究開発の歴史が浅い酸化ガリウムやルチル型酸化物(酸化錫や酸化ゲルマニウム)は、先行する炭化ケイ素や窒化ガリウムと比較して、パワーデバイス応用を想定した場合の基礎物性に優れており、近年注目を集めている。
本研究では、それら比較的新しい酸化物パワー半導体に対して、選択成長や選択エッチングを用いて、結晶の自発的なファセット形成を促し、デバイス性能向上に必要とされる構造制御に取り組んでいる。
特徴
- プラズマ非使用の構造形成技術
- 従来技術では作製不可能な高アスペクト構造形成
- プラズマダメージレス+高アスペクト構造を利用したデバイス作製
主な研究
本研究例として、酸化ガリウム半導体のプラズマ非使用加工と応用について説明する。
この半導体は、n型単極性でありホモpn接合を形成できない。そのため、その単極性デバイスの性能向上には、フィンやトレンチなどの高アスペクト構造を形成して、微小領域で電界を制御する必要である。その微細構造形成においては、プラズマを利用したドライエッチングが用いられているが、高アスペクト構造の形成が困難であり、さらに反応性イオンによるダメージが加工表面に導入されるという欠点があった。
本研究では、その課題を解決可能な新しい加工方法として、選択成長と選択ガスエッチングを実演した。これらの手法では、化学的に最安定な結晶ファセットを側壁面として顕在化させることで、反応性をイオンを用いずに、図に示すようなフィンやトレンチ構造を作製可能である。
現在は、そのような自発的に形成された構造を利用したデバイスの試作も開始している。
まとめ
このように結晶の異方性を利用した高アスペクト構造形成により、これまで従来技術で作製が困難であった高アスペクト構造体が実現できる。今後は、デバイス試作・評価により、本手法の有用性を検証する。また、酸化ガリウムだけでなく、最近になって提案されたルチル型酸化物パワー半導体についても同様の研究を行う予定である。
色川 芳宏(いろかわ よしひろ)
半導体素子信頼性評価
概要
半導体素子の特性が測定雰囲気ガスに応じて変化することは古くから知られている。しかしながら、そのメカニズムについて推測はされているが、確定したものは未だに存在しない(界面に存在する電気二重層起因のモデルが提案されている)。
一方、半導体材料として窒化物半導体を用いたデバイスは実用化が進んでおり、その信頼性向上は重要である。本研究では、窒化物半導体デバイスの信頼性向上のために、環境雰囲気やデバイス材料物性等がデバイス特性に与える影響を調べる。
これまでの研究から、半導体界面に存在する絶縁膜の物性変化が重要な役割を果たしていることが明らかになっており、今後の研究で詳細を調べる。
特徴
実験結果を忠実に再現するモデルの提案、高感度水素センサの開発
主な研究
電極と半導体界面間に形成される電気二重層の存在を確認するために実験的・理論的手法の両面から取り組んだ。
図1にそれぞれ窒素および水素雰囲気中において、Pt-AlGaN/GaNショットキーダイオードをインピーダンス測定した結果得られたナイキストプロットを示す。
図1より、水素導入後においても、電気二重層の存在に伴うRC成分を示す新たな半円が現れないことがわかる。また、図2に第一原理計算によって得られたPd-SiO2界面の面内平均ポテンシャルの深さ方向分布を示す。
図2より、水素吸着前後で面内平均ポテンシャルに大きな変化が見られない。以上の結果より、界面において水素が電気二重層を形成することは考えにくい。次に、Pt-GaNショットキーダイオードの電極と半導体界面に様々な絶縁膜を挿入して水素応答を調べた。その結果、挿入する絶縁膜の種類によって、水素応答が大きく変化することがわかった。
さらに、Pt-SiO2-GaNダイオードの電流輸送機構を解析した結果、窒素中ではFowler-Nordheim tunnelingであったが、水素中ではPool-Frenkel emissionに変化した。この結果より、水素による絶縁膜の物性変化が本質的であることが予想される。
まとめ
得られた成果は、半導体デバイスの信頼性向上以外に高性能水素センサの実現にも応用可能と考えられる。今後は提案するメカニズムの詳細な検討等を行い、半導体デバイスの信頼性向上のための知見を得るとともに高性能水素センサの実現も目指す。
川村 史朗(かわむら ふみお)
ベルト型高圧装置による薄膜・バルク新物質創製
概要
ベルト型高圧装置を用いることで、大容量のセル内を約8万気圧、2400℃程度まで高温・高圧環境にすることが出来る。セル内で化学反応(特に複分解反応)を進行させることで、多種多様な新物質の創製が可能である。これまでに本手法を用いて、新規窒化物半導体や硬質材料、超伝導物質を合成している。さらに、最近では大容量セルという利点を生かして、薄膜新材料の開発を実施している。
特徴
従来、高圧による物質創製は、常圧相から高圧相への相転移を用いることが常套手段であった。この場合、新物質を合成するためには常圧相を準備する必要があり、高圧下で得られる物質の組成などに制約を受ける。現在開発している「高圧下での化学反応(特に複分解反応)」を用いることで、相転移させるための常圧相を準備する必要がなくなり、様々な新物質を生み出すことが可能である。
主な研究
左図はベルト型高圧装置の概念図を示している。高圧セルを超硬合金アンビルを用いて加圧し、その後通電することで高温・高圧が実現する。
中図は、高圧セル内で化学反応させる際のセットアップの模式図である。例えば、試薬としてハロゲン化物とアルカリ土類金属窒化物を組み合わせることで、強力な窒化作用が発生し、様々な新規窒化物が合成される。これまでに層状超伝導物質ReN2、新規硬質材料W3N4、新規半導体CaSnN2及びMgSnN2等が新物質として合成されている。これらの材料を将来的にデバイス展開するために薄膜化技術にも取り組んでいる。右図は、高圧下でバルク合成された新規半導体MgSnN2を薄膜に展開した例である。スパッタ装置を用いて、目的組成の前駆体薄膜を基板上に形成した後に、ベルト装置内で基板ごと高温・高圧処理することで、MgSnN2高圧相薄膜の回収に成功している。
薄膜の高温・高圧処理は既存の半導体薄膜の超高温アニール等にも応用することが可能であり、従来n型しか得られなかった半導体材料のp型化技術などへの展開も期待出来る。
まとめ
近年、急速に進展しているベルト型高圧装置を用いた新物質創製の更なる発展と共に、薄膜材料の高温・高圧相転移、或いは薄膜の高圧アニール技術による新材料開発を通じて、新たなデバイスの実現に向けて今後も精力的な開発を実施していく。