レーザー補助広角3次元アトムプローブ

レーザー補助広角3次元アトムプローブ

  フェムト秒レーザーにより電界蒸発をアシストするレーザー補助広角3次元アトムプローブです。金属材料のみならず、半導体デバイス・絶縁体材料のナノ領域の原子分布を可視化します。またFIB-SEM複合装置を用いたマイクロサンプリング法により、任意領域からの分析も可能になっています。
レーザー補助広角3次元アトムプローブの外観
(解析例)Dy拡散処理されたNd-Fe-B焼結磁石
の結晶粒界の3次元マップ(~30nmx30nmx100nm)
  これまでの3次元アトムプローブ(3DAP)では静電界に数nsの電圧パルスを針状試料(tip)に加えて電界蒸発によって原子のイオン化を行うために、 試料に導電性がなければならないという制約がありました。このため、3DAPの応用は圧倒的 に金属材料の解析に関するものとなっています。10-2Ohm·cm程度の高ドープSiや薄い酸化物層の電圧パルスによる解析例は報告されているものの、それ以上の抵抗率の試料の電圧パルスによる解析は不可能と考えられていました。さらに、現在一般的に使われている装置では、観察可能領域が縦横数10nm、深さ数100nm程度が限界であり、デバイス構造の解析にはより広領域の解析能が望まれています。また、実際のアトムプローブ分析で最も問題となるのは、電界応力による試料の頻繁な破壊です。この事実はアトムプローブユーザー以外には一般に知られていませんが、多くの試料、特に転位などの欠陥を大量に含む金属系試料や多層膜などは、電圧パルスによる分析中に頻繁に破壊します。アトムプローブ法を使う研究者にとって、分析中に試料破壊が起こらなくなるということは、長年の夢となっていました。
  以上の3DAP法の制約はいずれもtip先端からので電界蒸発を利用してアトムプローブ法が可能となるという原理的な制約ですが、これらを克服できる可能性のある方法としてレーザー駆動による3DAP法(レーザーアトムプローブまたはレーザー補助3次元アトムプローブ)が注目されています。これまでの研究により、パルスレーザーによりtip先端からの電界蒸発をアシストすると、以下のようなメリットが得られることが分かっています。(1) イオン化の際にエネルギー欠損が無いため、エネルギー補償器無しの直線型アトムプローブであっても、質量分解能の向上が期待できる。(2) その結果、飛行距離を短くできるので、検出器の開広角を従来の20倍以上に広角化できる。(3) レーザーアシストの分だけ原子の蒸発電界強度を低く抑えられるので、試料破壊の頻度が著しく減少する。(4) レーザー蒸発により、これまで不可能であった半導体の解析が可能になり、絶縁体解析の可能性もある。
  図1にレーザーアトムプローブの原理の模式図をしめす。従来装置で用いられていた高電圧パルスの代わりに、tip先端にフェムト秒レーザーパスルを照射することで電界蒸発のタイマーと同期させて起こさせること以外は従来型の3次元アトムプローブと同じです。唯一の違いは、先に述べたように基本的にレーザーアシストによる電界蒸発ではイオンのエネルギーがtipに加えられたDC電圧になるので、イオンにエネルギー欠損が生じない。このために直線型であっても質量分解能が著しく改善されることから、試料・検出器間距離を短くすることができる。結果として検出器の開口角を従来型のアトムプローブの20倍程度でできることが大きなメリットとなっています。

図1 レーザーアトムプローブの原理の模式図
  図2は本センターで開発されたレーザーアトムプローブの模式図とその写真を示しています。図中のマススペクトラムに見られるようにレーザーアシストによるイオン化ではエネルギー欠損を低減することができますので、質量分解能を維持したまま、試料-検出間距離を短くできます。本装置では130 mmであり、そのため検出器の開口角が0.32 srと、従来のアトムプローブの20倍程度に広がっています。動作試験を通して、当初用いた波長1030 nmの赤外光レーザーでは試料によっては質量分解能が十分に得られないことが分かってきました、これは長波長レーザーではフォノンを励起して試料温度が上昇し、その結果電界蒸発が起こるために、熱伝導の悪い試料で質量分解能が悪くなることが分かってきています。そのため、波長変換器を取り付け、現在の装置では2倍波の515 nmの可視光と3倍波の330 nmの紫外光レーザーを選択できるようにしています。短波長レーザーでは電子励起によるイオン化が起こるためか、質量分解能が著しく改善されることが分かってきています。
図2 本センターで開発したレーザー補助広角3次元アトムプローブの模式図
図3 本センターで開発したレーザー補助広角3次元アトムプローブの外観と低振動試料ホルダー
図4 UVレーザーで駆動した場合の3価のタングステンイオンのマススペクトラムとFe-Cu合金の従来型3DAPと広角3DAPによる分析領域比較
図5 UVレーザーで分析に成功したt-ZrO2/MgAl2O4ナノコンポジット絶縁性セラミクスの針状試料の背面反射電子像、 マススペクトラム、原子トモグラフィーと選択領域からの濃度プロファイル。試料はバルク試料からFIBによる微細加工で作製された。 絶縁材のバルク試料の世界で初めての成功例。
図6 短波長レーザーにより解析可能となった高電気抵抗(絶縁体)試料
  レーザー補助電界蒸発によりアトムプローブの応用範囲が爆発的に広がって来ています。
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