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何がわかるか

物質、材料の開発における構造解析の重要性

新しい機能をもった物質を開発するとき、通常は次のようなプロセスですすめます。作製、あるいは、合成した試料について、その力学的、化学的、あるいは、電磁気学的な物性をまず計測します。さらに、形状や構造を解析・評価し、その結果を作製、合成条件にフィードバックします。このプロセスを繰り返し、ねらう機能を発揮する物質を創成することを目指します。また、コンピューターの性能が近年飛躍的に向上し構造と機能の関係をシミュレートできるようになりました。つまり、機能計測、構造解析、および計算科学の連携によって、新規機能物質が効率よく創成できるのです。

構造解析:X線と物質の相互作用

X線は物質中の原子の周りの電子と相互作用します。その相互作用の結果、例えば、透過、回折、非弾性散乱、吸収、蛍光、光電子などが生じます。その強度の空間分布、方向分布、あるいは、エネルギー分布などを測定すると、試料の形状、原子サイズでの配列、元素の濃度、電子状態や電子の束縛エネルギーなどを知ることができ、X線をプローブ(探針)として用いて、構造を解析できます。

電子ビームと電子との相互作用に比べX線ビームと電子の相互作用は弱いため、対象となる物質の周辺の環境にあまり依存しないこと、比較的物質の内部に侵入することなどの特徴があります。 X線は波でもあり粒子でもあります。波の回折現象を利用し、その強度の方向による分布を調べることで物質中の原子の並び方を知ることができます。また、粒子性から生じる光電効果により、原子に束縛されている電子をたたき出します。たたき出された電子の運動エネルギーを測定すると、入射X線のエネルギーとの差から電子の束縛エネルギーを調べられます。このエネルギー分布や角度依存性を精密に調べることで、物質中の電子状態や化学結合状態を解明できます。 

なぜ高輝度放射光・X線を構造解析プローブとして利用するのか

  これらの測定では、元々、アルミニウム、クロム、銅、モリブデン、銀、タングステンなどの金属ターゲットに加速した電子をぶつけて発生するX線を利用してきました。その金属ターゲットに応じて異なるエネルギー分布1)が生じますが、そのうち、もっとも強度の大きいエネルギーをふつう用います。現在でも、大学や会社の研究室ではこのように発生させたX線を使っています。

しかし、より精密に物質を調べるには、入射X線がより平行であること、かつ、エネルギー幅がより小さいことが必要になります。加えて、ナノ構造のような超微細な試料を調べるには、強いX線が必要となります。 また、用いるX線のエネルギーを自由に変えられれば、たたき出せる光電子の束縛エネルギーの範囲が広がったり、蛍光を発生する対象となる元素の種類が多くなったりして調べられることが格段に増えます。さらに、磁気特性を調べるのに、X線の電場の振動方向(偏光)をコントロールできると便利です。このような要請があり、新しいX線源として「放射光」が開発されました。光速近くまで加速され、ほぼ円形軌道を周回している電子が磁石によって進路を曲げられたり蛇行させられたりして、放射光は生じます。その磁石の配列の仕方によって、生じるX線のエネルギー分布や強度が決まります。 

放射光施設は世界中にたくさんあります。そのうち、SPring-8は電子軌道の大きさ、電子の加速エネルギーの点から世界最大です。SPring-8ではX線を用いた先端的な種々の方法を駆使し、半導体、金属、無機物、有機物、たんぱく質などの固体や液体の物質やナノ構造が調べられています。このように、放射光は物質、材料研究における必須のツールとなっています。

NIMS高輝度放射光ステーション

SPring-8は、国内外の研究者が利用可能な共用ビームラインと専用施設のビームラインとから成ります(各X線源から試料を調べる装置をビームラインと呼びます)。

NIMSの高輝度放射光ステーションでは専用ビームラインのBL15XU(以下、NIMSビームライン)を利用しています。旧無機材質研究所によって1999年に建設が始まり、2001年からNIMSの物質・材料研究に利用されています。原子配列と電子状態を解析するため、当初は1.2~20keVの放射光を利用し、高分解能光電子顕微鏡、角度分解光電子分光装置、粉末回折計を用いた研究を主なターゲットとしていました。

現在では、硬X線光電子分光法と粉末回折法とを用い、電子状態、バンド構造、化学結合状態、試料の結晶構造、電子密度空間分布、および、原子配列構造を解析しています。高輝度単色X線の入射エネルギーは2.2~36keVの範囲が利用でき、とくに6~20 keVの範囲がよく使われています。

今後は、硬X線光電子分光法と粉末回折法を用いて同じ試料を測定して、総合的に構造を理解することを目指します。さらに、入射X線の偏光制御性やパルス性をいかした測定も展開します。 

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