概要
自動車のパワステ、ワイパー、ハイブリッド自動車のモーター、エアコンや冷蔵庫のコンプレッサー、医療用MRIやPCのハードディスクまでわたしたちの身の回りには、想像以上に多くの磁石が使用されています。ハードディスクの内部にはデスクを回転させるスピンドルモータ、ヘッドを高速で動かすアクチュエーター、大容量の磁気情報を蓄えるナノ粒子磁石、また磁気情報を読みだす磁気抵抗素子など、さまざまな磁性材料が使われています。NIMSの磁性材料研究は、強磁性材料の構造をミクロ・ナノ・原子レベルで制御して磁石の性能を向上させることにより、磁石を使うデバイスの小型化により電力消費を削減することを目指しています。磁性材料の高性能・高効率化は環境コスト低減に直結するからです。
高性能磁石の必要性
ハードディスクに不可欠な磁石
ハードディスクのヘッドに応用されるスピントロニクス
磁石を応用したメモリ、MRAMの可能性
このようなハードディスクドライブはビット単価が安く、大容量のデータストレージに適しています。一方、より高速記録再生の必要なコンピュータのワークメモリでは、コンデンサに電荷を蓄えて情報を保存するDRAMが広く使われています。DRAMでは電源を切ると電荷が放電によってデータが失われてしまう(揮発性)ため、現在のコンピュータでは起動時にハードディスクドライブからもう一度データを読み込む必要があります。MRAMという新しいメモリでは情報の保存にTMR素子を使用します。それにより電源を切ってもデータは磁石により保持される(不揮発)ことになります。MRAMは素早い起動が可能なインスタントオンコンピュータのワークメモリとして期待されていますが、それだけではありません。将来安価で高容量のMRAMが開発されれば、ハードディスクのようなデータストレージにも置き換わる可能性があるのです。MRAMはディスクを高速回転させる必要がないため、実現すると、IT分野における膨大な省電力効果が期待できます。
このように磁性・スピントロニクス材料研究センターではさまざまな磁性材料からナノ構造を構築することにより、磁石特性・軟磁気特性・磁気記録特性・電子のスピンに依存する伝導特性を最大限に引き出し、省エネルギーに貢献する材料イノベーションを目指しています。