研究テーマ
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モット転移 モット物理 フラストレート磁性体 量子スピン鎖 金属強磁性 磁気相転移 理論手法

 モット転移

 通常のバンド描像では金属のフィリングでも、電子間のクーロン相互作用によって絶縁体になることがある。このような金属-絶縁体転移はモット転移と呼ばれ、1940年代後半から長い間その性質について議論されてきた。特に、層状構造をもつ反強磁性モット絶縁体にドープすることによって銅酸化物の高温超伝導体が得られることから, 2次元系のモット転移近傍の性質に注目が集まり、モット転移に関する様々な可能性が理論的に提案されてきた。主なものとして、1次転移、フェルミ液体の有効質量の発散、反強磁性秩序をもつ金属からのバンド絶縁体型転移、スレーブ粒子描像などが挙げられる。

 1次元ハバードモデルのモット転移 [1]
 最も簡単な空間的相関のある系として、1次元系のモット転移について考える。1次元電子系の励起は、主にスピンの自由度を担うスピノンと、電荷の自由度を担うホロンによって説明されることが知られている。スピンと電荷の分離として知られているように、スピノンとホロンは異なる速度をもつ。(この性質はフェルミ液体理論によって良く説明される高次元電子系の特徴と対比される。フェルミ液体理論ではスピンと電荷の自由度をもつフェルミオンの準粒子によって電子の励起が特徴づけられる。) モット転移近傍における1粒子励起の特徴を明らかにするために、 厳密解を使って分散関係を、また動的密度行列繰り込み群(DDMRG)法を使って1粒子スペクトル関数を計算した。両者を比較して強いスペクトル強度をもつモードがどのような励起に対応するのか調べた。その結果、モット転移において最も特徴的な振る舞いは、スピンと電荷の分離の観点から集中的に調べられてきたスピノンやホロンの現れる ω < 0 の領域よりも、むしろ電子を加える励起(ω > 0)に現れることがわかった。そこでは、スピノンと反ホロンの連続帯の上端に大きなスペクトル強度が集中し、スピンと電荷の自由度を併せ持つモード(準粒子)が現れる。このモードはモット転移点に近づくにつれて徐々にスペクトル強度を失う。しかしながら、その分散関係は平坦にはならず、ホッピング t やスピン交換 J 程度のエネルギーの分散関係をモット転移点まで保つ(図1)。この特徴はフェルミ液体の有効質量の発散(m*→∞)で予想される振る舞いとは異なる(図1)。モット転移直前の分散関係は無限系で厳密に計算することができた [1]。このモードの性質を詳しく調べると、モット転移の直前では反ホロンの波数が k = ±2kF に制限されるために電荷の自由度が凍結するが、スピンの自由度は連続的にモット絶縁体の磁気励起を担うスピノンとなる。そのため、1粒子スペクトル関数ではモット絶縁体のスピンの励起を反映した分散関係を残したままスペクトル強度が失われることとなる。つまり、モット絶縁体におけるスピンと電荷の分離に向けて、スピンと電荷の自由度を併せ持つモードから電荷の性質が失われたと理解することができる。また絶縁体側からは、ドーピングによってスピンの励起が電荷の衣を纏うことによって1粒子励起として現れたということができる [1]。その他、k = kF と 2π-3kF の2つのギャップレス点に挟まれたホールポケットや擬ギャップ的振る舞いなど、モット転移近傍の特異な電子状態を厳密解と高精度数値シミュレーションによって明らかにすることができた [1]。

図1 (a) 1次元ハバードモデルのモット転移近傍の1粒子スペクトル関数 [1].(b) モット転移近傍のモードの概念図.モット転移に近づくにつれて ω > 0 の領域のモード(ピンクの点線)は、赤い実線で示すスピノンの分散関係に漸近し(ω < 0 のスピノンの分散関係と k = kF のギャップレス点に関して対称)、モット転移直前でも平坦にならない [1]。このモードのスペクトル強度はモット転移に向けて徐々に消失する。反ホロンモード(ω > 0 の黄色い点線)と ω = 0 との2つの交点で挟まれた波数領域はホールポケットとみなすことができ、モット転移に近づくにつれてその領域は消失する [1]。(c) ドープしたバンド絶縁体の分散関係.(d) フェルミ液体で有効質量m*が発散する場合の1粒子状態密度の概念図.有効バンド幅は 1/m* → 0 でゼロになる。緑の実線:ω = 0.

 2次元ハバードモデルのモット転移 [2]
 2次元系のモット転移でも同様な特徴が現れます[2--6]。

 その他、モット転移近傍の臨界的振る舞い[7]や超伝導性の増大[8]について、数値シミュレーションや厳密解などを用いた研究を行っている。

[関連論文]



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