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鉄リサイクル1

NIMS前景
2000年から始まったミレニアム・プロジェクト。詳細は【リサイクル鉄を用いた材料開発】材料学会誌 材料 第52巻第9号 p.1107-1115、井上&長井 をご覧いただくとして、ここでは簡単に説明いたします。

スクラップ鉄の現状と予測

スクラップ鉄とは?
一口にスクラップといっても色々あります。鉄鋼工場から発生する【自家発生スクラップ】、裁断、型打ちなどで発生する【加工スクラップ】、自動車シュレッダー、缶プレスなどの【老廃スクラップ】、輸入による【輸入スクラップ】 などです。今後は老廃スクラップが増えると思われます。老廃スクラップは生まれも雑多で何が入っているかわからないものが多くそれがリサイクルの障害となっています。


不純物の影響
スクラップの中に含まれる不純物の中でも特に銅と錫は鋼の品質にもっとも影響が大きいやっかいものです。銅があると熱延のための加熱中に地鉄粒界に液相銅が侵入し粒界割れが起こります。そのため表面性状が著しく損なわれてしまいます(銅脆化)。また、錫が共存することで1000度から1100度の温度域でこのような銅脆化が起こります。
ここで問題なのは、これらの不純物はなかなか取り除くことがむずかしく、結局スクラップを重ねるごとにどんどん増えてしまうということです。


電炉と高炉
現在スクラップ鉄のリサイクルは30%近くが電炉で行われています。電炉プロセスは製銑工程がないため消費エネルギーが小さく、また地球温暖化の原因となる二酸化炭素発生量も少なくて、地球に優しいプロセスといえます。ただし現在の電炉では低級鋼の生産しかできず、高炉鋼に比べて品質の面で格段に劣っています。一方、高炉は大規模な製鉄所にある大きな炉ですから、大量に処理できますが、あくまでも【高級鋼を大量にしかも安価に製造する】ように最適化されており、不純物を含むスクラップ鉄を吸収するのは難しいと思われます。
以上のような経緯から電炉プロセスにおける材質改善がのぞまれます。ここで重要な鍵となるのは【急冷凝固】です。

プロジェクト---リサイクル鉄の超鉄鋼化

プロジェクトの目標
独立行政法人 物質・材料研究機構、超鉄鋼研究センターでは、2000年よりリサイクル鉄の超鉄鋼化としてプロジェクトを開始しました。前述で述べたように、リサイクル過程における不純物元素の凝固偏析制御技術を開発、結晶粒微細化技術を適用することを目標としました。具体的には不純物とされるリンを積極的に活用し鋼の性質を向上させ、薄板の強度1.5倍化をめざすこととなったのです。
検討課題は下記6件。      
         
  1. 溶解・脱酸・凝固過程における脱酸生成物、介在物中不純物の挙動を明らかにする。      
  2. 凝固冷却速度を変化させた場合の凝固組織変化を系統的に解明する。      
  3. 加工方式を変化させた場合の加工組織変化を系統的に解明する。
  4. ミクロ組織を変化させた場合の機械的性質の変化を実験的に調べる。
  5. 開発材料の表面欠陥を高精度に検出する装置を高度化する。
  6. 研究成果を広く利用するための情報交流システムを構築する。      

では、各項目における研究成果を紹介しましょう。

溶解・脱酸・凝固過程における脱酸生成物、介在物中不純物の挙動
高リン含有溶鋼のMn-Si脱酸・凝固時のPの挙動を、リン吸収能(フォスフォフェライトキャパシティ)を求めて評価したところ、高温より低温のほうが大きい値となった。従来のCaO系スラグと比較してもフォフフォフェライト・キャパシティは非常に小さくMn-Si脱リン時にはリンはスラグ中へはほとんど移行せず鋼中に残ることが分かりました。

凝固冷却速度を変化させた場合の凝固組織変化
ツインロール式のストリップキャスターを用いて0.1%炭素鋼にリンを0.1%添加した3mm厚600幅の高リン含有鋼を試作しました。この製造法の場合、1-100K/sという急速な冷却が特徴です。これにより試作された鋳片の組織を観察すると、リンが急冷凝固により微細に分散することが分かりました。またリンを含有することによって伸びを維持したまま強度が向上することも分かりました。

また、0.01〜0.20%リン含有鋼の連続鋳造100mm厚スラブ材も試作した結果、リンを0.1%以上含有するスラブのオーステナイト組織は、粒径が0.8mmで、低リン(0.01%)材の粒径1.6mmに比べ1/2に細粒化されることが分かりました。(左図)

この微細化効果に関して、連続冷却下で相変態を経た組織形成挙動を解明し、高リン含有鋼の凝固時にはフェライト安定化元素リンが偏析し、【δ→γ変態点】が低下することにより、γ粒成長が抑制されることを明らかにしました。


加工による組織変化
鋳造・加工履歴での組織制御に対するミクロ偏析の影響をみるため、偏析まま材(スラブ材を再加熱したもの)を用いて、加工における旧γ粒径、ミクロ偏析、フェライト粒径の変化を検討しました。加工による組織変化の研究の多くは左図(c)に示したミクロ偏析を除去するように均質化処理した再加熱熱延材を用いており、(b)のようにミクロ偏析が残った組織を加工した場合の検討は少なかった。
再加熱スラブ材を変態前に加工した場合のフェライト粒径とパンケーキ状オーステナイト粒厚さの関係を調べてみました。その結果、パンケーキ状オーステナイト粒厚さが同じであっても、偏析まま材の方が再加熱熱延材に比べてフェライト粒径が微細になることがわかりました。これは、マンガンのミクロ偏析が、組織微細化に寄与していることを示しており、今後偏析を利用した微細化技術が期待できます。



また溝ロールを用いて温間圧延した低炭素鋼(0.15%C-0.3%Si-1.5%Mn)に対して、リンが集合組織形成に与える影響について検討を行いました。
左図はX線回折で得られた方位分布関数であり、図中A,B,Cはαファイバーに、E,Fはγファイバーに相当します。図から、%リンに比べ0.1%リンの方がE,Fでの強さが大きくなっているのがわかります。これから、リンの存在は、大角粒界と優れた材料成形性に着寄せうるγファイバーの発達を促進することがわかりました。


ミクロ組織を変化させた場合の機械的性質の変化
SM490鋼(0.15%C-0.4%Si-1.5%Mn)よりフェライト粒径の異なる3種類のフェライト-パーライト鋼(3.6,9.8,46.2μm)を作製し、温度とひずみ速度を変えた引張試験を行い、フェライト粒径と10%流動応力の関係を調べたところ、結晶粒微細化が鋼の変形応力を増大する一方で、均一伸び、全伸びは減少することが明らかになりました。また、リューダース変形領域以降では、粒径は変形応力の温度とひずみ速度依存性の影響しないことがわかりました。

開発材料の表面欠陥を高精度に検出する装置の高度化
今までは鋼板の表面に開口して発生する傷の方向を特定することは困難でしたが、回転磁界と差動センサによる漏洩磁束探傷試験法を用いて、鋼板の表面傷を高精度に検出する手法を開発しました。

研究成果をりようするための情報交流システムの構築
ミレニアムプロジェクトの研究成果を広く内外に周知するため、電子メールニュースの配信、ホームページの開設、公開ワークショップの開催などを行いました。また、実施研究に関して産学界の有識者によるピアレビューと研究推進のための委員会を年2回開催しました。    

  

今後の展開

今後の目標
  • リンに加えて、銅、錫、硫黄を含有した鋼からの急冷凝固材の創製
  • 無加熱加工時の組織変化を検討し、直送圧延試験による材質制御プロセスの提案        
  • 棒材の創製プロセスを構築するために、半溶融直送棒圧延シミュレータの開発      
  • 高リン、硫黄含有炭素鋼の高靭性・高疲労強度を実現する創製条件の探索
  • 不純物含有鋼の組織形成のシミュレーション、評価を行い、最適プロセスの提案
  • 高速引張試験による微細組織の変形挙動の解明、表面傷の高速高精度検出法の確立
  • 実施研究に関する有識者によるピアレビューと関連情報フォローアップのための調査

        
    今後の課題
    わが国の粗鋼生産量は約1億トンであるが、それに対し、スクラップ鉄は年間5000トン近く回収利用されています。今後は、素性の見えない老廃スクラップの量が増大し、銅、錫、ニッケル、クロムなどのようなトランプエレメントが蓄積されることによって、リサイクルに制約を受ける可能性があります。
    これらのトランプエレメントはリサイクルをする上では障害となってきましたが、一方で鉄の特性向上元素として多くの製品に利用されています。これらの添加元素の量、種類、など合金成分の組み合わせはざっと考えても60万種類あり、スクラップ鉄の材質変動に作用します。このばらつきを吸収できる機能を付加する技術も【リサイクル鉄の超鉄鋼化】プロジェクトの中で検討する必要があると思います。
    このプロジェクトは2000年からはじまりましたが、国内はもとより国外からも注目を集めています。
    ぜひプロジェクト・ホームページもご覧になり、ご意見をいただければ幸いです。

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