励起光照射下の顕微鏡の観察像で示すように、探索段階での合成物の多くは様々な発光特性を有する粒子の集まりである。発光色の違いは物質の違いに相当するため、これら発光色、さらには粒子の形状の情報を元に候補粒子を選択する。
多量の候補粒子にも対応できるように、粒子認識や発光スペクトル測定の自動化も取り入れており、目的特性を有する粒子にいち早くたどり着くことができる。物質の同定は単結晶X線構造解析で行うが、ここにも自動化を取り入れ、より高速での新蛍光体開発を可能としている。数マイクロメートルの粒子サイズでも結晶構造解析が可能である。特別な結晶成長プロセスが不要で、通常合成プロセスの生成物の中から新蛍光体粒子を見つけることができる。粒子の発光特性評価は粉末評価と同様に、励起・発光スペクトル、発光スペクトルの温度変化、量子効率、蛍光寿命などで可能である。
また、情報科学との連携により効率的な新蛍光体開発も進めている。本手法を用いることで、次世代の照明やディスプレイに必要な蛍光体が開発される。
目的
- 蛍光体は、省エネ・低環境負荷である固体照明の演色性や、薄型ディスプレイの色域を左右するキーマテリアルであり、可視光域だけでなく生体用光源など近赤外光域での応用も期待されています。
次世代蛍光体グループでは発光特性に優れるサイアロン蛍光体を含む無機蛍光体や希土類錯体蛍光体に注目して研究を行っています。 - 組成、結晶構造と発光特性の関係の解明から、高性能で信頼性の高い新蛍光体の開発、デバイス化など、基礎と応用の両方の観点から研究を行っています。
武田 隆史(たけだ たかし) / グループリーダー
粒子1粒を用いた新蛍光体開発
概要
蛍光体はLED照明やディスプレイなど様々な分野で使用されている。次世代の照明やディスプレイでは既存蛍光体を上回る性能が求められる。大幅な性能向上には既知蛍光体の改良ではない新蛍光体、結晶構造の新しい新蛍光体が必要である。しかし粉末合成で進められる蛍光体開発での新蛍光体探索には単一相合成が必要なため困難である。混合生成物中の粒子1粒に注目することで、単一相合成を必要とせずに高速で新蛍光体を開発することができる(単粒子診断法)。
特徴
- 数マイクロメートルの粒子1粒の結晶構造解析、発光特性評価から新蛍光体を開発
- 単一相合成が不要な混合粉末生成物からの新蛍光体の開発
- 粒子1粒での各種の発光特性評価法の開発
主な研究
まとめ
温度特性に優れた蛍光体や狭帯域発光の新蛍光体が開発され、高輝度のレーザー照明や次世代ディスプレイが実現される。特性評価の手法展開により、この手法を他の材料系にも展開していきたいと考えている。
中西 貴之(なかにし たかゆき)
次世代光源デバイスを指向する特殊蛍光体の開発と応用研究
概要
高エネルギーの光やX線を吸収し『発光』に変換する蛍光物質は日本の光産業を支えるキーマテリアルである。近年はディスプレイやµLEDの波長変換材料、医療機器など多様な用途に合わせた新しい蛍光材料が要求されている。本研究では材料化を意識した明確な研究指針のもと、遷移金属や希土類を発光中心として、”セラミックス”および”無機有機ハイブリッド”の高輝度蛍光体を数多く創出し、その学理深化を進めてきた。特に産業連携では具体的な企業ニーズを吸上げ、共同開発による社会貢献を重視している。
現在、力を入れる領域は、①分析光として重要な『超広帯域の近赤外LED』および②Min/Micro-LEDsを指向する『高輝度ナノ蛍光体の実用分野』であり、産学からのアプローチを期待している状況である。
特徴
- 内/外部量子効率が世界トップクラスの400-1500nmの可視-近赤外帯蛍光体の開発
- 長時間の光源安定性を有するブロード近赤外LEDデバイスの実現
- 紫外-青帯で励起可能な狭線ナノ蛍光体の開発(発光幅<10 nm)
主な研究 1
『新規の近赤外蛍光体の開発』
産学技術者/研究者による青色LED技術の進展はミリサイズのチップでワット(W)以上の光を創り出すレーザーダイオードへ進化している。一方で半導体プリント技術は素子が目で見えないほど小さく大面積化をも可能にする。蛍光体も同様に新ステージへ進み、本研究では特にセンサ光源やセキュリティ、生体に有用な近赤外700-1800nm発光をターゲットに新規の蛍光体を開発を進めている。開発目標である高効率で面発光が得られる超白色LED光源の実現には、各波長帯で実用的な複数蛍光体が不可欠である。
昨今はニーズごとに求められる光の”質”が異なり、具体的応用に向けては産学との密な連携が重要であり要望を期待している。
主な研究 2
『高輝度配位蛍光体の新規開発/産業応用』
発光強度は物質の光吸収能力と変換効率の積である。しかし如何に2つが優れても材料安定性や熱・光耐久性が低くければ材料にはならない。
本研究では無機と有機化学の基礎学理を駆使し、分子レベルで設計した材料特化の希土類配位蛍光体を創出することである。配位蛍光体は発光中心となる希土類と、構造を作り光アンテナとなる有機配位子部で構成される。各パーツをレゴブロックのように組み上げることで新機能を持つオリジナル蛍光体創出が可能となる。これらは強い光吸収を有し有機バインダーに分散できる利点から次世代の透明ディスプレイやマイクロLED応用に期待される。
まとめ
本研究では、可視-近赤外帯での強発光、ブロード、狭線発光などそれぞれ特徴を持った特殊蛍光体開発を行なっておりその材料提案が可能。 ”よく光ること”、”実用材料”をキーワードにした蛍光体物質設計により、社会ニーズにフレキシブルに対応した材料開発を提供可能。
平井 悠一(ひらい ゆういち)
刺激に応答する固体分子蛍光体の創製
概要
様々な光機能デバイスの基盤となる固体分子材料は、分子内・分子間相互作用や集積形態に依存した発光挙動を示すことが知られている。この柔軟な物性の発現・変調を自在に操るためには分子の固体配列制御が必須であり、本研究では配位結合や水素結合、π-π相互作用を介した構造制御により、発光の強度や波長、刺激応答性といった光機能を開拓してきた。また、類縁体や異性体、多形に着目した網羅的探索や、工学的手法を駆使した物理定数の定量により、固体状態における構造–物性相関の理解と制御に関する汎用的な設計指針の確立に取り組んでいる。
特徴
- 配位結合・分子間相互作用を介した分子の集積形態の制御
- 刺激応答性を発現する固体蛍光分子材料の設計
- 固体における構造–発光–機械特性の紐付け
主な研究
希土類錯体においては、配位圏の対称性に加え、架橋配位子を用いた立体構造の制御により、力学刺激(破壊・せん断)に応答して発光する分子材料を合成した。その結果、これまで同一視されてきた光照射による通常の発光と、破壊による自発的発光との間に、発光効率および発光色の両面で明確な差異が存在することを示した。
一方、有機蛍光体の刺激応答性に関しては、従来議論の対象となってこなかった結晶内の空隙や変形の可逆性に着目して研究を行った。その結果、固体状態での蛍光の自己修復(分子配列の再構築)は、材料の融点に依存せず、構造制御により自在に調整可能であることを見出した。
まとめ
- 外部刺激に応答する固体分子蛍光体の創製
- 得意な機能を発現する蛍光体の分子結晶構造の探索
- 応力下での光学特性測定法の開発