培養装置内において細胞から肝臓組織を「再生」することに成功

胆管や血管をもった生体肝組織の3次元構築技術を確立

2005.03.02


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMSの生体材料研究センターは、微少重力を発生させる特殊な培養装置を利用して、マウスの細胞から肝臓組織を生体外で「再生」させることに成功した。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 岸 輝雄) 生体材料研究センター (センター長 : 田中 順三) では、医工連携チームの谷口 英樹 客員研究員 (横浜市立大学大学院医学研究科教授 併任) および岡村 愛 外来研究員 (大学院生) らが、微少重力を発生させる特殊な培養装置を利用して、マウスの細胞から肝臓組織を生体外で「再生」させることに成功した。
  2. 近年、本当の生体組織を再生する「再生医療」が急速に進歩しつつあり、肝臓・すい臓などの固形臓器についても新しい組織再生技術の開発が強く求められている。現在、重篤な肝臓・すい臓疾患を治療するため生体臓器移植が行われているが、ドナー不足が深刻な問題である。そのため、生体臓器と同じ機能をもった3次元構造を形成する人工組織を生体外で作り、それを疾患部位に移植治療する技術が望まれている。
  3. 生体類似の3次元組織を作る方法として、隙間の多い人工担体の中で細胞を培養する方法、細胞を旋回したり撹拌したりして水中に浮かせて培養する方法が行われているが、培養中に細胞を物理的に傷つけるため得られた組織の構造や生物学的性質が本来の臓器と異なり、十分に人工臓器として機能を果たさない問題が残されていた。
  4. 今回開発した方法は、細胞の物理的損傷を最小限に軽減するために、模擬微小重力環境において細胞を培養液中に自由に浮かせ、ゆっくりと集合させて3次元組織を形成させる方法である。肝臓の細胞 (マウス胎児肝臓から単離した細胞集団) をこの方法で培養したところ、もともと健全な肝臓がもっている胆管や血管をもった組織を再現することに成功した。得られた組織の遺伝子を解析した結果、肝臓特有の機能 (アンモニアや薬物の代謝、アルブミン産生、グリコーゲンの貯蔵など) をもった組織であることが実証された。今後、さらに肝臓組織ができるメカニズムを詳細に解明し、信頼性の高い自動化培養装置の開発につなげていき、実際の治療に求められる大きさの人工肝臓を作る技術、あるいはすい臓を構成している0.1mmほどの大きさのすい島 (ランゲルハンス氏島) を大量に作製する技術を確立する予定である。
  5. 本研究は、文部科学省リーディングプロジェクト「ナノテクノロジーを活用した人工臓器の開発」で行われたものである。

「左写真 RWVの外観写真。右写真  (上) 10日間の培養で形成された細胞の塊 (直径1mm) 。 (下) 塊を切断した内部構造。」の画像

左写真 RWVの外観写真。右写真  (上) 10日間の培養で形成された細胞の塊 (直径1mm) 。 (下) 塊を切断した内部構造。




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