長田 貴弘(ながた たかひろ) / グループリーダー
データ駆動型材料開発とOperando界面科学 ― 次世代電子材料の探索・理解・制御 ―
概要
次世代半導体デバイスでは、材料そのものの高性能化に加え、ナノスケールの異種材料界面における電子状態や欠陥、電位分布を理解・制御することが重要です。私たちは、「データ駆動型手法による高機能誘電体薄膜材料の開発」と「Operando光電子分光による先端半導体界面の解析と制御」を二つの柱として研究を進めています。コンビナトリアル薄膜合成、自動計測、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)による材料探索と、硬X線光電子分光(HAXPES)による動作環境下での界面電子状態解析を融合し、材料探索から界面形成、デバイス評価までをつなぐ研究を推進しています。
特徴
- コンビナトリアル薄膜合成により、多元素・多組成の材料空間を一枚の基板上で系統的かつ高速に探索
- 組成・構造・電気特性などを同一基板上で取得する高精度自動マッピング計測技術を構築
- 自動計測、データ基盤、MI・AIを融合したデータ駆動型薄膜材料探索を推進
- 高誘電率だけでなく、温度安定性・誘電損失・リーク電流・絶縁特性を考慮した多目的誘電体材料探索を展開
- Multi-energy、Bias、Temperatureを組み合わせた多次元Operando-HAXPESにより、埋もれた界面の電位・化学状態を解析
- 材料・界面を「観察・評価」するだけでなく、得られた知見を材料・プロセスへフィードバックするInterface Engineeringへ展開
主な研究 1
データ駆動型手法による高機能誘電体薄膜材料の開発
高性能誘電体には、高誘電率に加えて、薄膜化、高温安定性、低誘電損失、低リークなど複数特性の両立が求められます。私たちは、多組成傾斜薄膜を形成するコンビナトリアル合成、自動マッピング計測、MI・AIを組み合わせ、多次元の材料・プロセス空間を効率的に探索しています。A2B2O7系酸化物では組成と結晶構造を制御し、Sr2Ta2O7–La2Ti2O7系において比誘電率100以上と室温~300℃で10%以下の誘電率変化を両立しました。さらに、多元素化による特性向上や非酸化物high-k材料へ探索領域を拡張し、複数物性を同時最適化するデータ駆動型誘電体開発を進めています。
主な研究 2
Operando光電子分光による先端半導体界面の解析と制御
先端デバイスでは、誘電体/半導体などの埋もれた界面における電子状態や欠陥、電位分布がデバイス性能や信頼性を大きく左右します。私たちは、硬X線光電子分光(HAXPES)に測定エネルギー、バイアス印加、温度制御を組み合わせ、デバイス動作環境下における界面電子状態を非破壊で解析するOperando計測技術を開発しています。In2O3/Al2O3薄膜トランジスタでは、動作時に生じる局所的なband bendingや電子状態変化を直接観察しました。またGaNでは、フッ素系表面処理によるGa–F結合形成と界面電子状態の変化を明らかにしています。これらを通じて、界面を「観察する」だけでなく、電子状態や欠陥を理解・制御し、材料・プロセス設計へフィードバックするInterface Engineeringへ研究を展開しています。
まとめ
私たちは、Materials DiscoveryとOperando Interface Scienceの融合により、材料探索から界面の理解・制御までを一体化した電子材料研究を目指しています。今後は、コンビナトリアル合成、自動計測、MI・AIを連携したclosed-loop型材料探索を高度化するとともに、Multi-energy・Bias・Temperatureを組み合わせたOperando-HAXPESを酸化物半導体、二次元半導体などへ展開します。材料探索 → 界面形成 → Operando解析 → デバイス評価 → 材料・プロセス設計へのフィードバックという研究サイクルを構築し、次世代エレクトロニクスを支える高性能・高信頼性材料と界面技術の創出を目指します。
柳生 進二郎(やぎゅう しんじろう)
材料評価自動システムの開発
概要
材料の高機能化に伴い、多岐にわたる評価が必要とされている。一方で、材料特性のトレードオフを適切に把握するためには俯瞰的視点による解析も求められている。
この課題を解決するために、高機能化にかかわる専門的な評価測定に加え、簡便で多様な測定装置を組み合わせることが考えられる。本研究では、簡便で多様な測定装置を組み合わせを実現するために各評価装置について小型・モジュール化を行うとともに、全体として統一したデータの取得を行うマテリアルシーケンサーシステムの開発を行った。
さらに、計測によって大量のスペクトルが生成されるため、その自動解析技術(アルゴリズムと実装)の開発を行っている。特にべき乗則で従うスペクトルについて、その閾値を自動で推定するアルゴリズムについての開発を行った。
特徴
- 基本的な特性(光学特性、電気特性、磁気特性)を大気中自動計測システムの開発
- 磁気特性(軟磁性・強磁性)を評価するKerr効果装置の小型化
- 測定で得られるべき乗則に従うスペクトルの自動解析アルゴリズムとその実装
主な研究 1
簡易自動計測システム
無機材料の様々な評価を自動で連続して行う“マテリアルシーケンサー”の開発を行った。写真は装置外観である。
このシステムは、俯瞰的に高機能化する材料を考えるために、簡易的な装置を用いて多様な評価を行ういわば”材料の健康診断”として設計されている。機械学習分析などの利用を前提として評価データは収集・統合される。各測定装置は、およそ30cm角のスペースに収められ、試料へのアクセス方法や制御の入出力などモジュール化されている。試料は、0.5インチサイズの無機材料を対象としている。
現在、画像測定、反射測定、抵抗測定、磁気Kerr効果測定を行うことができる。磁気Kerr効果装置は、このスペースに収めるためにパルスマグネットを用いて小型化されている。
主な研究 2
べき乗則で解釈可能な物測定スペクトルの自動解析
理現象のスペクトルの自動解析技術について開発を行った。べき乗則で解釈するスペクトルデータでは、立ち上がり閾値とべき乗の乗数がパラメータである。例えば、超電導材料における電流電圧測定による臨界電流密度、可視紫外吸光度におけるバンドギャップ、光電子収量分光測定におけるイオン化ポテンシャルなどがある。
図はべき乗数及び閾値を推定するアルゴリズムとそのシミュレーションを示す。べき乗スペクトルは両対数プロットで解析が行われるが、閾値が移動すると単純に両対数を取ると適切なべき乗数を推定することができない。そこで、移動量も加味したプロットに直すことで推定することができる。
また、ある現象に対してべき乗数が固定されている場合には、拡張したReLU関数と絶対誤差法によるFittingにより閾値を推定することができる。
まとめ
- 俯瞰的な材料評価のための簡易計測装置群及びシステムの開発
- 磁性特性の有無を判定するパルスマグネットを用いた小型Kerr装置の開発
- べき乗則に従うスペクトルの自動解析アルゴリズムの開発
山下 良之(やました よしゆき)
材料特異点の物性解明
概要
材料における特異点は機能性材料の特性を決める。具体的には絶縁体/半導体界面、金属/半導体界面、欠陥、触媒、半導体のドーパントが特異点にあたる。
一般的に材料中の特異点は密度が低く、その物性を明らかにすることは非常に困難である。そこで我々は、X線吸収発光分光法、光電子ホログラフィー法を用いて、特異点に吸収する光を入射してそこから発光する光、電子、及びホログラフィ像を用いる事により、特異点の原子構造、化学状態を明らかにすることを行っている。
また、特異点の物性を正確に理解する為に材料が動作した状態で物性測定を行ってもいる。
特徴
- X線吸収発光法による固体界面の物性抽出
- 光電子ホログラフィ法による物質特異点の原子構造、化学状態解明(欠陥、触媒活性点、ドーパントの活性・不活性原子等)
- 材料が動作下した状態での物性測定
主な研究
Siドープしたk-Ga2O3のユニットセル中には3種類のGaサイトが存在するが、ドーパントとしてどのGaサイトにSiが入るかわかっていない。光電子ホログラフィ法の原子像再生によりドーパントSiの置換サイトはトリゴナルサイトであることがわかった。
- 本手法はSiC、GaN、Ga2O3に既に展開している。Pt/SiO2/4H-SiCデバイスが動作する状態でのバルク敏感光電子分光法により、基板から界面への電子のやりとりを調べた。また、理論計算を併用することにより、界面の欠陥の構造・電子状態を明らかにした。
- X線吸収発光分光法によりSiO2/Si界面の化学状態に応じた価電子状態、界面近傍における誘電率変化を明らかにした。今後はコンビナトリアル手法で材料開発を行い、界面や原子特異点の物性を効率的に明らかにすることを行っていく。

1

2
まとめ
物質の特異点の原子構造を光電子ホログラフィ法、X線吸収発光分光法により明らかにした。まだデバイスが動作した状態で光電子分光法を適用することにより、界面の欠陥の動的振る舞いを明らかにした。
今後はコンビナトリアル手法を用いて材料開発を行い、物質の特異点の物性を効率的に明らかにすることを行っていきたい。