データ連携部会セミナー
データ連携部会企画
今年度から本格実施となった文部科学省の「データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト事業」において、NIMSはデータ連携部会の中核機関に選定されております。そこでデータ連携部会の活動の一環として、人材育成セミナーを開催いたします。マテリアルズ・インフォマティクス個別事例セミナーとして、今回は物質・材料研究機構の田村 亮主幹研究員のセミナーを開催いたします。今回のセミナー内容については当ページ最下部の「参考資料、URL」部分を含めご確認くださいますようお願いいたします。
機械学習と嗅覚センサによるニオイ解析
要旨 : 機械学習を利用し、「ニオイ」をどのようにデジタル化し、ニオイを認識・理解するかについて議論する。ニオイを分析するために嗅覚センサと称されるツールの研究開発が世界中で進められている。この技術では、多くのニオイサンプルを嗅覚センサで測定し、それらの応答を総合的に解析することで、個々のニオイサンプルの構成成分や濃度を抽出することなく、ニオイの認識・理解を目指している。つまり、多くのデータがあり、そこから情報を抽出するデータ解析手法が必要であり、まさに機械学習の出番となる。我々が行ってきた取り組みとして、まず、教師あり学習 (回帰や分類が代表的な手法) を利用したニオイの定量情報抽出手法を紹介する。超高感度小型センサ素子 (MSS) 、機能性感応材料を用いることでニオイを電気信号に変換する。そして、電気信号と各サンプルの定量情報 (果実の成熟度や健康状態の数値化など) を機械学習で紐付けすることで、未知のニオイから定量情報を予測する手法である。その一例として、香りの異なる様々なお酒のニオイから、アルコール度数という特定情報を高い精度で推定することに成功した[Scientific Reports 7, 3661 (2017)]、さらに、機械学習結果を利用して最適な機能性感応材料を選定することで、水,エタノール,メタノールの濃度を正確に推定できることも示した[ACS Sensors 3, 1592–1600 (2018)]。次に、教師なし学習 (次元削減やクラスタリングが代表的な手法) を利用することで、限られたニオイサンプルの中で、基準となるニオイである擬原臭を選定する技術について紹介する。この技術では、機械学習を利用したエンドポイント検出手法により、収集したニオイサンプルの電気信号から「他から外れたニオイ」を選定する。それを基準とみなすことで、様々なニオイを擬原臭の混合比で表すことが可能となる。例えば、12種類の調味料を対象とした場合、ナンプラー,料理酒,純水が擬原臭として選定され、醤油や焼肉のたれといった他の調味料は、これらの混合比を変えることで表現される[Scientific Reports 11, 12070 (2021)]。このように、機械学習を利用して、ニオイをデジタル化することができれば、ニオイの分解・合成が可能となり、ニオイの記憶,学習,送信,理解,さらには見える化も促進できると考えている。
講師
田村 亮 博士 (理学)
国立研究開発法人 物質・材料研究機構 主幹研究員
2012年東京大学大学院博士課程修了、博士 (理学) 取得。同年、物質・材料研究機構ICYS-SENGEN研究員、同機構研究員等を経て、2022年より同機構、国際ナノアーキテクトニクス研究拠点主幹研究員。2017年より東京大学大学院 メディカル情報生命専攻講師を兼任。使いやすい有効なマテリアルズ・インフォマティクス手法の開発を目指している。
問合せ/Contact
国立研究開発法人物質・材料研究機構
統合型材料開発・情報基盤部門
データ連携部会事務局
e-mail:dxmt_office=ml.nims.go.jp ([ = ] を [ @ ] にしてください)