先端電子材料研究室 | 電子材料としてのダイヤモンドの基礎特性の解明とデバイスへの応用に取り組んでいます。

left: hydrogen plasma in which diamond is synthesized, center: hydrogen-terminated diamond surface, right: an atomic force microscopy image of atomically flat diamond surface

研究成果

ダイヤモンドを使った高移動度pチャネルワイドバンドギャップ電界効果トランジスタの開発

ダイヤモンドはワイドバンドギャップ半導体としての優れた特性を持ち、パワーエレクトロニクスや情報通信での応用が期待されています。

特に、表面の炭素に水素が結合した水素終端ダイヤモンドを使った電界効果トランジスタについて国内外で活発な研究が行われています。

私たちは、通常使われる酸化物の代わりに六方晶窒化ホウ素をゲート絶縁体として使うとともに、水素終端ダイヤモンドを大気に晒さない新しい手法を用いることで、これまでにない優れた特性を示すダイヤモンド電界効果トランジスタを作製することに成功しました。

High-mobility p-channel wide-bandgap transistor based on a hydrogen-terminated diamond/hexagonal boron nitride heterostructure

Sasama et al. "High-mobility p-channel wide-bandgap transistors based on hydrogen-terminated diamond/hexagonal boron nitride heterostructures"
Nature Electronics 5, 37 (2022); SharedIt view-only PDF; arXiv:2102.05982

ダイヤモンド電界効果トランジスタの移動度の制限要因の解明

ダイヤモンド電界効果トランジスタは、パワーエレクトロニクスや高出力高周波増幅などの分野での利用が期待されています。このような応用の際に、電力損失を低減したり動作速度を上げるためには、電流を担うキャリアの移動度が高いことが望まれます。

私たちは最近、六方晶窒化ホウ素をゲート絶縁体(h-BN)として使うことで、高い移動度を示すダイヤモンド電界効果トランジスタを作製することに成功しました。

本研究では、このトランジスタの移動度を決定しているキャリアの散乱要因について、理論計算によって検討しました。h-BNとダイヤモンド界面の荷電不純物が主要な散乱要因であり、これを低減することで1000 cm2V-1s-1を超える移動度が実現可能であることを示しました。

Mobility in diamond field-effect transistors

Sasama et al. "Charge-carrier mobility in hydrogen-terminated diamond field-effect transistors"
Journal of Applied Physics 127, 185707 (2020); arXiv:2001.11831

h-BNをゲート絶縁体として利用したダイヤモンドトランジスタの量子振動の観測

六方晶窒化ホウ素(h-BN)をゲート絶縁体として使ったダイヤモンド電界効果トランジスタを低温・強磁場で測定することで、量子振動(シュブニコフ・ドハース振動)の観測に成功しました。

量子振動の観測には高い移動度が必要で、ダイヤモンドではこれまで私たちによる報告しかありませんでした(下記)。

ゲート電圧によって系統的に振動数が変化することや、抵抗(rxx)とホール抵抗(ryx)の両方に振動が見られることは、今回はじめて観測されました。

本研究の結果は、h-BNをゲート絶縁体としたダイヤモンド電界効果トランジスタにおいて、質の高いチャネルが形成されていることを示しています。

Quantum oscillations in diamond field-effect transistors with a h-BN gate dielectric

Sasama et al. "Quantum oscillations in diamond field-effect transistors with a h-BN gate dielectric"
Physical Review Materials 3, 121601(R) (2019); arXiv:1907.13500

h-BNをゲート絶縁体として利用した高移動度ダイヤモンドトランジスタの開発

劈開した単結晶の六方晶窒化ホウ素(h-BN)は平坦かつ荷電不純物密度が小さく、基板として使うことでグラフェンの移動度を大きく向上させることで知られています。

私たちは単結晶のh-BNをゲート絶縁体として利用することで、これまでにない優れた特性のダイヤモンド電界効果トランジスタを作製することに成功しました。例えば、1012 cm-2台後半の比較的高いキャリア密度において300 cm2V-1s-1以上の高い室温移動度を得ることができました。

h-BNは、1000℃を超える高温耐性があり、室温で銅に匹敵する高い熱伝導度を示します。このため、高温や大電力用途での利用が期待されるダイヤモンドデバイスにとって、理想的な絶縁体材料と言えます。

Diamond field-effect transistor with a hexagonal-boron-nitride gate dielectric

Sasama et al. "High-mobility diamond field effect transistor with a monocrystalline h-BN gate dielectric"
APL Materials 6, 111105 (2018) (open access)

イオン液体を使った電界効果トランジスタの低温での測定手法

イオン液体をゲート絶縁体とした電気二重層電界効果トランジスタを使うと、数ボルトのゲート電圧で1013から1014 cm-2台の大きな電荷キャリア密度を得ることができます。

そのため、物質の性質を大きく変える手段として注目されています。例えば、この手法で電荷キャリア密度を変えることで、絶縁体から超伝導に変化する物質も見つかっています。

このような絶縁体・超伝導転移現象を観測するには試料を冷やす必要がありますが、ここでしばしば問題が生じます。試料を冷却すると、トランジスタが壊れることがあるのです。

低温でイオン液体は凍りますが、接している対象物質との熱膨張係数の違いによってずれ応力が生じ、固化したイオン液体が剥がれるのだと考えられます。

私たちは、対象物質(ダイヤモンド、シリコン)とイオン液体を保持するホルダを工夫し、ずれ応力を抑えられるようにしました。

これによって、効率よく安定に低温での測定ができるようになりました。この手法は、他の物質でも使え、また、対象物質中の電子状態の不均一性を抑制するのにも役立つと期待されます。

Ionic-liquid-gating setup for low temperature measurements

Yamaguchi et al. "Ionic-liquid-gating setup for stable measurements and reduced electronic inhomogeneity at low temperatures"
Review of Scientific Instruments 89, 103903 (2018); arXiv:1806.09863

ダイヤモンド(001)表面の異常な磁気抵抗の発見

電界効果によってダイヤモンド水素終端表面に蓄積したキャリアの磁気抵抗が、表面の結晶方位によって大きく異なる振る舞いをすることを発見しました。

(111)表面では、磁場をかけるとともに抵抗が減少する負の磁気抵抗が見られます。これは弱局在効果によるものだと考えられます。

一方、(001)表面では正の磁気抵抗が見られました。この正の磁気抵抗は、古典的なキャリアの軌道効果による磁気抵抗に比べると桁違いに大きく、磁場の方位にあまり依存しません。磁場を電流と同方向にかけても、大きな磁気抵抗が見られます。

また、磁気抵抗の大きさが低温で温度に大きく依存することを見出しました。特に表面に平行に磁場をかけた場合、磁気抵抗比が(磁場)/(温度)の関数になることがわかりました。この特異な磁気抵抗は、キャリアの軌道効果ではなくスピンに関連する効果だと考えられます。

Anomalous magnetoresistance at the (100) surface of diamond

Yamaguchi et al. "Spin-induced anomalous magnetoresistance at the (100) surface of hydrogen-terminated diamond"
Physical Review B 94, 161301(R) (2016); arXiv:1605.05035

ダイヤモンドの量子振動(シュブニコフ・ドハース振動)の初めての観測

純粋なダイヤモンドは絶縁体ですが、ボロンを高密度にドープすると金属化します。しかし、シリコンやゲルマニウムを金属化する場合に比べて2~3桁も高密度のボロンをドープする必要があります。そのためキャリアの散乱が著しく、移動度の極めて低い金属状態しか得られません。

このため、ドープされたシリコンやゲルマニウムでは1960年代に量子振動が報告されていましたが、ダイヤモンドでは報告例がありませんでした。 (量子振動とは、低温で磁化、比熱、電気抵抗などが磁場の関数として振動する現象です。高移動度の金属で見られます。)

私たちはイオン液体を使った電界効果によって、原子レベルで平坦なダイヤモンド水素終端表面に金属状態を形成し、ダイヤモンドの量子振動を初めて観測することに成功しました。

振動の解析からキャリアの有効質量や散乱時間を求めることができました。また、磁場の方向を変えて測定することで、キャリアが2次元的なフェルミ面を持つことを明らかにしました。

この実験結果は電界効果によって高移動度の金属状態が形成されたことを示し、ダイヤモンドの量子伝導現象研究の可能性を拓くものです。

Quantum oscillations (Shubnikov-de Haas oscillations) in diamond

Yamaguchi et al. "Quantum oscillations of the two-dimensional hole gas at atomically flat diamond surfaces"
Physical Review B 89, 235304 (2014)

電界効果によるダイヤモンドの絶縁体・金属転移

ボロンなどの不純物ドープではなく、電界効果によってダイヤモンドに キャリアを導入し、高温超伝導の発現を目指す研究を進めています。

ダイヤモンドの水素終端表面に、微細加工技術によって電界効果トランジスタを作製しました。特に電界効果トランジスタのゲート絶縁体をイオン液体で置き換えることによって、低電圧で高密度のキャリア蓄積を行うことができました。

下図は、このようなトランジスタの異なるゲート電圧における抵抗の温度依存性を示しています。ゲート電圧が0 Vのときは、温度を下げるとともに抵抗が増大しています。これは絶縁体(半導体)の特徴です。

負のゲート電圧をかけていくと、正孔がダイヤモンド表面に蓄積し抵抗が減少します。-1.6 Vのゲート電圧をかけた場合には、温度を下げてもほとんど抵抗が変化していません。これはダイヤモンドが金属化したことを意味します。

私たちはこのような電界効果によるダイヤモンドの絶縁体・金属転移の観測にはじめて成功しました。

Electric field-induced insulator-metal transition of diamond

Yamaguchi et al. "Low-Temperature Transport Properties of Holes Introduced by Ionic Liquid Gating in Hydrogen-Terminated Diamond Surfaces"
Journal of the Physical Society of Japan 82, 074718 (2013)

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