強磁場NMRの開発

・920 MHz (21.6T) 高分解能 NMR マグネットの開発
 2001年、旧金材研・(株)神戸製鋼所・日本電子(株)などが開発した超高磁場超伝導NMRマグネットが完成し、21.6 T(発生磁場に相当する水素の共鳴周波数は920 MHz)における永久電流モードでの運転が開始されました。最も磁場が強くなる領域の内層コイル用線材に、ブロンズ中のスズ濃度を15 wt.%まで増加したブロンズ法Ti添加Nb3Sn線材が使用されました。また、冷却システムをより低温で効率的に運転できるように改良し、超伝導シムコイルによる部分的な均一度の調整を行うことで、NMRマグネットで非常に重要となる磁場安定度を3 Hz/hに抑えたまま、21.64 Tの最高磁場を経て920 MHzの永久電流モードへの移行を可能にしました。文部科学省超伝導材料研究マルチコアプロジェクトの一環として進められている1 GHz級NMRマグネットの開発にむけた大きな一歩となりました。

 ・Persistent-mode operation of a 920 MHz high-resolution NMR magnet
  T. Kiyoshi et al., IEEE Trans. Appl. Superconductivity, 12(1), 2002, 711-714.
 ・Achievement of a 920-MHz high resolution NMR
  K. Hashi et al., Journal of Magnetic Resonance, 156(2), 2002, 318-321.
・930 MHz (21.9T) 高分解能 NMR マグネットの開発
 2004年、NIMSを中心とした研究チームは、当時の世界最高磁場21.9 T(発生磁場に相当する水素の共鳴周波数は930 MHz)で動作する高分解能NMRマグネットを開発しました。920 MHzマグネットの内層コイル線材を上回るスズ濃度16 wt.%を有するTi添加Nb3Sn線材を利用したことで、臨界電流密度が向上し、同じ電流値をより少ない断面積で通電することが可能となり、結果として、920 MHzマグネットと同じ運転電流で、930 MHzに対応する磁場21.9 Tの発生が可能になりました。重要性が高まりつつある先端計測分析技術・機器開発において、超伝導NMRマグネットの最高性能機種が世界に先駆けて日本で開発されたことで、タンパク質などの構造・機能解析や固体触媒など材料研究に大きな進展をもたらしました。

 ・Operation of a 930-MHz high-resolution NMR magnet at TML
  T. Kiyoshi et al., IEEE Transactions on Applied Superconductivity, 15(2), 2005, 1330-1333.
・1,020 MHz(24.0T)高分解能NMRマグネットの開発
 2015年、NIMS・理研・(株)神戸製鋼所・(株)JEOL RESONANCE (日本電子株式会社の連結子会社) からなる研究チームは、科学技術振興機構 先端計測分析技術・機器開発プログラム「超1 GHz -NMRシステムの開発」の一環として、24.0 T(発生磁場に相当する水素の共鳴周波数は1,020 MHz)という、世界で最も強い磁場(開発当時)を発生できる超高磁場NMR装置の開発に成功しました。また、この装置を使って実際に測定を行い、従来のNMRに比べて感度と分解能が著しく向上していることを確認しました。
 NMR装置においては磁場強度が重要な指標の一つとなっており、磁場1,000 MHz(1 GHz)を超える熾烈な開発競争が行われてきました。かねてから、高温超伝導技術を用いれば1,000 MHzを超えられると考えられていましたが、高温超伝導体は割れやすく加工しにくいなど様々な課題があり世界的にも長期間実現には至っていませんでした。本研究チームは、1988年にNIMSで開発された高温超伝導体(Biー2223)を線材化するなど複数の新技術の開発を経て、NMR装置として世界最高磁場となる1,020 MHzを達成しました。構想から20年。東日本大震災で被った完成直前の損壊による開発中断、世界的なヘリウム供給危機、さらにはチームリーダーの急死など、度重なる苦難を乗り越えた末、建設開始後8年を経て目標達成に至りました。

 ・Achievement of 1020 MHz NMR
  K. Hashi et al., Journal of Magnetic Resonance 256, 2015, 30-33.
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