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NIMS Award シンポジウム

NIMS Award 2022 授賞式 / 受賞記念講演

NIMS Award 2022 受賞者

本年のNIMS Awardは「機能性材料分野」より、「医療技術の革新的進歩に繋がる『バイオマテリアル』」研究について選考し、世界的に傑出した業績を挙げた岡野 光夫氏 (東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 名誉教授・特任顧問) 、石原 一彦氏 (大阪大学大学院工学研究科 特任教授) およびDonald E. Ingber氏 (ハーバード大学Wyss研究所 創設ディレクター) の3名が受賞します。

NIMS Award 2022 受賞者の

授賞理由

岡野氏の「温度応答性高分子材料を用いた細胞シート工学の創製と再生医療への応用」、石原氏の「生体構造模倣型ポリマーバイオマテリアルの創製と医療応用に関する先導的研究」、Donald E. Ingber 氏の「細胞テンセグリティモデルの提唱とOrgan-on-a-chip技術の創出」が、学術界だけでなく産業界においても多大なインパクトを与え、それぞれ世界的にも傑出した業績として選出されました。

受賞者プロフィール

岡野 光夫氏
岡野 光夫
東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 名誉教授・特任顧問
ユタ大学教授 薬学部特別招聘教授
細胞シート再生医療センター長

研究分野
ミクロ・ナノドメイン構造表面、刺激応答性高分子、ハイドロゲル、薬物放出制御、人工臓器、組織工学、再生医療
研究成果
温度応答性高分子材料を用いた細胞シート工学の創製と再生医療への応用
研究成果の概要

岡野氏は、温度に応じて性質を変える高分子材料を表面にナノレベルの厚さでコーティングした細胞培養基材の発明に成功し、酵素処理(細胞に損傷を与える)を⾏うことなく温度を下げるという操作だけで、簡便に細胞をシート状に回収できる技術を世界に先駆けて開発した。さらに、その細胞シートを再生医療へと展開し、筋肉の細胞から作った細胞シートを重症心不全患者の心臓に貼ると、人工心臓を外して元気に歩けるようになるまで回復する という夢の医療を実現した。

業績の学術界・産業界への波及

材料科学の研究からスタートした細胞シートの 技術は、今まさに医療分野においてイノベーションを起こしている。心不全の治療だけでなく、角膜・歯周組織の再生、食道がん切除後の狭窄防止等、様々な疾患を対象に治験が行われており、 日本発・世界初の最先端医療として今後ますますの発展が期待されている。

石原 一彦氏
石原 一彦
大阪大学大学院工学研究科 特任教授
東京大学 名誉教授

研究分野
高分子化学、バイオマテリアル
研究成果
生体構造模倣型ポリマーバイオマテリアルの創製と医療応用に関する先導的研究
研究成果の概要

石原氏は、細胞膜表面の構造と機能に着想を得た生体構造模倣型ポリマーの創製に貢献した。また同氏は、超親水性の生体構造模倣型ポリマーがタンパク質の吸着や細胞接着を抑制することで、人工心臓や血管ステントのような体内に長期間埋め込んで使用する医療機器の機能性を飛躍的に向上させることを明らかにし、様々な医療機器の表面処理に応用できる革新性を実証し続けてきた。

業績の学術界・産業界への波及

石原氏は、材料の分子設計、合成方法の確立から基礎・基盤的な研究に加え、医療機器としての社会実装まで実現し、医療の発展に大きく貢献した。これまでに、生体構造模倣型ポリマーは、コンタクトレンズや人工心臓、人工肺、カテーテル、血管ステント、脳動脈瘤治療システム、人工股関節ライナーなど様々な医療機器の表面処理に利用されており、25年間以上の応用実績がある。これらの研究の価値は学術面・産業面の双方から高く評価され、多年にわたりバイオマテリアル科学の普及およびその水準の向上に寄与し、現在も生体医工学や界面科学など幅広い 分野へ波及し続けている。

Donald E. Ingber氏
Donald E. Ingber
Founding Director and Core Faculty Member,
Wyss Institute for Biologically Inspired Engineering at Harvard University
Judah Folkman Professor of Vascular Biology, Harvard Medical School and Boston Children's Hospital
Hansjörg Wyss Professor of Bioinspired Engineering, Harvard John A. Paulson School of Engineering and Applied Sciences

研究分野
Biologically inspired engineering(生物規範工学)
研究成果
細胞テンセグリティモデルの提唱と Organ-on-a-chip技術の創出
研究成果の概要

Ingber氏は、 建築学上の構造体である「テンセグリティ(張力等の力のつり合いによって 全体構造を安定化させるシステム)」と細胞との類似性にヒントを得て、細胞にかかる “物理的 な力” 脈拍による伸縮力、細胞自身が発する牽引力等)が、組織・臓器の形成や癌の発生過程において重要な役割を果たしていることを明らかにした。これらの知見を基に試験管内でミニチュア臓器を再現(Organ-on-a-chip技術)させ、動物実験を行わない創薬研究や個別化医療技術への展開を示した。

業績の学術界・産業界への波及

Ingber氏の研究は、細胞に生じる力がどのように機能に影響するかというメカノバイオロジーや組織工学などの分野に多大なインパクトを残した。また、生物・自然から学んでモノ作りを行う「生物規範工学」と言う新しい学問分野を開拓し、同分野を専門とする Wyss研究所を Harvard大学 に設立して、その初代所長を務めた。さらに、Organ-on-a-chip技術や3Dプリンティングなどを扱う7つのベンチャー企業の創業に関与した。同氏の成果は学術分野だけでなく芸術界でも評価され、MoMA等複数の美術館で展示が行われるなど、様々な業界へ幅広く波及している。

NIMS Award とは

2007年度より、物質・材料に関わる科学技術分野において過去数年間に飛躍的な進歩をもたらした個⼈またはグループに「NIMS Award(NIMS Award for Recent Breakthrough in Materials Science and Technology)」を授与しています。

NIMSが特に注力している材料分野を「1.環境・エネルギー材料」「2.機能性材料」「3.構造材料」「4.基礎・基盤技術」に大別し、毎年、順番に顕彰を行っています。受賞者は、対象分野における国内外のトップ科学者から候補者の推薦を受け、中立有識者で構成される委員会により選考しています。

メダルの画像

過去の受賞者

2017
  • Prof. John Ågren

    (Royal Institute of Technology, Sweden)

    “計算熱⼒学の発展と動⼒学計算ソフトウェア構築への貢献”

  • Prof. Bo Sundman

    (Royal Institute of Technology, Sweden)

    “計算熱力学の発展と熱力学計算ソフトウェア構築への貢献”

  • 石田 清仁 氏

    (東北大学, 日本)

    “状態図とミクロ組織の熱力学に基づく構造材料の合金設計と実用化”

2018
  • 佐川 眞人 氏

    (大同特殊鋼株式会社、日本)

    “ネオジム磁石の発明と実用化”

  • 宮﨑 照宣 氏

    (東北大学, 日本)

    “トンネル磁気抵抗素子における室温巨大磁気抵抗の実現とそのスピントロニクスデバイス応用に関する先導的研究”

2019
  • Prof.Gerbrand Ceder

    (University of California Berkeley, USA)

    “第一原理計算に基づくデータ駆動型材料研究の先駆け”

  • Dr.Pierre Villars

    (Material Phases Data System (MPDS), Switzerland)

    “無機材料データベースPauling Fileの開発”

2020
  • Prof.Hiroshi Julian Goldsmid

    (The University of New South Wales, Australia)

    “ビスマステルルの熱電冷却に関するさきがけ研究とその実用による大容量光通信の実現”

  • 河本 邦仁 氏

    (名古屋大学, 日本)

    “環境調和型無機熱電変換材料の開発”

2021
  • 安藤 恒也 氏

    (東京工業大学/東京大学、日本)

    “低次元物質の量子物性に関する理論基盤の構築”

  • Prof.Allan H. MacDonald

    (University of Texas at Austin, USA)

    Prof.Pablo Jarillo-Herrero

    (Massachusetts Institute of Technology, USA)

    “ツイストロニクスによる量子物理に関する先駆的研究”