慶應義塾大学理工学部の牧英之准教授らは、国立研究開発法人物質・材料研究機構の森山悟士主任研究員、国立大学法人群馬大学理工学部の守田佳史准教授と共同で、カーボンナノチューブをテンプレートとして、世界最小クラスの超極細超伝導ナノワイヤーを実現し、シリコンチップ上でのデバイス化によって、微小な超伝導体で現れる特異な超伝導現象の観測に成功しました。
超伝導は、比較的マクロなサイズで量子現象が発現し、電子デバイス、光電子デバイス、量子コンピュータ等で実用化されていますが、この超伝導体をナノメートルオーダーで微細化した場合、マクロには無い新しい超伝導現象が現れると期待されています。しかし、多くの超伝導材料は、微細化が進む半導体材料と比べて微細加工が難しく、微小な超伝導体を用いたデバイスの実現を阻む原因となっています。今回、カーボンナノチューブと超伝導体をハイブリッド化させることで、10ナノメートルオーダーの超極細超伝導ナノワイヤーの作製に成功しました。さらに、この超伝導ナノワイヤーをデバイス化したところ、低温にするほど超伝導状態が壊れる現象 (超伝導-絶縁体転移) や磁束がナノワイヤーをトンネルする現象 (量子位相スリップ) など、特異な超伝導現象の観測に成功しました。今回の研究では、超伝導デバイスで実用化されている窒化ニオブ超伝導体でナノワイヤーの作製に成功したことや、シリコンチップ上で電子デバイス化にも成功していることから、量子ビットや超高感度光検出器といった新たな超伝導量子デバイス応用が期待されます。
本研究成果は、2016年5月31日 (現地時間) に米国物理学会誌「Applied Physics Letters」のオンライン版で公開されました。