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物質・材料研究の『使える!メールマガジン』
vol.131
 
2022.12.14
半導体量子ドットの写真
今月の一枚
半導体量子ドットの炎

寒空に灯る柔らかなロウソクの炎のような物体は、砒化ガリウム(GaAs)の半導体量子ドット。GaAsの基板上にGaを照射してナノサイズの金属液滴を形成させ、この液滴にAsを供給するNIMS発の「液滴エピタキシー法」によって作製される。NIMSでは、この半導体量子ドットを用いて、現行の光通信よりも安心・安全な次世代の量子暗号通信の実現を目指している。

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蒸汗センサと汗のイメージの写真
ウェルビーイングにつながる産業創出へ!
「蒸汗センサ」の実証実験が本格始動
プレスリリース 11/18

指を近づけるだけで、熱中症リスクを判定するNIMS発の「蒸汗センサ」。この度、NIMSと山口市、森ビル都市企画の3者がタッグを組み、「蒸汗センサ」の本格的な実証実験を山口市内のスポーツクラブにて開始します。被験者の運動前後における「蒸汗センサ」の応答や体水分の変化率、心拍数等との相関を統計的に解析し、ウェルビーイングにつながる産業創出を目指します!

MaDISのロゴ
MIの基礎から応用まで学べる!
ウェビナー、参加者募集中!

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)に関するZOOMウェビナーを開催中! 簡単な物質例を使って、MIに必要なデータ解析の基礎知識から応用までを「習うより慣れろ」の方針で徹底解説します。参加費は無料(要事前登録)。ぜひご参加ください!

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電池材料解析ワークショップ
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NIMS蓄電池基盤プラットフォームによる毎年恒例のワークショップ。今回は林 晃敏教授(大阪公立大学)を特別講演にお迎えして、硫化物型全固体電池の最新研究をご紹介いただくほか、NIMSの評価装置の成果報告やポスターセッションを開催します。申込締切は12月19日。ご参加、お待ちしております!

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モノトーンの世界にそこだけ色が!? 
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濃淡だけでできた、色のないモノトーンの世界。なのに、なぜか一か所だけ色づいて見える……! モノクロ映画のパートカラー手法のように見えますが、もちろん、画像加工は一切ナシ。光と物質が織り成す不思議な現象をご覧あれ!

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人工視覚イオニクス素子の写真
Vol.11
人工視覚イオニクス素子
~人間の優れた機能「側抑制」を再現! 小型&低消費電力の新たなセンシング技術~

レコードに針を落とすように、基板上の素子の上に慎重に電極を当てていく。電圧をかけると、素子内のリチウムイオンが動き出し、人間の目と同じ働きが始まった——。

人が物を見たとき、その形や色を正確に判断できるのは、物体の明暗や境界線を強調する「側抑制」という機能が備わっているからだ。この側抑制を再現し、AIに組み込むことができれば、画像認識の精度が高まり、顔認証や自動運転などの性能が飛躍的に向上する。
しかし、側抑制を既存のセンサで再現しようとすると、複雑な回路やプログラムが必要な上に、それらを動かす大量の電力が不可欠だ。そこで、鶴岡研究員が開発したのが「人工視覚イオニクス素子」(下図)。

人工視覚イオニクス素子の装置の写真
人工視覚イオニクス素子を搭載した装置の全体像。電極が素子にコンタクトした様子が、右奥の画面で確認できる。
人工視覚イオニクス素子の模式図
人工視覚イオニクス素子の模式図。チャネル1~4に0.5V、5~8に1Vの電圧をかけると、リチウムイオンの移動によって電圧の境界であるチャネル4と5の間のチャネル電流対比が大きくなり、明暗比を増幅する。これにより、人間の視覚で起こる側抑制と同様の現象が出現する。

固体電解質の上に8本のチャネルを並べ、両端に白金電極を接続したこの素子で、鶴岡はイオンの移動と相互作用のみ、つまり材料の特性だけで側抑制の再現に成功した。
人間は、目に入った光を初めに網膜内の受容体で電気信号に変換し、その信号を神経細胞で抑制したり強調したりして視神経へ伝達している。この仕組みを模倣して、まず解析したい画像の情報を電気信号に変換し、その信号に従って人工視覚イオニクス素子の各チャネルに電圧を入力する。

この時、画像の暗いところには低い電圧、明るいところには高い電圧をかけると、素子内のリチウムイオンが電圧の高いチャネルから低いチャネルに移動する。このイオンの濃度変化が、各チャネルを流れる出力電流の大小に影響し、画像の境界を際立たせ、側抑制を再現しているのだ(右図)。

入力画像と出力画像の写真
人工視覚イオニクス素子に入力した画像(左)と素子の出力電流像を2値化した出力画像(右)。素子が元画像の明暗の境界を正確に検出し、強調して出力している。
鶴岡研究員の顔写真
「生物の活動にイオンは重要な役割を果たしています。従来の半導体素子よりも生物の動作原理に近いイオニクス素子を用いて、より人間らしいAI実現に向けた材料技術の開発を進めます」(鶴岡徹研究員)。

「入力した信号のみで境界線を正確に捉えられるので、専用の回路やプログラムを組む必要がなく、消費電力も少ない。小型なので、デバイスを設計する際の自由度も高まります」と鶴岡。人工視覚イオニクス素子は、今回実現した明暗の境界以外にも、傾きや大きさ、色、動きなど、視覚に関わる様々な認知機能を再現できる可能性がある。さらに、側抑制の機能は人間の五官すべてで起こることから、新しいセンシングシステムの開発にも期待が高まる。

人間が持つ優れた機能に、限りなく近づいていく小さな素子——鶴岡の今後の研究から目が離せない。

もっと知りたい!
アツい人工視覚イオニクス素子の世界

★NIMS NOW Vol.22 No.5 『人間らしさの材料科学』
P14-15「人間の視覚の巧みな機能をAIへ
“錯覚”する人工視覚素子」

★プレスリリース(2021.10.11)
「ヒトの目のように錯覚する人工視覚素子を開発」

BOOK
どっぷり浸かるサイエンスの世界
オトナ科学本
本の表紙写真『地球科学入門』
『地球科学入門』
平 朝彦 著
講談社
メディア担当・Hのイチオシ!

日本列島って、地質学的に見るととてもユニークなんです。4つの大きなプレートの交差点で、100を超える火山があり、地震が多いために常に地形が変動している——世界的にもこんな面白い場所はないでしょうね。
そんな日本列島の姿を、読みやすい文章とたくさんのビジュアル、そして動画(QRコード)で紹介してくれる一冊です。著者は海洋研究開発機構・元理事長の平 朝彦先生。日本の海底を科学掘削船で掘り起こし、日本列島誕生の謎を科学的アプローチで解き明かした地球科学のエキスパートです。中でも、東日本大震災にまつわる分析(地震発生のメカニズム、海底の変動、津波、液状化など)は、経験しているがゆえに興味深く読めるはずです。写真を眺めているだけでも楽しいし、動画に飛べば迫力ある映像を堪能できる。専門家のコラムも豊富で、用語解説集もついているので、マニアの方にもおススメです。
5000万年後には、ハワイが伊豆あたりまで動いてくるんだとか。今日明日のことばかり気にしがちな私たちですが、たまには足元の大地に思いを馳せ、遠い未来の地図を描いてみてはいかがでしょうか。

あらすじ

日本列島形成の軌跡を解き明かした話題作『日本列島の誕生』の著者・平 朝彦氏による地球科学の入門書。豊富な写真と図解に加え、著者自身が現地で撮影した動画のQRコードが多数盛り込まれ、地球の成り立ちを楽しく学ぶことができる。

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