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Thomas Scheikeポスドク研究員らの執筆したApplied Physics Letter論文がFeatured Articleに選ばれ、同時にAmerican Institute of PhysicsのリサーチハイライトScilightに記事が掲載されました

2021.02.01
  Thomas Scheikeポスドク研究員(スピントロニクスグループ)らが執筆した論文「Exceeding 400% tunnel magnetoresistance at room temperature in epitaxial Fe/MgO/Fe(001) spin-valve-type magnetic tunnel junctions(400%を超える室温トンネル磁気抵抗効果を示す単結晶鉄/酸化マグネシウム/鉄のスピンバルブ型トンネル磁気抵抗素子)」がApplied Physics Letter誌の注目論文Featured Articleに選ばれました。また同誌を発行する米国物理学協会(American Institute of Physics)のリサーチハイライトScilightにも選ばれ記事が掲載されました。

“Exceeding 400% tunnel magnetoresistance at room temperature in epitaxial Fe/MgO/Fe(001) spin-valve-type magnetic tunnel junctions”
Thomas Scheike, Qingyi Xiang, Zhenchao Wen, Hiroaki Sukegawaa), Tadakatsu Ohkubo, Kazuhiro Hono, and Seiji Mitani, Appl. Phys. Lett. 118, 042411 (2021).
https://doi.org/10.1063/5.0037972
(プレプリントサーバー:https://arxiv.org/abs/2011.08739

AIP Scilight
“Researchers double room temperature tunnel magnetoresistance ratios of Fe/MgO/Fe”
(研究者らがFe/MgO/Feの室温トンネル磁気抵抗を2倍に)
https://doi.org/10.1063/10.0003487

<本論文の概要>

  Thomas Scheikeポスドク研究員・介川裕章主幹研究員ら(スピントロニクスグループ)は、鉄/酸化マグネシウム/鉄(Fe/MgO/Fe)の3層構造をもつトンネル磁気抵抗素子において従来の2倍の値となる417%の室温磁気抵抗比(TMR比)を達成しました。室温TMR比は実用素子で非常に重要となる特性であることから本研究の知見の活用によってスピントロニクス応用研究の大きな加速が期待されます。

  Fe/MgO/Fe素子は非常にシンプルな構造を持つことから標準的な磁気抵抗素子としてスピントロニクス研究で20年近く活用されてきました。しかしFe/MgO/Fe素子の室温TMR比は永らく200%前後にとどまっていたため短期間で大きな進展がみられることは期待されていませんでした。本成果は著者らが開発した単結晶薄膜技術を駆使することで、鉄層と酸化マグネシウム層が接する界面領域の結晶品位が著しく改善されたことで実現されました。Fe/MgO/Feでは上下2つの界面がありますが、その両方の改善が進み上下で均衡がとれた理想的な電子構造が実現されたことが決め手となりました。また、コバルト-鉄合金を下部鉄層と酸化マグネシウム層の界面に超薄膜として導入することでさらに大きい496%の室温TMR比も達成し、「ピン層」を持つ磁気抵抗素子として世界最大値を更新しました。現在、実用素子のTMR比は大きくても300%程度であることを考えるとこれらは非常に大きな値であるといえます。今回作製されたFe/MgO/Fe素子のTMR比は低温において900%を超え、1000%超を予測する理論値にもせまる極めて大きい値も実証されています。

  本研究では過去のものともみなされつつあった基礎的なFe/MgO/Fe素子において並外れた進展がみられました。このことはFe/MgO/Fe以外のさまざまなトンネル磁気抵抗素子にも進化の余地があることを予感させます。本研究の知見に基づいた素子設計によってさらに巨大なTMR比実現の可能性が拓かれ、大容量不揮発磁気メモリや高感度磁気センサーなどスピントロニクス応用素子へ展開が期待されます。

※ピン層:片方の磁性層の磁化方向を一方向に固定(ピン)させ、TMR比を観察しやすく工夫された層であり、面内磁化型の応用素子では必須な構造。本研究の素子では反強磁性体のイリジウム-マンガン合金層を設置して上部鉄層の磁化をピンさせた構造を有している。
(文責:介川裕章)
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