研究テーマ
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モット転移 モット物理 フラストレート磁性体 量子スピン鎖 金属強磁性 磁気相転移 理論手法

 量子スピン鎖

 1次元系は解析的にも数値シミュレーション的にも精密な研究ができることが多く、強い量子揺らぎに起因する異常な振る舞いを詳しく調べることができる。そして、一般に量子揺らぎが高次元系よりも強くなりやすいので、強い量子揺らぎに起因する現象の一般的な特徴を1次元系の解析から抽出できる場合がある。また場合によっては、1次元系特有の興味深い性質が得られることもある。ここでは、1次元量子スピン系に関する2つの研究(スピン1/2量子スピン系の磁場中で現れる高エネルギー状態[1]と、スピン1ボンド交替量子スピン鎖の量子臨界性[2])について紹介する。前者は磁場中の量子スピン系の一般的性質と考えられ、後者は1次元特有の性質と考えられる。

 1次元スピン1/2ハイゼンベルグ鎖の磁場中での高エネルギー励起 [1]
 1次元スピン1/2ハイゼンベルグ鎖の無磁場での励起は、分数スピン(S = 1/2)を運ぶ準粒子(スピノン)によって説明されることが知られている。磁場中の低エネルギー領域の励起も、磁場中のスピノンに対応する磁場中の準粒子(プサイノン)とその反粒子(反プサイノン)によって説明されることが知られている。ところが、厳密解を使ってプサイノンと反プサイノンで表される励起のスペクトル強度を計算しても総和則を満たさず、それらでは説明できない別の励起がかなりのスペクトル強度を担っていることがわかった。そこで、通常はあまり重要視されていなかったストリング解を考慮してスペクトル強度を計算したところ、2-ストリング(反プサイノンのペア)をもつ解がS+-(k,ω)で大きなスペクトル強度をもつことがわかった。この励起は磁場によって2-スピノン連続帯から分離し、高エネルギー領域に連続帯を形成する。そして、磁場とともにエネルギーが上昇し、徐々にスペクトル強度を失う。そして飽和磁場直下では、強磁性ハイゼンベルグ鎖で知られている2-マグノン結合状態に帰着することがわかった [1]。この高エネルギー状態によって、中性子非弾性散乱実験で観測されていた高エネルギー状態を定量的に説明することができた [1]。なお、この高エネルギー状態の生成メカニズムは、量子スピン系を斥力ボゾン系にマップすることによって、ハバードモデルの上部ハバードバンド[3]と類似したものであることが分かった [4]。

 スピン1交替ボンド鎖の量子臨界性と実験との比較 [2]
 高次元の反強磁性体では通常磁気秩序があり、そこからの励起はスピン波理論によって良く説明される。つまり、古典的(スピン S → ∞)秩序からの量子揺らぎとして励起を理解する事ができる。一方、1次元ハイゼンベルグ反強磁性鎖では強い量子揺らぎのために古典的な秩序が安定化せず、スピン S の長さによって低エネルギーの振る舞いが異なる。半奇整数のスピン(S = 1/2, 3/2, 5/2, …)鎖ではログ補正を伴う冪乗則に従うスピン相関(擬長距離秩序)を示すスピンシングレット状態が基底状態となり、ギャップレス励起が現れることが知られている。そして、整数スピン(S = 1, 2, 3, …)鎖では、励起にスピンギャップ(ハルデンギャップ)を生じる。このギャップの大きさは結合に交互に強弱をつけることで変化させることができ、ある強弱の比のところでギャップが閉じると予想されていた。そして、スピン1の反強磁性鎖と見なせるギャップレスの振る舞いを示す物質 [{Ni(333-tet)(μ-N3)}n](ClO4)n が見つかったので、それが理論的に予想されていたギャップレス点に対応する物質であるのかを定量的に検証するために量子モンテカルロシミュレーションを行った [2]。その結果、極低温でのわずかなずれを除けば、スピン1ボンド交替鎖のギャップレス点の性質として実験結果を良く説明することができた。また、ギャプレス点の強弱比の正確な見積もりやログ補正など、量子臨界点近傍の有限温度の性質を詳細に明らかにした [2]。


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