酸窒化ケイ素ガラス中の窒素濃度の増加に伴って、ガラス転移温度やヤング率の上昇が確認された。図1には各種ガラスのガラス転移温度とヤング率の関係を示す。現状できている酸窒化ケイ素ガラスは赤の領域となる。シリカガラスよりも高いガラス転移温度と高いヤング率を示している。
透明なガラスができており、高温での耐久性を保有しており、リソグラフィ用の基板や車載用や高輝度プロジェクタ用のレンズなどに利用が期待される。Euイオンをドープした発光性酸窒化ケイ素ガラス薄膜で紫外線を吸収して可視域の発光が可能である。太陽電池のカバー材料に塗布することで紫外光を効率よく利用できる波長変換機能として期待される。
酸窒化リンガラスでは、リン酸塩ガラスよりも高い化学耐久性を有していることが確認されており、放射性廃棄物である塩化セシウムの固化用ガラスやイオン伝導体として電池用の電解質材料としての応用が期待される。
目的
非晶質材料は、原子が不規則に配列したネットワーク構造を有しており、原子配列の変化に伴って材料の緻密性、すなわち密度が変化するため、屈折率や誘電率、イオン伝導率や弾性率など様々な物性を変化させることが可能です。
特に、非晶質材料中の原子や細孔構造によって作られるサブナノ~ナノメートルサイズの空間を制御することによって、省エネルギーや省資源に向けた技術革新に資する機能性材料の創出、また、Society 5.0 の達成によるサイバー空間と人間との連動による物事の効率化や豊かさを実現に向けた材料の提案を目指します。
瀬川 浩代(せがわ ひろよ) / グループリーダー
ガラス・アモルファス材料の機能探索
概要
酸化物ガラスは簡便に作製でき、透明で化学的耐久性の高い材料として幅広く応用されている。酸化物ガラスの酸素を窒素に置き換えたガラスは酸窒化物ガラスとして知られており、窒素の導入に伴って化学耐久性や耐熱性、硬度などの機械特性や屈折率などの光学特性など種々の物性が向上することが知られている。
しかしながら、窒素の導入においては窒化物原料を用いた場合には加熱による分解が起こってしまうため、安定な融液の形成が難しく、十分なバルク物性の検討は進んでいない。
本研究では、アンモニア気流中での熱処理によって窒素を導入することで様々な酸窒化物ガラスの作製とそのバルク物性の調査を行うことで、機能性酸窒化物ガラスの作製を目指している。
また、陽極酸化を用いてアモルファス酸化物の作製も行っており、光学特性や機械特性、電気特性に着目した機能性開拓についても進めている。
特徴
- 酸窒化ケイ素ガラスの作製によってシリカガラスより200℃程度高いガラス転移温度と高い屈折率、ヤング率を実現
- 酸窒化ケイ素系ガラスを用いた発光性ガラスの作製に成功
- 酸窒化リンガラスを作製し、放射性廃棄物として固化の難しい塩化セシウムの固化に成功
- 陽極酸化アルミナ膜の構造制御により色素等の利用なしに様々な発色を発現
主な研究 1
主な研究 2
陽極酸化による皮膜の形成は古くから知られているが、本研究では、交流陽極酸化を用いることで既存の発色とは異なる光沢性の高い陽極酸化皮膜の形成を進めてきた。既存技術では基板に垂直な方向にナノメートルサイズの細孔が形成され、細孔内部に色素の導入などを行うことで色を制御している。色素は高温での耐久性は乏しく、退色も起こりやすい。
一方、本研究で得られた皮膜ではナノメートル厚のアルミナ膜が積層をなしており、各膜の厚さを電気化学的に制御することによって発色を制御することが可能である。
図2には種々の条件で作製したアルミナ皮膜の外観を示す。電圧の制御によって色の制御が可能であることが確認されている。アルミナ自体による発色のため、高温においても耐久性が高い。また、積層構造のため亀裂の進展が起こりにくく、靱性の高い皮膜となっている。
まとめ
酸窒化ケイ素ガラスに関する技術:
シリカガラス以上の耐熱性を持つガラス材料として耐熱性の必要な部品などへの応用可能性がある。また、蛍光ガラスについてはガラス膜として太陽電池の効率アップに貢献できる機能性膜となる可能性がある。
酸窒化リンガラスに関する技術:
リン酸塩ガラスと同様のイオン溶解性を有しつつ高い化学耐久性を有するガラスとして、放射性廃棄物固化用のガラスマトリックスやプロトン伝導ガラスとしての応用が期待される。
陽極酸化技術:
発色性を利用して色材としての応用が期待される。また交流電解によって靱性の高い皮膜が形成できており、直流電解の膜に比べてクラックの入りにくい皮膜へと応用ができる。
大垣 武(おおがき たけし)
岩塩型窒化物半導体の光・電子デバイスへの応用
概要
GaNに代表されるIIIb族窒化物の光・電子デバイス研究の進展に伴い、ScNの半導体分野への応用が期待されている。
ScNは、岩塩型結晶構造のIIIa族窒化物であり、大きな非化学量論的組成に起因する欠陥から生成された高濃度キャリアを有するn型半導体であり、高い電子移動度を示す。
また、(111)配向した岩塩型ScNとc軸配向したウルツ鉱型GaNは格子整合し、岩塩型ScNと閃亜鉛鉱型GaNの格子定数も一致することから、小さな格子不整合を利用したGaN/ScNヘテロ構造など、GaN系半導体との融合も期待されている。
特徴
- 新しい窒化物半導体材料の探索
- 岩塩型窒化物のヘテロエピタキシャル成長
- 大きな非化学量論的組成を持つScNの物性制御
- 岩塩型窒化物とGaN系半導体との固溶・積層化
主な研究
Scは用途が限られているために高価な元素の部類に含まれるが、地球上に豊富に存在する資源的に恵まれた材料である。その窒化物であるScNは、岩塩型結晶構造の化合物であり、非化学量論的組成に起因する欠陥から生成された高濃度キャリアを有するn型半導体であるにもかかわらず、高い電子移動度を示す。しかしながら、その物性には不明な点が多い。
本研究では、分子線エピタキシー法により高品質なScN薄膜を合成し、その物性を明らかにするとともに、岩塩型半導体の半導体素子への応用の可能性を検討している。
まとめ
成長条件の最適化により、高品質なScN薄膜のヘテロエピタキシャル成長に成功し、ScNが大きな非化学量論的組成を持ち、その組成により光・電子物性が大きく変化することを明らかにした。非化学量論的組成の制御やドーピングによる物性制御が実現すれば、ScNの半導体素子への応用が期待できる。
早瀬 元(はやせ げん) / 独立研究者
柔軟モノリス型多孔体の簡易合成と多目的応用
概要
多孔体はさまざまな種類が知られており、それぞれに特有の物性を活用することで古くから利用されてきた。
ゾル-ゲル法を用いて作製される多孔体においてはその化学組成やマイクロ・ナノスケールの骨格・細孔構造を適切に制御することで、断熱材、吸着・分離媒体、電池材料、触媒、細胞培養用の基材といった応用目的に特化した材料を開発できる。
オルガノシロキサン(シリコーンなど)を基盤にしたモノリス型の多孔体は、その柔軟性および化学的安定性から、多岐にわたる先端応用が期待されている。
さらに、この多孔体骨格内外にさまざまなナノ材料を組み込むことで、既存のプラスチックやセラミックスでは見られない新たな物性を生み出すための研究を行なっている。
特徴
- 比較的簡易な合成法により再現性よく作製できる柔軟マクロ多孔体
- ナノセラミックスとの複合化による特徴的な微細構造形成と力学特性制御
- フライス盤を利用したCNC微細加工可能
- 優れた断熱性や光学特性をもつ熱マネジメント材料への応用
- スフェロイド・オルガノイドなど立体培養に利用可
主な研究
相分離を伴うゾル-ゲル法を用いたモノリス型多孔体作製においてはさまざまな微細構造を形成・制御可能であるが、疎水性が比較的高いオルガノシロキサン材料を水系ゾルから効率よく形成するためには工夫が必要である。相分離制御が容易なプロセスを開発していくことで、再現性が高く欠陥が少ないバルク材料を自在なスケールで作製できるようになった。
材料の変形性を生かすことで、形を変えても性能が低下しない断熱材に加え、スポンジを絞るかのように用いるリポソーム形成基材やインターフェイスを兼ね備えた触覚センサー用光学材料など、分野を問わない新しい応用を開拓している。
モノリス型多孔体の微細骨格内部にナノ材料を複合化することで、従来よりも強度を高めたバルク材料を開発している。そのような複合材料は複合前に比べて耐衝撃性や耐摩耗性が顕著に改善されるため、これまで低嵩密度の多孔体作製後には難しかった精密機械加工が容易になった。
オルガノシロキサンを表面組成にもつ複合材料は高い撥水性や生体親和性をもつことから、立体細胞培養基材を開発した。オルガノシロキサンが備える可視光透過性や赤外輻射特性、多孔構造による拡散反射などを生かした、光学材料としての開発にも力を入れている。
まとめ
オルガノシロキサンは汎用プラスチックやセラミックスと比較して原料コストは高いものの、両者には見られないさまざまな特徴をもつ。付加価値の高い機能材料として、特にバイオ・医療領域への新たな応用開発を目指している。
雨倉 宏(あめくら ひろし)
ガラスに分散させた金属ナノ粒子の集団的楕円変形:超高エネルギーイオン照射で実現
概要
超高エネルギー100 MeV(1億電子ボルト)級の重イオンビームをナノ粒子やナノピラーなどのナノ構造に照射し、球形から楕円形、立方体から直方体などへの集団的な形状変化を引き起こす技術は、ここ十数年以上にわたる研究により応用への目途がつきつつある。しかし変形には最低でも数十MeV以上のエネルギーが必要であり、この高すぎるエネルギーが本技術の実用化への障壁となっている。
本研究では、単原子重イオンの代わりにC60のようなクラスターイオンを用いることにより、加速エネルギー数MeV(つまり2桁小さいエネルギー)でもナノ構造に同様の変形を誘起できることを実証した。「加速エネルギー・ダウンサイジング」とでも呼ぶべき技術の提案である。
特徴
- 超高エネルギー100 MeV級重イオンビーム照射によるナノ構造変形技術の優位性は知られていたが、このエネルギーを発生できる加速器施設は、国内でも数ヶ所の大型加速器施設に限られており、産業応用への展開は難しかった。
- 本研究ではC60イオンを用いることにより、1 MeV級のエネルギーで、100 MeV級の単原子重イオンと同様なナノ構造の変形を実現した。
- 1MeV級の加速器は国内だけでも数十ヶ所存在し、産業応用への障壁がだいぶ低くなった。
主な研究
図左上は100 MeV級の重イオンビーム加速器の例を示す。この例では7階建ての建物が一つの加速器を構成する。100 MeV級ビームの発生にはこのような大型加速器が必要であり、国内でもこのような施設は数ヶ所に限られる。100 MeV級ビームをガラス中に分散させた金属ナノ粒子に照射した結果を左下図に示す。球形だったナノ粒子がビーム方向に伸び、ナノロッド(ナノ棒)に変形する。
図右上に1 MeV級のタンデム加速器の例を示す。このレベルの加速器は国内だけでも数十台以上が存在し、産業応用にも用いられている。本研究でC60イオンを用いれば1 MeV級加速器でもナノ粒子の楕円変形を引き起こすことが可能なこと(右下図)を示したため、産業応用への障壁が大幅に低くなった。
まとめ
極めて希少な100 MeV級のイオン加速器が必要だったナノ構造の変形を、C60イオンを用いることにより国内に多数存在する1 MeV級加速器で実現した。ただし、現時点では両者のイオン照射は同等ではなく、C60イオン照射はスパッタリング率が高く、条件によってはナノ構造を破壊する。これを避けるためにも数MeVのC60イオンと固体の相互作用の更なる解明を進めていく。