TRMOKE

時間分解磁気光学カー効果測定装置 TRMOKE

フェムト秒レーザー

 2018年に高強度超短光パルスの生成方法としてノーベル物理学賞を受賞した技術を元に作られた超短パルスレーザーです。1フェムト秒は1秒の1000兆分の1の時間です。1秒間で地球を7周半できる光であっても、0.3マイクロメートルしか進めないほど一瞬の時間です。フェムト秒レーザーはこの一瞬の間に光を照射するため、高強度である一方で熱の影響が少ない点が特徴です。そのため、レーザー加工技術や医療技術に応用されています。また、基礎研究分野では、フェムト秒の時間領域に発生する超高速な物理現象を観測するために活用されています。

ポンプ・プローブ法

 フェムト秒レーザーを用いた超高速な物理現象の測定手法です。物理現象を励起するためのポンプ光と観測用の微弱なプローブ光の2種類の超短光パルスを利用します。ポンプ光とプローブ光が試料に到達する時間差を変化させることでストロボ撮影のように時間分解測定を行います。それぞれの時間に対応する一瞬一瞬の信号をつなぎ合わせることで物理現象の時間分解ダイナミクスが表現されます。

超高速減磁

 フェムト秒レーザーは1960年代半ばに開発され、これにより超高速な物理現象の開拓が始まることとなりました。一般的な金属材料では、超短光パルス照射により電子が励起し、その後励起電子の緩和過程で格子振動にエネルギーが散逸していきます。一方で、磁性金属材料では格子振動へのエネルギー散逸よりも明らかに早い1ピコ秒未満で磁化が変化する、超高速減磁という現象が1990年代後半に発見されました。この現象をミクロな視点でみたとき、励起電子の緩和過程で磁性材料のスピン配列がサブピコ秒のうちに乱れていると考えられています。この超高速減磁に代表されるような磁性材料における超高速な磁化・スピンの現象を活用することで、高効率なテラヘルツ波発生や磁化ダイナミクス励起などの様々な新しい技術が提案されています。[E. Beaurepaire, et al., Phys. Rev. Lett. 76, 4250 (1996).]

時間分解磁気光学カー効果(TRMOKE)

 磁気光学カー効果は、光が磁性材料の表面で反射する際、磁性材料の磁化状態に応じて偏光状態が変わる現象です。これを応用することで、磁化状態の変化を観察することができます。特に、ポンプ光によって励起された磁性材料の磁化ダイナミクスをプローブ光の磁気光学カー効果を介して測定する方法を時間分解磁気光学カー効果(TRMOKE)と呼びます。電気的計測装置だけを用いた一般的な測定手法では観測できない超高速な磁化ダイナミクスを計測・解析できます。これにより、従来我々が使用してきた永久磁石や磁気記録材料のような磁気異方性の大きな磁性材料においてどのような磁化ダイナミクスが発生しているかが分かるようになります。[M. V. Kampen, et al., Phys. Rev. Lett. 88, 227201 (2002).]

高温高磁場TRMOKE

 永久磁石や磁気記録材料のような磁気異方性が大きな実用材料では、磁化ダイナミクスを調べるために数テスラ以上の大きな磁場が必要です。そのため、超伝導を利用した電磁石が求められます。超伝導磁石は物性研究に活用されることが多いため、測定環境も低温の報告例が多いですが、実用材料の使用環境は室温以上です。そこで、使用環境に応じた温度範囲で磁化ダイナミクスを調べるために室温から400℃程度まで温度上昇可能な測定系を用いて超高速磁化ダイナミクスの実験を行っています。
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