図に論文[DOI: 10.1007/s11664-999-0037-7]によって先導され、その後報告されたp-GaNに対する酸素アニールによる種々オーム性電極材料をまとめたコンタクト抵抗率と正孔濃度およびアニール温度の関係を示す。
コンタクト抵抗率減少のメカニズムは現在でも不明であり、導電性酸化物電極の材料設計指針構築が不可欠である。
目的
窒化物半導体及びダイヤモンド半導体を中心に、異種接合、結晶成長、微細加工、並びにプロセッシング技術を含めて、次世代半導体材料開発と光電子デバイス開発を一体的に推進するとともに、材料デバイス設計及び動作原理指針を構築する。
アプローチ
- 窒化物半導体薄膜の高品質化と物理現象の理解から機能高度化を進め、高電子移動度トランジスタ及び光電変換デバイスの特性向上につなげる。
- 窒化物半導体デバイスの環境雰囲気や材料物性が特性に与える影響を調べることによって信頼性向上をはかる。
- ダイヤモンド深紫外線検出器の真空紫外線及び陽子線の応答特性とデバイスの長期安定動作を目指す。
- ノーマリオン/オフ型動作モードの金属—酸化物—半導体電界効果トランジスタを組み合わせた極限環境下に強いダイヤモンド論理回路の開発を目指す。
- ダイヤモンド及び窒化物半導体の絶縁ゲート材料および低抵抗オーム性電極材料開発を進めるとともに半導体界面の材料設計指針を構築する。
小出 康夫(こいで やすお) / グループリーダー
ダイヤモンド/窒化物半導体の絶縁ゲート/電極材料開発
概要
次世代半導体としてダイヤモンド半導体及びIII族窒化物半導体それぞれの絶縁ゲート材料および低抵抗オーム性電極材料開発を目的とする。
材料設計、エピタキシャル成長、微細加工、及びプロセッシング技術を含めて、高品質な界面特性を呈する絶縁ゲート材料開発および熱安定な低抵抗オーム性電極材料開発を推進する。
同時に光電子デバイス試作を一体的に進めるとともに、材料設計指針及び電気伝導機構解明を通して半導体界面の材料設計原理を構築する。
特徴
- 独自性:ナノラミネート高誘電率ゲート材料の開発と導電性酸化物電極材料開発
- 従来技術との比較:メタラジー概念を基盤とする材料設計指針構築
主な研究
まとめ
- AlOx/TiOyナノラミネート高誘電率ゲート材料の開発
- p-GaNへの低抵抗オーム性電極材料開発と導電性酸化物の材料設計指針構築
- メタラジー概念を基盤とするメカニズム解明と指導原理構築が課題
角谷 正友(すみや まさとも)
極性窒化物半導体薄膜のヘテロ界面構築と新機能
概要
窒化物半導体の極性構造に着目して薄膜成長メカニズムを検討してきた。極性と歪を伴うAlGaN/InGaNヘテロ構造はその界面に特有の電子状態が形成される。さまざまな条件で成長した半導体薄膜のギャップ内欠陥準位を光熱偏向分光法で評価するとともに、ヘテロ界面の評価を低温磁場下での電子輸送特性から行っている。窒化物半導体薄膜材料の低欠陥化と物理現象の本質的な理解から物性や機能の高度化に向けた取り組みを行っている。
こられの結果は高電子移動度トランジスタ、光電変換素子などの窒化物半導体電子デバイスへの特性向上につながる。
特徴
有機金属化学堆積法による窒化物半導体薄膜成長、光熱偏向分光法による欠陥準位・密度評価、低温強磁場でのヘテロ界面評価、デバイス特性を系統的に検討している。
窒化物半導体特有の極性構造を考慮した表面モデル計算から酸化・界面準位といったデバイス作製プロセス上の課題についても取り組んでいる。
主な研究
有機金属化学堆積法による窒化物半導体薄膜材料開発を軸に研究を行い、評価、新規デバイス開発を行っている。現在取り組んでいる光熱偏向分光法は、光学的電気的に不活性な材料でもギャップ内欠陥を評価できる特徴がある。非輻射再結合による発熱を検出するため、輻射再結合による発光と組み合わせることでさらに俯瞰的に欠陥に関する知見を得ることができる。
特にイオン注入した材料の欠陥評価やドーパントの活性化に向けた知見を本手法で得ることができる。ヘテロ界面で形成される2次元電子ガスの有効質量や散乱過程の物理的な基礎データを取ることができる。
これらのデータと薄膜成長条件との相関を学習することによって、物性の高度化やデバイスの高機能化を推進する。
まとめ
- 有機金属化学堆積法による窒化物半導体のヘテロ構造の構築
- 光偏向分光法によるギャップ内欠陥評価 特にイオン注入試料への高い有用性
- 低温磁場測定による電子輸送特性評価 有効質量やキャリア散乱機構の解明
- 窒化物半導体表面の酸化プロセス解明
- デバイス特性高度化に向けた取り組み
ダイヤモンドMEMSセンサーは、他の半導体よりもはるかに高い信頼性と感度を備えていることが実証されている。
ダイヤモンドMEMS(カンチレバーなど)の作製プロセスは再現性が高く、制御ができ、ハイエンドセンシングへの応用が期待されている。
色川 芳宏(いろかわ よしひろ)
半導体素子信頼性評価
概要
半導体素子の特性が測定雰囲気ガスに応じて変化することは古くから知られている。しかしながら、そのメカニズムについて推測はされているが、確定したものは未だに存在しない(界面に存在する電気二重層起因のモデルが提案されている)。
一方、半導体材料として窒化物半導体を用いたデバイスは実用化が進んでおり、その信頼性向上は重要である。本研究では、窒化物半導体デバイスの信頼性向上のために、環境雰囲気やデバイス材料物性等がデバイス特性に与える影響を調べる。
これまでの研究から、半導体界面に存在する絶縁膜の物性変化が重要な役割を果たしていることが明らかになっており、今後の研究で詳細を調べる。
特徴
実験結果を忠実に再現するモデルの提案、高感度水素センサの開発
主な研究
電極と半導体界面間に形成される電気二重層の存在を確認するために実験的・理論的手法の両面から取り組んだ。
図1にそれぞれ窒素および水素雰囲気中において、Pt-AlGaN/GaNショットキーダイオードをインピーダンス測定した結果得られたナイキストプロットを示す。
図1より、水素導入後においても、電気二重層の存在に伴うRC成分を示す新たな半円が現れないことがわかる。また、図2に第一原理計算によって得られたPd-SiO2界面の面内平均ポテンシャルの深さ方向分布を示す。
図2より、水素吸着前後で面内平均ポテンシャルに大きな変化が見られない。以上の結果より、界面において水素が電気二重層を形成することは考えにくい。次に、Pt-GaNショットキーダイオードの電極と半導体界面に様々な絶縁膜を挿入して水素応答を調べた。その結果、挿入する絶縁膜の種類によって、水素応答が大きく変化することがわかった。
さらに、Pt-SiO2-GaNダイオードの電流輸送機構を解析した結果、窒素中ではFowler-Nordheim tunnelingであったが、水素中ではPool-Frenkel emissionに変化した。この結果より、水素による絶縁膜の物性変化が本質的であることが予想される。
まとめ
得られた成果は、半導体デバイスの信頼性向上以外に高性能水素センサの実現にも応用可能と考えられる。今後は提案するメカニズムの詳細な検討等を行い、半導体デバイスの信頼性向上のための知見を得るとともに高性能水素センサの実現も目指す。
井村 将隆(いむら まさたか)
次世代半導体を用いた光・電子・磁性デバイスの開発
概要
次世代半導体光・電子・磁性デバイス分野では、Siを代替するワイドギャップ半導体の導入が不可欠である。私は応用性・実用性に優れ高い潜在能力を有すIII族窒化物半導体及びダイヤモンド半導体に早期から着目し、これらを用いたデバイス開発を行っている。
NIMSでは結晶成長、デバイスプロセス、結晶評価が一体となって常にフィードバックしながら研究する体制が整えてある。
特徴
- ダイヤモンド半導体を用いた放射線・陽子線検出器の開発 InGaN系窒化物半導体微細加工構造を用いた可視光全領域フォトニックデバイスの開発
- AlGaN系窒化物半導体を用いた高効率紫外線発光ダイオードの開発
- AlGaN/GaN及びAlInN/GaNヘテロ構造を用いた高周波パワーデバイスの開発
- BAlN及びScAlN系窒化物半導体を用いた磁性デバイスの開発
主な研究
低消費電力で長期安定動作可能な高耐性真空紫外線陽子線検出器を実現するために、ダイヤモンドを用いた縦型ショットキーバリアフォトダイオード(SBPD)を試作しその基礎特性及び耐性を評価した。
チャージアップ現象を低減させるために導電性のダイヤモンド基板を用いた。無電圧印加(ゼロバイアスモード)にてデバイスを動作させることで、低消費電力動作を実現した。
また、真空紫外線及び陽子線の応答特性と真空紫外線及び陽子線に対するデバイスの耐性を評価した。
まとめ
ダイヤモンドを用いて検出器を試作した。真空紫外線及び陽子線の応答特性と真空紫外線及び陽子線に対するデバイスの耐性を評価し、デバイスの長期安定動作が可能であることを実証した。
近年は、III族窒化物半導体を用いた可視光全領域フォトニックデバイス、高効率紫外線発光ダイオード、高周波パワーデバイス、新規材料を用いた磁性デバイスの研究開発を行っている。
劉 江偉(りゅう じゃんうぇい)
ダイヤモンドMOSFET論理回路
概要
ダイヤモンドは、高いキャリア移動度、大きな破壊電界と大きな熱伝導率を持つことから、高温、高出力、および高周波で安定に動作する電流スイッチおよび集積回路への応用が期待されている。
我々は、極限環境下に強いダイヤモンド集積回路を開発するための第一歩として、ノーマリオン/オフ型動作モードの金属—酸化物—半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)を組み合わせたダイヤモンド論理回路の開発に成功した。
特徴
- 極めて低い漏れ電流密度を持つダイヤモンドMOSキャパシタの開発
- ダイヤモンドMOSFETのノーマリオン/オフ型の制御プロセシングの開発
- ダイヤモンドMOSFET論理回路の開発
- 高熱安定性かつ低電力損失のダイヤモンド電力変換システムの開発
- 大電流出力マルチゲートダイヤモンドMOSFETの開発
主な研究
2012年に光電子分光技術により、種々酸化物と水素終端ダイヤモンド界面のバンド構造を明らかにし、酸化アルミニウム/水素終端ダイヤモンド界面の大きな価電子帯エネルギーオフセットが高性能MOS電子デバイス動作に有利であることを見出した。
2013年には極めて低い漏れ電流密度を持つダイヤモンドMOSキャパシタの開発に成功するとともに、困難であったノーマリオフ型の水素終端ダイヤモンドMOSFETの開発に成功した。
続いて2014年にダイヤモンドMOSFETと抵抗器の組合せでインバータ論理回路チップを試作し、2015年にはダイヤモンドMOSFETのノーマリオン/オフ型の制御プロセシングを開発するとともにそのメカニズムを明らかにした。更に2017年、2018年にはノーマリオン/オフ型動作モードのMOSFETを組み合わせたダイヤモンド論理回路の開発に成功した。
高温、高出力ダイヤモンドデジタル回路と高熱安定性かつ低電力損失のダイヤモンド電力変換システムの応用を期待される。
まとめ
ダイヤモンド論理回路は、高温・放射線・宇宙環境・高出力・高周波などの極限環境条件においても安定に動作する電子デバイスへの応用が期待される。
今後は、応用に必要な大電流化と高耐圧化を図るために、MOS界面のさらなる高品質化による移動度の向上、ドレイン領域に耐圧層の導入が必要ですが、近い将来、ダイヤモンドパワーエレクトロニクス産業の創出にも貢献します。